第4話 見知らぬ訪問者
「はぁ…私、これからどうなるのよ…
おばあちゃんは、居てくれるんだよね?」
「どうだろうね?まぁ、何かあったら声をかけなさい。
とりあえず、この世界を楽しんでみなさい。」
「楽しむって言われても…」
「私はいつでも奥の部屋にいるから。
困ったことがあれば、言いに来なさい。」
「うーん…分かった…。分かんないけど。」
今のこの状況で、一人でいるなんて考えられなかった私は、
おばあちゃんに「ここにいてくれるよね」と懇願した。
すると、奥の部屋にいるからと優しく言ってくれて、私はホッと胸をなでおろした。
この場所で一人で暮らさなくてもいい。それだけでも安心だった。
「ひとまず、お風呂に入っておいで。沸かしてあるから。
着替えは置いておいてあげるからね。」
「ほんと?!それはめっちゃ嬉しい!」
少しだけ安心していたところに、おばあちゃんからの“お風呂”の提案。
服もお風呂もどうしようと思っていたから、まさにナイス!と思いながら、
浴室へ向かうと、湯気が立ちこめる暖かな空気が私を包み込んだ。
体を洗って湯船につかると、昨日だけで一気にたまった疲れが、じんわりと溶けていくようだった。
「今日から、どうやって暮らせばいいんだろうなぁ…」
首まで湯船に浸かりながら、これからのことを考える。
答えが出るわけない。怪奇現象とも呼べる意味不明な状況だし、何をすればいいのかも分からない。
ただただ、不安だけが募って、体を重くさせていくだけだった―…
◇
「いいお湯だったよー!って、あれ?」
お風呂から上がり、髪を乾かしながらキッチンに戻ると、
さっきまでいたはずのおばあちゃんの姿がなかった。
別の部屋にいるのかと思って探してみたけれど、どこにもいない。
“いつでもいる”って言ってたのに、もうどこかへ行っちゃったの?
そう思っていると、大きな時計がある広間の方からガタンッ、と音が聞こえた。
「なんだ、いたのー?」
そう声をかけながら広間へ向かうと、そこには見知らぬ二人の男性が立っていて、私は思わず固まった。
一人は黒髪が長く、まるで女性のような雰囲気。
もう一人は私よりも幼く見える、可愛らしい顔立ちの青年。
…って、感心してる場合じゃない。
これは不法侵入では!?マズい!
内心パニックになっていると、幼顔の青年が焦りながら長髪の青年を止めに入った。
「やっぱりやめようってば!不審者だよ、俺たち!」
「大丈夫だって!
ねぇ、君はここに住んでるの?」
「え?」
「いつもはこの屋敷、暗いんだけど、今日は電気がついてたから。
まさかドアが開くとは思わなくて、勝手に入っちゃったんだけど…」
「ごめんね、勝手に入っちゃって…。止めたんだけど、聞かなくて。」
「いえ…」
幼顔の青年は焦った様子で長髪の青年を止めていたけれど、
長髪の青年はお構いなしといった様子で、私に話しかけてくる。
普通なら、すごく嫌な感じだし、怖いと思うはずなのに、
なぜか、そこまで恐怖は感じなかった。
とはいえ、この状況でどうすればいいのか分からずにいると、
長髪の青年は再び「ここに住んでいるのか」と問いかけてきた。
何て答えるのが正解なの?
そう思いながら、しばらく考えた末に、私は、ぽつりと言葉をこぼした。
「…分かんないんです。」
「え?」
「分からないんです….。気づいたらここにいて。
東京だし…何でって…考えても分からなくて…」
「分からないって…もしかして、迷子?」
「はは…かもしれません。
この屋敷、おばあちゃんが住んでるんですけど、
今は住まわせてもらってる感じです。昨日からなんですけど…」
「ええっ…?そうだったんだ…」
迷った末に出てきた言葉は「分からない」だった。
自分でもこの状況が分からないのに、どう説明すればいいのかなんて分からない。
私がそう言うと、長髪の青年は悲しそうな顔をした。
幼顔の青年も、困ったように口を一文字に結んでいた。
何も言えないよね。私だって、何を言ったらいいのか分からないし。
そう思っていると、長髪の青年が突然「あっ!」と声を上げて、手を叩いた。
「ねぇ、今日時間ある?よかったら俺たちのライブ、見に来ない?」
「え?ライブですか?もしかして、音楽されてるんですか?」
「そう!それで、今日これからライブハウス行って、リハーサルして本番なんだけど。
行くところがないなら、俺たちと一緒においでよ!」
「ちょっと!急にそんなこと言ったら迷惑だよ!ねぇ?
無理に付き合う必要ないからね?」
長髪の青年が突然言い出したのは、どうやら音楽の話。
今日はライブがあるらしくて、音楽好きな私の心は、少しだけ揺れた。
どうしようかと迷っていると、幼顔の青年が「無理しなくていいよ」と優しく声をかけてくれた。
その言葉に、私はふと気づいた。
この人たち、悪い人じゃないかもしれない。
私の直感が、そう言っていた気がした。
「ライブ…観たいです。私、音楽がすごく好きで…」
「本当?!じゃあ行こうよ!もうすぐ車が出るから、一緒に行こう!」
「ごめんね?本当に迷惑じゃない?大丈夫?」
「大丈夫です…!ちょっと凹んでて…。元気ほしいなって思ってたので。」
「そっか!じゃあ、俺たちの音楽で元気になれるといいな!」
自分の直感を信じて、ライブを観たいと伝えてみた。
すると、長髪の青年はパッと表情を明るくし、
幼顔の青年は心配そうに、ちょっと困ったような笑顔を浮かべて私を見つめていた。
その二人の笑顔は、どちらもとても優しくて。
私は、少しだけ心が軽くなった気がした。
「よし、じゃあ準備が出来たら行こっか!」
「はい!よろしくお願いします!」
突然の訪問者に驚いていたはずの私。
でも、その訪問者が優しくしてくれたから。
どんな音楽をやってるんだろう?
どんな楽器を使ってるんだろう?
どんなライブハウスなんだろう?
そんなことを考えているうちに、私は少しだけ、心が軽くなり楽しみになっていた―…




