侯爵令嬢ジョゼットは婚約者に嫌われていそう
異世界に転生したけれど、もうダメかもしれない。人生詰んだ。終わり。
自分は侯爵令嬢ジョゼットとして生まれ変わった。けれど、どうやら私は婚約者グレゴワールに嫌われていそうなんだよね。
もはやグレゴワールとの婚約を解消したい気分だ。しかし、政略結婚目的の婚約関係だから、勝手に解消なんかできるわけがない。
「このまま私はグレゴワール様と結婚するんだろうな。そして、冷たい結婚生活が幕を開けるんだろう。グレゴワール様の公爵家へ嫁いだ私は、味方のいない生活を送るのか。ああ、想像しただけで息苦しい」
私は絶望しながら呟いたあと、支度をして馬車に乗り込んだ。馬車の行き先は、社交パーティ会場だった。
今夜のパーティにはグレゴワールも参加している。パーティ内でグレゴワールと会えば、その美しい顔を拝むことができた。
ちなみに、グレゴワールは全く嬉しそうじゃなかった。なんなら、グレゴワールは不機嫌そうに見えた。
「ジョゼット様、お久しぶりです」
グレゴワールは静かに言ってくる。ああもう、グレゴワールは私のこと絶対憎んでいるよ。もっといい相手と婚約したかったとか、グレゴワールは思っているに違いない。
「グレゴワール様、お久しぶりです。お会いできて大変嬉しく思います」
私は笑顔で言ってみた。でも、グレゴワールがあんまり笑ってくれない。つらい。
すると、伯爵令嬢のネリーが、こちらへ近づいてきた。ネリーはニヤニヤと笑いつつ、口を開いた。
「あらあら。グレゴワール様とジョゼット様は婚約関係ですのに、仲が悪いのですか。グレゴワール様にはジョゼット様よりも、もっといい結婚相手がいると思いますわ。グレゴワール様はジョゼット様と婚約を解消して、私と付き合ってくださりませんか。私ならば、グレゴワール様にもっと素敵な体験をさせてあげられますわよ」
ネリーが甘ったるい声で言いながら、グレゴワールにすり寄る。そんなネリーの言動を、私は黙って見過ごした。
だって、ネリーの発言は事実だし。それに、ネリーの伯爵家は、私の侯爵家の重要な商売相手でもある。だから、私はネリーとの関係を悪化させたくない。
そして、なぜかグレゴワールは眉をしかめた。グレゴワールが少し怒っていそうだ。
「僕はネリー様より、ジョゼット様の方がいいと思っております」
グレゴワールがきっぱりと言った。意外な発言だな。
グレゴワールの言葉に、ネリーはあわてた様子だった。ネリーが目を丸くしつつ、口をパクパクと動かし始める。
「そんな。なぜですか。グレゴワール様が理由を教えてくださらないと、納得できませんわ」
ネリーはそう言って、グレゴワールに詰め寄る。すると、グレゴワールはうっとうしそうな表情を浮かべた。
「ネリー様のように無駄なケンカを売って、敵を増やすような方は苦手です。ジョゼット様のように、利益関係を考えて穏やかに振る舞える方が、好ましく見えます」
グレゴワールは咎めるように言った。すると、ネリーは気まずそうに微笑んだ。
「確かに、私はジョゼット様に対して、嫌な気分を味合わせてしまいましたね。ジョゼット様、誠に申し訳ございませんでした」
ネリーは悔しそうに謝ったあと、すぐさま立ち去って消えてしまった。そんなネリーに対して、グレゴワールは目もくれなかった。
なんか気まずい。この空気感どうしようかな。
「グレゴワール様、ご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。ありがとうございました」
とりあえず、私はそんなことを言ってみた。すると、グレゴワールが冷たい目で見てきた。
「ジョゼット様が謝る必要はありませんよ。ジョゼット様と僕の時間を、あんな言葉で邪魔をしたネリー様が悪いのです」
グレゴワールはそっけなく言った。あれ。おかしいな。
まるでグレゴワールが私と過ごす時間を、大事に思っているかのような言い方だった。いや、気のせいかな。自意識過剰かもしれない。
「グレゴワール様のお時間を、私は邪魔していないでしょうか」
恐る恐る聞いてみる。すると、グレゴワールはけげんそうに見つめてきたあと、目をそらした。
「いいえ。ジョゼット様は邪魔ではありません。むしろ、ジョゼット様がいてくれないと困ります」
グレゴワールの声は少しだけ優しく聞こえた。もしかして、私はうぬぼれてもいいのだろうか。
グレゴワールが私のことを案外認めてくれているかもしれない。そんな事実を受けて、私は転がりたくなるほど嬉しくなった。
実際グレゴワールがどう思っているかは、不明なままだった。でも、グレゴワールが私をそこまで嫌っていなさそうなので、やっぱり嬉しかった。




