大統領の計画
修復完了。
サッキングブラッドの報復をお楽しみください
現実と夢の境界線とは非常に曖昧である。
私達は今起きている事を現実だと錯覚しているだけで、本当の生身はベッドで安眠をとっているかもしれない。
人生とは呆気なく壊れてしまうものだった。
まるで積み上げられた積木が造作なく崩されるようなものと類似しているかもしれない。
例えば苛立ちや疲れ、不注意などから誤って積木に腕をぶつければたちまち崩れ落ち、元ある形をそっくりそのまま再現することが不可能になってしまう。
人生も同じく、殺人、強盗、詐欺、強姦などの犯罪だけでなく、浪人、薬、家族の死などからも今まで歩んできたレールを踏み外し、積み重ねた地位を転げ落ちる事など、容易いものなのだ。
2094年、私達の在住する惑星”地球”では、石油、石炭、天然ガスなどの天然資源が消費され続けた結果、この世から消失した。
その後、電気の需要と供給は大きく変動し、電気の価格は急騰した。
火力発電所は封鎖され、世界では原子力発電所の使用率が80%を占めていた。
世界政府はもはや、リスクや安全性を危惧する程の余裕を残していなかったためである。
それまでは世界の最先端であった先進国アメリカは急激な国銭降下によって経済危機に陥り、また日本も例外でなかった。
政治家であった私も、国の管理システムが機能しない状況では無力であった。
今まで「原発の無い世界」をスローガンに政治活動を行ってきた自分が馬鹿らしい。
「資源がないからしょうがない」理屈は単純且つ明白だった。
当時のアメリカ大統領ルベズール氏はこの恐慌に対してある計画を立案していた。
自分の名をとって「ルベズール計画」と呼んでいた。
”この計画が成功すれば新しい資源が生まれるだろう”
彼はいつもそう言っていた。
彼の計画は2104年に実行段階へと移ることになった。
彼は言った。
”私の計画に狂いはない”
人工資源である”コアアース”の製造が彼の悲願だった。
コアアースとは凝縮されたエネルギーが結晶化したものである。
その結晶は直径5センチ程度の大きさで1000億kWh分(現在日本の電力消費は約100万GWhとされている)のエネルギーを持つとされていた。
本来、一点に集められたエネルギーは凝縮され物質化しようとする。
しかし、凝縮しようと働く力を空気が分散してしまい、実質的にはエネルギーの固形化、つまりコアアースの製造は不可能とされていた。
そこでトルベズール大統領は無重力空間を造り出す事に莫大な支援金をかけ、計画を進めて行った。
だがある時、トルベズール計画に賛同していた男が言った。
「残念だが、その計画に使用する莫大なエネルギー自体がもう地球には残っていないのだ」と。
そこで、ルベズール大統領は言ったのだ。
「ウランの化学反応で生じるエネルギーを使用する」
数多くの賛否両論が飛び交った。
しかし、支持率は尚、6割を上回っていた。
皆、昔の豊かな生活に戻りたかったのだ。
暗闇を明るく照らした街灯。
肌を刺す寒さを包み込むような暖かさで守ってくれた暖房器具。
毒を撒き散らしながらも楽々と車道を進み続ける自家用車。
彼らは、地球を捨ててでも欲しかった。
電気が、生活が、楽が。
そして、2106年に計画が実行された。
太平洋の中心に無重力を造り出す巨大な建造物、通称「塔」を建設した。
そして、塔の内部で莫大なエネルギーを一点に集めたのだ。
集められたエネルギーが途轍もない光を放った時、誰もが思った。
「これでやっと苦しい生活から抜け出せる。」
しかし、ルベズール計画は失敗した。
順調に圧縮されていたエネルギーが突如激しい光と共に塔が崩れ落ち始めた。
そのエネルギーに耐えうる材質が地球には存在しなかったのだろうか、塔はボロボロと形を失っていった。
光は爆発といってもいい程の爆音を轟かせ、周囲を包み込んだ。
原因不明の光は放射線となって世界を襲い始めた。
どうやら、途中までは上手く結晶化していたようだが、無重力装置がエネルギーの圧縮に耐えきれず破壊されてしまった。
倒壊後、辞職を決意した大統領の口からは失敗の原因は大統領補佐官にある、私は決して悪くはない、という言葉しか聞くことが出来ず、彼はその後自殺を図った。
大統領補佐官といえば、計画の第2責任者であった。
大統領の合図とともにスイッチを押したのも彼と資料には書いてある。
彼もまた大統領補佐官辞職後に消息を絶っている