第一章:抑止力の時代
命の対価 第二章書いてみました。
お読みいただけると幸いです。
◆ 第一章:抑止力の時代
銃声が響いた瞬間、
会場の空気は凍りついた。
大統領スミスの胸に、
赤い花が咲くように血が広がる。
SPたちは即座に動いたが、
誰一人として引き金を引かなかった。
「撃つな!
犯人は“対価”として必要だ!」
エドワードの声が響く。
犯人は取り押さえられ、
地面に押し付けられたまま生きている。
大統領はすでに息をしていなかった。
エドワードは胸元から、
透明なカプセルに封じられた淡い光を取り出す。
賢者の石。
「使用する!」
石が大統領の胸に触れた瞬間、
淡い光が波紋のように広がり──
犯人の身体が、
まるで糸が切れたように静かになった。
同時に、
大統領の胸が大きく上下し、
息を吹き返す。
その目が開いた。
スミスは、
胸を強く殴られたような痛みを覚えていたが、
恐怖も、苦しみもなかった。
(……撃たれた?
いや……違う……
ただ、胸を殴られたような……)
蘇生直後にもかかわらず、
彼の表情には迷いがなかった。
SPに支えられながら立ち上がり、
ステージの中央へ歩み出る。
そして──
右手を高々と掲げた。
「私は無事だ!
暴力には屈しない!」
会場は歓声に包まれた。
泣き出す者もいた。
世界中のニュースが、
この瞬間をリアルタイムで報じた。
世界の反応:賢者の石への絶賛
- 「暗殺は必ず失敗する時代へ」
- 「賢者の石が要人の命を救った」
- 「犯人の命が対価に」
- 「新たな抑止力の誕生」
- 「世界の安全保障が変わる」
SNSでは賛美が溢れた。
「これでテロは終わる」
「賢者の石を全世界に配備すべき」
「日本の技術が世界を救った!」
世界は熱狂していた。
アーク・バイオテック社長室。
巨大モニターには、
大統領スミスが右手を掲げる姿が映っている。
木下浩二は、
その映像を見ながら満足げに笑った。
「やりましたね、社長。
これで賢者の石は世界の標準になりますよ」
太郎は、
ゆっくりと頷いた。
「……ああ。
これで、誰も大切な人を失わずに済む」
言葉は喜びに満ちていた。
しかし、その声の奥には、
微かな震えがあった。
木下は気づかない。
太郎は、
モニターに映る大統領の姿を見つめながら、
胸の奥に小さな違和感を覚えていた。
(……本当に、これで良かったのか?
犯人の命を……
“対価”として奪うことでしか救えないのか?)
しかしその疑問は、
歓声と称賛の波にかき消されていく。
木下が言う。
「社長、これは歴史的な成功ですよ。
あなたの技術が、世界を救ったんです」
太郎は微笑んだ。
だが、その笑みはどこか固かった。
(……救ったのか?
それとも……)
その答えは、
まだ誰にも分からなかった。
お読み頂きありがとうございました。




