表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

◇1話◇猫被り姫

☆☆☆


 何から話そうか?やはり最初は私の国の話をしようか?


 絹の国と云う。東の歴史有る国だ。

 セリカの名に相応しく、優しく穏やかな空気はまさしく絹の肌触りのようで、季節は常春。過ごしやすく美しい自然。美と香りを楽しませる花を咲かせる木々。その自然の美しさ同様に、雅やかな文化は派手さには欠けるが、歴史に裏打ちされた確かな自負を、貴族だけでなく民が誇るに足るモノだ。


 寧ろ華美な南の文化等は軽侮の対象に近い。端的に云うならば、物柔らかに見えて自尊心が高い国民性、とも云える。


 歴史と美を誇る国。


 セリカの謂れは古く、もはや確かな伝承も失われて久しいが、春の女神アランナが名付けたとも、月の女神リア・リルーラの記憶の泉から生まれた国だとも伝えられている。


 だからだろうか?


 セリカの王族からは、リアに仕える御司が産まれる事が多い。

 側近とも呼べる神司など、他国に生まれる例は千年に一人有れば良い方だ。なのに、セリカでは同じ千年で二名三名を数える記録さえ遺っていた。

 しかも。リアたるリア。リアの中のリア。リア・リルーラに。


 それがどれ程の光栄か、どれ程の名誉か、そしてどれ程に、人として、普通で居られない事か……勿論、女神には解らないだろうし、解るつもりも無いとも思う。


 女神だから仕方ない。

 人に関われば狂うからとか、関係せずに居ようとか、そんな思いやりを見せてくれたり…なんて事は、期待してはならないのだ。


 女神の栄誉に浴する王家。


 私は、その美しいセリカに相応しい、美と知性を誇る姫として育った。

 他国にまで聞こえるセリカの姫の素晴らしさは、私の努力の賜物たまものと云えよう。


☆☆☆


 そんな私にも嫁ぐ日が来た。これ以上比ぶべくも無い好条件。西の大国、クルトの第一王子だ。


 富める国クルト。それだけでも魅力だが、私の美貌をもってすれば、他にも条件の良い相手は選べる。

 彼は第一王子であり皇太子でも有る。そして今現在、の国に他の王子は居ない。クルトの国は王家の力が絶対的で、財も有り余る程だ。そして親族が少ない事は、対抗出来る程の敵が少なく、財の目減りも少ないと云う事でも有る。


 我が国も王家の発言力は強く、民もそれなりに豊かだが、王家の財力は些程ない。

 貧乏と迄は云わないが、有事の際に困らないとはお世辞にも云えない。


 大国クルトの結納金は魅力に満ちて、私の心をの国に惹きつけた。


☆☆☆


 美しい王子の名をヒラリスと云う。妙な名だが、それさえも美しく感じさせる王子の絵姿では有った。例え半分でも、この絵の通りに美しいならば、それなりの愛を育めるだろう。


 私はそう思い、この結婚を選択したのだ。

 勿論。

 私に対する愛は問題ない。他の姫君方とは違い、私の美しさは絵姿に画けるものではないからだ。美で総ては決まらないが、第一印象は大切だろう。


 時に、絵姿と違うと問題になり、国に帰される姫が居る。誰とは云わないが、南国のさる小国の姫がそうだった。嫁ぎ先の我恵那王子とは夜会でご一緒した事が有るが、その時の彼は大層悔しがっていたと聞く。


 彼は、私と彼女の絵姿を比べ見て、彼女に求婚したのだ。


 絵より美しい私を知り、絵に遠すぎた彼女を思い出し、彼は上品とは程遠い罵りを口にしたと云う。


 けれど、その時には既にヒラリス王子との縁談が進み、彼の力でもどう仕様もなかったのだ。容色のみで女を判断する阿呆に、相応しい結末では無かろうか?


 騙される莫迦に居て貰わないと、私の努力の成果が半減するが、ああ迄愚かしい者を見るのもまた不快だ。


 勿論、王族に生まれて、容色に興味を持たないのも困りものでは有るし、仕方ないのかも知れないが………。


 王族にとって、美しさは義務みたいなものだから、当然の様に縁談の相手には美貌が要求される。

 美しさは国の象徴に相応しい。窓口にも相応しい。

 崇めて貢がれる存在としても相応しい。

 尊敬する言動も、美しいなら尚更有り難く感じてくれるモノなのだ。

 王族は美しく在らねばならない。


 容姿も、行動も。


 美は力だ。神に列なるチカラ以外にも、やはりある種の力を持つ。人間のそれは、多少即物的ではあるけれど。


 私の美しさもヒラリス様の美しさも、そう云う意味では非常に役に立つ代物だ。

 セリカにとっても、クルトにとっても、喜ばしいこの婚礼は、十日前に挙げられる筈だった。


 筈、と云う言葉からも解る様に、未だ式は挙げられていない。何故かと云えば、花嫁たる私が盗まれたからである。


 十五日前の私は「明日はヒラリス様にお逢い出来る」と心弾ませて居たところを、悪い魔法使いに掠われたのだ。


 冗談みたいな話だが。

 笑い事ではなく、私にとっては、最大の悲劇である。

 と、思ったら「悪い魔法使い」はヒラリス様の絵姿よりも余程美しい男で、私は少し気を良くした。


「貴女を誰にも渡したくなかったのです。」


 愛を打ち明ける彼の言葉も、心地良かった。だがしかし、どんな甘い声も美貌も、所詮ヒラリス様のもたらす財力には及ばない。


 私が、セリカの姫として、誇り高く貞節に努めたのは云う迄もない事だろう。


☆☆☆



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ