表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【常世の君の物語】No.016:幻海 ~応仁の乱の頃、斯波遠江に幻海という名の姫が暮らしていた~  作者: くさかはる@五十音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

第1話:幻海


一筋の涙が、頬をついと流れた。


幻海げんかいは、うっすらとまぶたを開けると、すぅ、と息を吸った。

わずかばかりの明るい光が、瞳の中へと差し込んでくる。

その光は、まぶたにたまった涙の内に反射して、きらきらと煌めいて、この世をあの世のように変えてしまう。


死ぬ時って、こんな感じなのかしら。

幻海はぼうっと、そんなことを思った。


ああ、今日も目覚めてしまったのね。


頬に残る涙の跡をぬぐい、幻海はゆっくりと起き上がった。


「あらあら、姫様、遅いご起床で」

寝所から出てきた幻海を見て、それまで興じていたおしゃべりを中断してやって来たのは、侍女の皐月さつきである。

皐月は、よく太った体をゆさゆさと揺らしながら、幻海が足元に落とした衣を拾い上げてゆく。

「もうお昼どきですよ。すぐに顔を洗ってお化粧をしてしまってくださいまし」

そう言いながら矢継ぎ早に部下に指示を出し、みずからは両手いっぱいに抱いた衣をしまうべく急いでいる。

「皐月、もう少し静かに」

寝ぼけ眼の幻海は、そう言いながら手桶が運ばれてくるのをおとなしく待つ。

その間、手持無沙汰なので、窓の外を眺めてみると、館の内から港が見えた。

いつもの光景である。

今日も大きな帆を掲げた船が、たくさん、この遠江の港に停まっている。

陸地に目を転じれば、ごま粒のように小さな人影が、いくつも上げ下ろしされる荷の間に見える。


いいなぁ、どこから来たんだろ。

これからどこに行くんだろ。


ぼんやりと、そんなことを考える。

つめたい秋風が、館の内を吹き抜けてゆく。


くしゅん。


と、幻海は小さく、くしゃみをした。

戻ってきた皐月は目ざとくそれを見つけて、

「ぼーっと窓際なんかに座っているからですよ。さあさ、さっさと顔を洗って、お化粧を済ませておしまいなさい」

見ると皐月の後ろには、手桶や化粧道具を携えた侍女が控えている。

「はぁい」

幻海は大きく一度、あくびをした後、彼らに向き直り居住まいをただした。


「ねぇ、皐月」

布で顔を拭きながら、幻海が呼びかける。

「なんでございましょう、姫様」

皐月の小さな目が、まんまるに開く。

「午後は城下へおりてみない?港の方へ足を伸ばしてみたいの」

「あらあら、またですか?港へ行ってはたらく男衆を見て、一体何が楽しいんだか。せっかく焚き染めた衣に潮の香が移ってしまうだけですのに」

皐月はふくれ面をつくって言う。

「いいじゃない。あなたも、少しは動かなくてはちっとも痩せなくてよ」

「まぁ、姫様ったら」

館の内に、笑い声が起こる。


時は文明元年。京の都は、後に「応仁の乱」と呼ばれる大戦の真最中であり、ここ斯波の館の城主も参戦していた。

季節は、稲刈りの時期を迎えていた――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ