作成途中
薄暗い安宿のベッドでケインは夢を見た。
素っ気のない簡易ベッドはいざ、潜ってみると質感が妙に硬く、安らかに眠れる気はしなかった。
人々が皆、鬼を見たかのように、自分に向かって怯え、震え、襲いかかってくる。
中には金属のパイプ、包丁を持った者もいた。
全員が全員、ケインを罵倒する。
「お前のせいで私達は!」
と。
ケインは嗤う。
「俺のせいではなかった」
と。
その声を聞いた人々の群れは一気に彼に向かって牙を剥く。
ケインの腕は捥がれ、潰される。
数十秒も経たぬ間に、彼の脚は圧し折られ、脚の原型を保たなくなる。
それは胴体も例外ではない。
肋骨が剥き出しになり、内臓が姿を現す。
失った右眼とは反対の唯一の視覚器官であった左眼がその残酷な光景を目に焼き付ける。
しかし、その左眼もすぐに光を失った。
顔はグチャグチャに潰され、もはや、彼が本当に彼なのかすらわからないほどに。
そこで、彼は目を覚ます。
「あ〜…、悪い夢だった。」
寝覚めの悪い朝を迎え、気乗りしないまま、手元の照明に手を伸ばす。
照明に照らされた懐中時計の針は午前4時過ぎを指していた。
ゆっくりと腰を上げ、鏡に映しだされた自身の姿を眺める。
「取り敢えず、グチャグチャにはなってないな」
ケインは苦笑いを浮かべながら、朝食の準備を始めた。
♢
午前6時過ぎ、サッキングブラッドの隊員は全員、東ルリーフの外れにあるジーニアス活火山直下の森林に集合を要請されていた。
無論、指示したのはケインであった。
「あいつ、相変わらず時間を守らねぇな」
グレイズが毒づく。
彼の手にはM16自動小銃が握られていた。
「タイシュ、もうそろそろ、遅刻に対して罰を与えた方が良いのではないだろうか?」
アリシアが無表情で隣の巨漢に尋ねる。
タイシュと呼ばれる初老の巨漢はそれを聞いて上品な笑みを浮かべる。
「何をおっしゃるか、アリシア殿!遅刻は先導者の華でございますぞ!また、ケイン氏を待つ、我々のこの姿も部下の華というものでございます」