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第21話 ほんの少しの高鳴り

私たちが軽食を頬張っている間に、LUMEのリハーサルが始まった。

お世辞にも良い声とは言えず、さきほどのやり取りのダメージが大きかったんだろうなと思い、少しだけ申し訳ない気持ちになった。


続いて始まったのは、蒼ちゃんと涼ちゃんがサポートメンバーとして出演するバンドのリハーサル。

さすが場慣れしているだけあって、まるで最初からこのバンドに所属していたかのような自然な演奏だった。


いつもは5組ほどでライブを進めていくけれど、今日は珍しく3組しか出演しない日。

数が集まらない時は運営側が別の日にブッキングすることもあるけれど、今回は蒼ちゃんと涼ちゃんがいるから、それなりにお客が入ると踏んだらしい。

私は蒼ちゃんたちに言われるまで、今日来ることを知らなかったんだけどね…。


そして3組目のバンド Miseriaミセリア は県外から来るバンドで、遠征の際にはいつもこのライブハウスを使ってくれる貴重な存在らしい。

今回はそのバンドをトリにして、長めにライブをしてもらうことに決まった。

涼ちゃんたちのあとに始まったリハーサルは、バンド名とは裏腹にポップス寄りの音楽で、自然と体でリズムを刻んでしまう。

ああ、リハっていいよねぇ。

本番とはまた違う雰囲気で演奏していて、演者さんもラフな感じで楽しんでいるのが伝わってくる。



「楽しそうにしてるね。」


「涼ちゃん!ねぇ、楽しそうだよねぇ。いいよねぇ。」


「違うけど!沙也音のことだけど。」


「え?あ、私?なんかリハって良くない?ライブとはまた違う感じがして。

って、このバンドさん見るの初めてなんだけどさ。」


「まぁね。分かるけどさ。」



作業を中断してリハーサルを見学していると、飴玉を口にしながら涼ちゃんがやってきた。

「楽しそうにしてるね」と言いながら、どこか不服そうな顔をしている。



「…なに?何か言いたそうですねぇ涼ちゃん。言ってごらんなさい?」


「何だよそれ。別にない。

っていうか今日終わったらご飯食べに行くから、仕事終わるまで待ってるから。」


「あれ?そういう約束だっけ?」


「そうだよ!分かった?」


「あはは、分かった分かった。」



涼ちゃんは顔に出やすいから、機嫌の良し悪しがすぐ分かる。

でも、この時は何に対して不満なのか分からなかった。

ちょっとからかうように言うと、唇をムッとさせたあと、勝手に食事の約束を取り付けられてしまった。

私の知っている“画面の向こうの涼ちゃん”とは違う態度に、知らない一面を見せられた気がして胸がキュンとなった。

その感情に驚いた私は、誤魔化すように蒼ちゃんの名前を出した。



「そ、蒼ちゃんも来るの?」


「…多分。」


「はは、ちゃんと誘っておきなよー?拗ねるよー?」


「…俺が拗ねるわ。」


「え?何か言った?」


「何でもない!じゃあ、約束な。」


「はいはーい。」



自分の感情じゃないようなドキドキを覚えていた。

だから蒼ちゃんの名前を出したけれど、途端にまた涼ちゃんの機嫌が斜めになった気がしてならなかった。

今日は涼ちゃんのいろんな表情を見ることができて、何だか楽しい。

一瞬キュンとなったことは、とりあえず心の隅に置いておこう。

そう思いながら、私は会場の準備に精を出していた―…









あれから時間はあっという間に過ぎ、開場、そして開演の時刻となった。

1番手のLUMEは演奏自体はバッチリだったのに、美緒ちゃんは終始凹んだ様子。

メンバーが一生懸命盛り上げようとしていたけれど、呼んでいた友達も戸惑うほど、あからさまに元気がなかった。


気持ちは分かる。すごく分かるけれど、ステージに一歩立った瞬間から演者になるその切り替えがまだ出来ないんだろうな。

まぁ、私が色々言ってしまったのも原因の一つだから、何とも言えないけど…。

そう思いながら最後まで見守り、蒼ちゃんと涼ちゃんがサポートするバンドの演奏を見届け、最後の県外から来た Miseria のライブを一番後ろから観させてもらった。


ライブ慣れしているバンドは盛り上げ方も上手くて、知らないバンドなのにすごく楽しい。

私もこんなふうにライブが出来ていたら、もっと長く音楽を続けられたのかな?

そんなおかしなことを考えてしまった。未練がましいのかな、私。



「ありがとうございましたー。足元に気を付けて出てくださいねー。」


「沙也音ちゃん!今日もすごく楽しかった!また来るね!」


「わぁ!嬉しいっ!待ってます!いつもありがとうございます!

気を付けて帰ってくださいね!」


「うん!じゃあ、またね!」



ここ最近、こんなふうに私にも声をかけてくれるお客さんが出来た。

思えば、自分がライブハウスに通っていた頃はスタッフさんに気を遣うなんて出来ていなかった。

だからこそ「また来るね」と言ってもらえるだけで、こんなにも嬉しいんだと実感していた。


「沙也音ちゃん!どうだった?俺たちのライブ!」


「あ、Miseriaの皆さん!お疲れ様でした!

とっても盛り上がったライブでしたね。Miseriaさんの音楽、私すごく好みでした!

またNeon Arkに来てくださいね!」


「嬉しいねぇ。あ、今日はこれから打ち上げなんだけど仕事何時まで?待ってるから一緒に来ない?アユミちゃんも一緒に!」


「ごめーん!私、明日の朝早いから難しいや…また次来た時に誘って!」


「そっか。残念!じゃあ沙也音ちゃんはどう?」



来てくれていたお客さんをすべて送り出したあと、後片付けをしていた時にMiseriaの皆に声をかけられた。

アユミと私を打ち上げに誘ってくれたけれど、アユミは明日用事があるからと断った。

もちろん私も涼ちゃんと蒼ちゃんとご飯に行く予定だから断ろうと思っていたところ、楽屋から蒼ちゃんと涼ちゃんが挨拶にやってきた。



「今日はお疲れ様でした。久しぶりにライブ観られて良かったです!」


「蒼くん、涼介くんもお疲れ様。まさかLumiyじゃないバンドで会うなんて笑っちゃった。これから打ち上げ行くの?」


「ねー。打ち上がりたいのは山々なんですけど、俺ら明日も仕事なんで、これからサーヤと3人で飯食って帰ります。ね?サーヤ。」


「そうなんです。なので、皆さんゆっくり打ち上げを楽しんでくださいね!お誘いありがとうございました!」


「そっかそっかー。残念!俺たち年内にもう一度来られそうだから、その時は是非一緒に打ち上ろうぜ!」


「ありがとうございます!」



私が断る前に蒼ちゃんがご飯の話題を振ってくれたおかげで、角が立たずに断ることが出来てホッとした。

そんな中、蒼ちゃんは涼ちゃんに向かって「貸しだから。ね?涼ちゃん。」と言い残し、お手洗いへ。


…何の貸し?そして何故涼ちゃん呼び?と思い首を傾げると、涼ちゃんは明らかに動揺していた。

目をキョロキョロ泳がせ、唇をキュッと噛みしめている。

それ、どんな反応?

ちょっと可愛すぎるんですが。

心の中でそう思いながら、片づけと点検を済ませるために動いた。


何だか今日はえらく疲れちゃったなぁ。まさかの出来事続きだった…。

だけど、ほんの少し。ほんの少しだけ羨ましい。

あそこまで夢中になれる恋が出来ることが、私には少し眩しくて、羨ましいと思えていた―…

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