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第20話 思いやり

会場に戻ると美緒ちゃんの姿はなく、私たちに気づいたアユミがこちらへ歩み寄ってきた。

そして、小さな声で私に美緒ちゃんのことを問いかけた。



「さっきさ、美緒ちゃんだっけ?泣きそうな顔して戻って来たんだけど、何か知ってる?」


「う…いや、実はさ…」



美緒ちゃんの様子がおかしかったというアユミに対し、一応報告をしておこうと思い、先ほど起きた出来事を話した。

すると、驚いた表情を見せたあと「若いなぁ」と笑い始めたアユミ。

やっぱりサッパリしてるなぁ、アユミは。そう思いながら、自分の判断が正しかったのか問いかけた。



「でもさ、もっと言い方あったよねぇ…“二人が引いてるから”だなんて…結構酷いこと言っちゃったかなぁ。」


「いやいや、事実じゃん!特に涼介と蒼はそういうの昔から本当に嫌いだからね。

今まで同じようなこと何回もあったけど、全部“興味ないから”って突っぱねてたし。」


「まぁ、そうなんだろうけど…19歳相手に言葉は選ぶべきだったかも?」



自分の言い方がいけなかったかもしれないと口にすると、アユミは「そんなことない」と首を横に振ってくれた。

それでも何となくモヤモヤしていると、アユミはさらに言葉を続けた。



「沙也音は優しすぎなんだって。

私だったらもっと現実見せちゃうけど!若いからって何でも許される訳じゃなくない?

ましてや自分の想いばっかりで相手のこと全然考えてないじゃん!

ただ自分の思い通りにしたいだけでしょ?

それに、Lumiyを好きになったのは本当かもしれないけど、今の感じだと“Lumiyと付き合うことで自分のステータスを上げたいだけ”に見えるけど?」


「なかなかキツイことを言うねぇ、アユミ。」


「事実だから!それに、本当に好きなら、あの子たちが真剣にやってる音楽を“付き合うための手段”だなんて堂々と言わないよ。」


「まぁ…そう、ね。」


「音楽が遊びでもなんでもこっちは構わないけどさ。

恋愛対象として見てる相手の知り合いに向かってそんなこと言う時点で、ガキだって言ってんの。

…ねぇ、聞いてるよね?美緒ちゃん。私、怒ってるからね。」


「え?」


「あ…」



アユミはまるで自分のことのように怒ってくれて、私よりはるかにしっかりした考えを持っていることに驚いた。

だけど、言っていることは正しいと思う自分がいる。

言い方は強いけれど、私もそんなふうにちゃんと言えたら良かったんだろうな…。


そう思っていると、アユミは私から視線を逸らし、楽屋の入り口に向かって言葉を発した。

驚いて振り向くと、そこには唇を噛みしめ、何か言いたそうにしている美緒ちゃんの姿があった。

これはマズイ。修羅場になっちゃう!

そう焦っていると、私とアユミより先に、蒼ちゃんと涼ちゃんが動いた。



「美緒ちゃん…だっけ?ああいうの、もうやめてね。」


「え…」


「俺、嫌いなんだよね。人の気持ち考えられない子。」


「ちょ、蒼ちゃん!言い方!」


「もっと違う方法あったんじゃない?」


「わ、私はただ…」



蒼ちゃんは、私やアユミの言葉よりもはるかにキツイ言葉を美緒ちゃんにぶつけた。

若いから勢いで何でも言ってしまうのかもしれないけれど、聞いているこちらはハラハラしてしまう。

そう思っていると、涼ちゃんが静かに言葉を続けた。



「音楽、楽しい?」


「え?」


「さっき、ちょっとだけ話したんだけどさ。

他のメンバーは“すごく楽しい”って言ってたよ。

君の歌声が好きだから、それに合う曲を作るのがめっちゃ楽しいって。

…それ聞いてどう思うの?」


「…それは…」


「考え方を改めた方がいいよ。今のままじゃ人を傷つけるだけ。

あとさ…俺、沙也音やアユミが年上だから話が合わないとか、そういうのは無いから。

やめて?勝手に想像して喋るの。」


「…っ」



涼ちゃんは普段、相手を責めるような言葉を軽々しく口にするタイプじゃないと思っていた。

だけど、怒る時はちゃんと怒る人なんだと初めて知った瞬間だった。

って感心している場合じゃない。これ以上言ったら美緒ちゃんが泣いてしまう。

そう思い、私は慌てて間に割って入った。



「あ、あの…二人ともその辺にしなって…ストップ!終わり!

あのね、美緒ちゃん。今はいろんなことに夢中になると思うんだよね。

それは悪いことじゃないよ。けど、相手がいるってことは、相手にも感情があるってことを忘れないようにね。


それと、恋をするってこと自体は悪いことじゃない。

いろんな感情を知ることができるし、それが楽しかったり苦しかったり。

そういう経験が、美緒ちゃんのこれからの人生の糧になったりするんだよ。

…って、説教臭くてごめんね。」


「……」


「さてと、小腹が空いたので食べますか!アユミも一緒につまもうよ。」


「いいのー?じゃあお言葉に甘えて!」



何を言っても説教臭く聞こえてしまうし、猪突猛進な美緒ちゃんには響かないかもしれない。

それでも言わなきゃいけないと思ったのは、彼女のためだけじゃなく、私自身にも言い聞かせているのかもしれない。

そう思いながら、美緒ちゃんから離れて皆で端のカウンター席に移り、軽食を食べ始めた。



「沙也音、落ち込んでない?大丈夫?」


「え?何で?」


「ほら、沙也音より自分の方が相応しい、みたいな言い方されてたじゃん。」


「あはは、涼ちゃんてばそんなふうに受け取ったの?違う違う!

あれはねぇ、若さを武器に一生懸命手を伸ばした結果なのよー。

私でも言っちゃうかもしれないな。大好きな人が自分より年上の人のことを見てたら、

“同世代の方が話も合うでしょう?”って。」


「…本当にそう思う?」


「昔はそうだったかも。けど今は別に気にしてないかな。

上でも下でも、価値観が合う人っていると思うからさ。本人同士が相性いいならそれで十分じゃない?」



涼ちゃんたちが買ってきてくれたサンドイッチとジュースを頬張りながら、そんな話をした。

涼ちゃんは私が暴言を吐かれたことを気にしてくれていたみたいだけど、私は特に何とも思っていなかった。

ああいうのは、よくあることだしね。

それに、今の自分の価値観でいけば、別に気になることではないから。



「確かにー!さすが沙也音!いいこと言うね!」


「あはは、そう?」


「やっぱりー!相性って大事だよねー!それが合えば年上だろうが年下だろうが関係ないって私も思うよ!」


「アユもサーヤも大人だねぇ。」


「お姉さまと呼んでも良いぞ蒼よ!」


「遠慮しまーす。あ、これ美味しい。涼介も食べてみて。」


「あ、うん。ありがと蒼くん。」



自分の気持ちを言葉にすると、アユミもその考え方に賛同してくれた。

蒼ちゃんは「大人だね」と笑っていたけど、私は全然大人じゃないと思っていた。

偉そうに美緒ちゃんにはああ言ったけれど、今の私より美緒ちゃんの方がよっぽど恋愛してキラキラしているなぁと思ったから。


私の恋は、あの日から止まったまま。

いつか、誰かが止まった針を動かしてくれたらいいんだけどな…。

そんな淡い期待を胸に抱きながら、もう一度サンドイッチを頬張った―…。


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