番外編 Ⅰ.召喚された少女たちの中に神の御使いがいました ー神官長視点ー
この世界オルビス・ティエラは代々、異世界から少女たちを誘拐して魔王を倒してもらっています。
この国の者たちや他国の者たちは異世界から少女たちを誘拐するのには反対なのですが、魔王を倒せる可能性のあるのは残念なことに異世界の聖女しかいません。この世界の者たちで倒してしまおうと考えたのですが、各国の歴史書を各国の代表たちそれぞれが見ても、過去この世界の者たちで魔王を倒したとの記述は見つかりませんでした。
とうとう、異世界から少女たちを誘拐するための魔方陣を描かなければならないという日がやって来ました。
その数日後に、召喚のための複数の魔方陣を使い異世界から少女たちを誘拐しました。こちらに来たのは、四人の少女たちです。
三文小説のご都合主義のごとく、ご友人同士で誘拐されたのだとこの時は、皆が思っていました。
右も左も分からない世界に誘拐された少女たちは、泣き叫ぶことはありませんでした。歴史書の記述によれば、異世界の少女は見目麗しい男たちが好きなのだそうです。念のために、こちらの世界基準で見目麗しい男たちを数人この場にいさせました。聖女は見目麗しい男たちを見て顔を顰め、聖女の近くにいた少女はこの状況を理解しようとし、残りの少女二人は見目麗しい男たちを見て頬を染めていました。どこかしら違和感がありますが、状況を理解しようとした少女の反応が一番まともな反応に見えました。
少女たちは、戦闘の訓練をする二人組とこの世界の文字を習う二人組と、別々の行動をとりました。こちらの文字を学ぼうとする少女のうちの一人エミリーは、本を手に取ると本を開いて読み始めました。なんでも、こちらで使われている世界共通語は彼女のいた世界では『ラテン語』というらしいです。一部の国・地域で使われているのだとか。異世界では、住んでいる場所によって言語が異なるだなんて、少々めんどくさいところだなと思いました。一つの言語にすれば色々便利なんでしょうけど、そうはいかないようです。
聖女は教育係によると、ゆっくりとですがこちらの文字を少しずつ着実に覚えているようです。
戦闘を訓練する二人の異世界の少女は、状況が芳しくないようです。剣を使おうにもすぐ疲れたと不満を言い、魔術にいたっては問題外だと報告が上がっています。
騎士団長によれば、見目麗しい男がいるときは気合を入れて訓練をするのですが、彼らがいなくなると途端に訓練をさぼるようです。
また、魔術がこの世界では使えると知ると自分たちは異世界人補正とかいうもので使えると思い込み、魔術を教えろと騎士団長に詰め寄り、魔術師団へ案内させたそうです。
魔術師団長の報告では、魔術は一応使えるっぽいようですが、魔術の才が全くないということです。基礎を教えようにも教えたことの復習を全くせず、大技を教えろと要求すると言っていました。そして、基礎中の基礎の魔術を見せてほしいと異世界の少女二人に言うと、ヒョロヒョロ~と気の抜けたような音のする火球を出して次の瞬間にはポンッと音を立てて消えたとのこと。リスクがありすぎて、大技なんて教えれる状態ではないそうです。
これから、聖女が魔王を倒す旅をして頂くための同行者選びが始まります。この旅はこの世界にとって重要なため、厳しい基準で選ばねばなりません。ですが、この国の貴族の中でも重要な地位に就く者たち二人が、自分たちの家の二男坊を選べと迫って来ました。困ったことに、政治的な問題でこの家の要求を王様でも拒むことができません。
はっきり言って、王をはじめとした国の重鎮たち(私を含めて)は悩みました。あの家の二男坊の二人は、魔術師団の中でも最も使えないし、権力を振りかざして周りに迷惑をかけていると有名なあの二人なのです。顔だけしか取り柄がありません。本当に顔だけしか取り柄がないのです。初めて会った時の聖女の反応を思い出し、震えてしまいました。
もはや国にとっても、騎士団にとっても、魔術師団にとっても、あの迷惑極まりない四人組を追い出したくてたまりません。聖女とエミリーには大変申し訳ないのですが異世界から来た残りの少女二人組が訓練を終えたと偽って、旅の準備をさせました。
旅の準備のために、まず聖女たちを武器庫に王様自らご案内しました。
エミリーは手持ちの武器があるから大丈夫だと、武器選びを断りました。彼女は、なんとあの『伝説のハリセン』を持っていたのです。歴史書によれば、役に立たない仲間を叩くものだそうです。使い方は詳しく書かれていませんでした。
聖女は鞭を選び、他の二人はろくに使えもしない剣を選びました。驚いたことに、聖女は鞭が手に馴染んでいるご様子です。
この世界の者でも旅は危険なもの。私が彼女たちを心配そうに見ているのを見ていた騎士団長は、あの異世界の少女問題児二人組はともかく聖女とエミリーは大丈夫なので心配しなくてよいと言いました。なんでも、彼女たちは歴戦の猛者と比べても遜色なしだと。あの問題児二人を見る限り、異世界はお気楽な世界だと思っていたのですが、案外そうではないかもしれないですね。
そして、聖女一行の旅立ちの日。
聖女+エミリー+異世界の問題児少女二人+この国の魔術師団の問題児二人で、旅立つことになります。旅立ちを見送る者たちの気分はお葬式状態。絶望的に顔色悪くして集まっています。例外と言えば、魔術師団の問題児を旅の一行に無理やり入れてきた大貴族の二人です。彼らは晴れやかな顔をしています。きっと、自分の息子が聖女一行を守り大活躍すると脳内お花畑思考になっているんでしょうね。救いようのない残念思考です。辣腕と噂される人物の脳味噌ってどうなっているのか、常人には理解しがたいものなのですね。
聖女一行を見送った後、私は神殿に戻り神に聖女とエミリー無事を願いました。そこで、神はこの神殿の祈りの間に降りていて、こうおっしゃいました。
「そういえば、異世界召喚をした子の中に、異世界の神の御使いが混じっちゃった★でも、僕は神様だから大丈夫★」
オィィィィ―――。何が自分は神だから大丈夫だ―――。神の御使いを誘拐してどうするんだよオォォォ―――。神だってやっていいことと悪いことがあるだろ!馬鹿神が!この世界の神は、『神の御使い』の意味を分かってらっしゃらないようです。神の御使いなんて存在は、その世界において重要な存在のはず。こちらで自分勝手に誘拐していいはずはございません。
さらに顔色を悪くする私をよそに、神様は自分がいるべき場所に鼻歌を歌いながら呑気にお帰りになりました。
もはや一刻を争う事態です。王様にこのことを早く伝えねばなりません。私は何の用意もせずに、王城に向かいました。
王様の執務室に通されると、王様と数人の重鎮たちが、落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりしています。私はその様子を気にする余裕もなく、王様に声をかけました。
「王様! 大変なことが判明いたしました」
私の慌てているのを見て、冷静さを取り戻した王様は、
「どうした?神官長。何かあったのか?」
「異世界から誘拐した少女たちの中に、異世界の『神の御使い』がいました」
「なんてことを!!」
王様やこの部屋の者たちはことの重要さを理解し戦慄いたしました。この世界において異世界から少女たちを誘拐することは嫌悪すべきことですが、『神の御使い』を誘拐することは忌避すべきことです。絶対にしてはいけないことなのです。
そのことを知った王様の行動は早かった。王様直属の隠密部隊隊長を呼び、聖女一行の様子を見に行かせました。
まだ一日しかたっていませんが、様子を確認することに越したことにありません。
数時間後に、隠密部隊隊長から伝書鳩を使った連絡がありました。すでに、聖女とエミリーは役に立たない四人組を放置して先に行っていると。そして役に立たない四人組は、『伝説の簀巻き』にされていたと。
四人簀巻きを並べている頭の上には、手紙が置いてあったみたいです。
あまりにも不平不満ばかり言って、使えないのでここに放置していきます。
きっと、これを回収する頃には私と聖女は先を進んでいることでしょう。
追伸.2~3日は目覚めないので、今のうちに軟禁か監禁することをおススメします。
エミリー
とありました。これを読んだ王様は魔術師団を呼び、役に立たない四人組を回収に行かせました。本当に彼らはまだ目が覚めないようです。今のうちに軟禁しろと王様は指示しました。軟禁場所は、魔術師団の使えない二人組の父親たちの愛人との密会場所に使われる人里離れた別荘です。
このことを宰相と一緒に伝えに行きます。あの貴族の元に訪れた時に夫婦で大ゲンカをしていました。なんでもあの貴族二人は、同時に妻に隠れて愛人と密会していたことがばれたらしいです。二人同時に奥方のお説教を受けています。手早く決定事項を伝えなければならないので、奥方には申し訳ないのですがお説教の最中ということを無視して決定事項を伝えました。
奥方二人は泣き叫んだのですが、二人の貴族は自分の不正が宰相にばれたことを知って、顔色を悪くしました。彼らは国に損害を与えるほどのことをし、さらに自分の権力を高めるため、巫女の旅の同行者に自分の息子を捻じ込みました。これは許されないことです。
あの二大貴族は地位を剥奪され、密会に使った広い別荘地に向かいました。
そこには、あの役に立たない四人組もいます。
あの別荘地まで国で没収しないのは、温情ではなく異世界の少女二人を住まわすためです。人里離れれば、周りに迷惑をかけないとの王様の考えです。
これにより、魔王を倒すたびの難易度が減ることになるでしょう。私はそう願います。聖女とエミリーに異世界の神のご加護があるようにと、今日も私と神殿に勤める者たちは神殿の祈りの間で祈り続けるのでした。




