第17話 当たり前になりつつあるよ
「結局どうなったの?」
「んー…キスまでしたけどダメだった。」
「…え」
「ジン君に好きな人が出来てさ。年上の女性で、でも片思いで。
その相談を受けるようになった時に、“思い通りにいかなくてしんどい”って言われて。
“大丈夫だよ”って話を聞いていたんだけどね。
『沙也音は何でも分かっててムカつく』って…チュッてされて、ギューッて抱きしめられて…。でも結局それだけだった。」
「何それ…最低じゃん。」
「そう…だね。でもあの頃は“もしかしたら”って思っちゃった。
それからも相談を受けたり、一緒に遅くまでいたりしたけど、結局そのまま。
私もバンドを辞めて就職したから時間が合わなくなっちゃって。
気づいたら会うこともなくなっていってさ。たまにライブのお誘いメールはくれてたんだけど、時間が合わなくて行けなくて。
ある日、突然“結婚した”って周りから聞かされて大泣きした。しかもあの頃好きだった人とは別の人でね。まぁ、更にショック。
それが私のあの頃の恋愛。おしまい!それからは一切してないよ。」
「ええ…何それ…後味悪すぎだろう…嫌いだなぁ…」
あの頃の片思いの結末を伝えると、涼ちゃんは明らかに怒った表情へと変わった。
まぁ、確かにそうだよね。キスしたり抱きしめたりしておいて、結局自分は他の人に夢中って。普通に考えたら腹立つ話だ。
当時のバンドメンバーにも「やめときな」って何度も言われたっけ。
その時のメンバーと同じ顔をしている涼ちゃんを見ていると、この人は本気で怒ってくれているんだなと思えて、少し嬉しくもあった。
「若かったんだよね。その人の言葉と行動に一喜一憂して、だけど幸せだった。
でもね、今はあの頃よりも幸せかもしれない。」
「そうなの?」
「うん。突然この時代に連れてこられた時は、とてもじゃないけどそんな風には思えなかった。
“何で私がこんな目に遭わなきゃいけないの”って。
だけど、あの日春くんと涼ちゃんがあの屋敷に来てくれた瞬間から、私の生活に花が咲いたんだよ。
最初はウキウキしたミーハー根性だったかもしれないけど、皆に触れて、周りの人たちの優しさにも触れて…“こんな自分でも必要としてくれてるんだ”って思ったらめっちゃ元気が出てさ。
今までの生活ももちろん大切だったけど、今この瞬間の生活がすっごく生きがいだと思えるんだよね。」
「そっかー。じゃあいいや。うん。」
「何がいいの?」
「何でもない!他の曲も聴いてもいい?」
「いいよ。ちょっと待ってね。」
あの頃と今を比べても仕方ない。だけど私は、今この瞬間がとても大切だと思えていたから、素直にそう伝えた。
すると、なぜか一人納得したように頷く涼ちゃん。
よく分からないけど、機嫌が良くなったみたいだし…まぁいいか。
そう思いながら、聴きたがっていた私の曲を聴いてもらい、とても穏やかでのんびりとした時間を過ごした。
やっぱり不思議だな。涼ちゃんと過ごしていると本当に落ち着く。
推していたアーティストだからとか、そういう理由じゃなくて、昔から知っている人といるような感覚。
この不思議な感覚は私を癒してくれるから、可能な限り失いたくない。
そう思わずにはいられなかった―…。
◇
「あれ?曲聴いて話してたらあっという間にお昼だ。」
「本当だ、ご飯どうしようっか。コンビニかスーパー行く?」
「そうだねー。何か作ろうか?冷蔵庫、開けても大丈夫?」
「いいの?って言っても最近適当ご飯だったからあんま何もないかも。
買いに行く?」
「そうしよっか!」
楽しい時間っていうのは、いつの時代もすぐに過ぎていく。
気づけばもうお昼の時間になっていて、二人で昼食を作るためにスーパーへ買い物に出かけることにした。
何だかこういうの、同棲してるみたいで楽しいかも?
そんなことを思いながら玄関のドアを開けて下に降りると、ちょうど車に乗り込もうとしている春ちゃんたちに遭遇した。
「サヤ、涼介と一緒にいたの?」
「うん。今日は私の曲を聴かせてほしいって言うから来てたんだよね。」
「え?何それ俺たちも聴きたいんだけど!」
「ええ?聴かせられるほどの曲なんてないからー。
それよりも今からご飯を買いに行くんだから!ね?涼ちゃん。」
「そう。俺たちはこれからお昼の材料を買いに行くのです!じゃあね。」
「俺たちもだよー?それなら皆で行こうよ。決まりー!」
「…そうなの?」
どうやら春ちゃんたちも昼食を買いに出かけるところだったらしく、流れで皆で行くことになった。
その瞬間、涼ちゃんの顔がほんの少しガッカリしているように見えて。
「大丈夫?」と覗き込むと、私の頭をクシャッと撫でて「大丈夫だよ」と笑った。
うん、その笑顔は反則です。
なんて一人キュンとしながら皆で昼食を買いに向かい、車を走らせて15分ほどでスーパーに到着。
食材を買って作るか、レンチンで食べられるものを買うかで悩んだ末に、昼食はそれぞれが好きなものを買い、なぜか夜ご飯を皆で作ろうという話にまとまってしまった。
この人たち、どうしていつも一緒に行動しちゃうんだろう?
女子同士でもここまで一緒にいることって少ない気がするんだけどなぁ…。
でも思えば、今でも週に2、3回は誰かの家に集まっているって言ってたっけ。
Lumiyの絆って本当にすごい。まざまざと見せつけられた気がしていた。
「ごめんね?なんか巻き込んじゃって。」
「ううん?全然大丈夫だよ。でも、本当に仲良しだよね皆。」
「はは、よく言われるんだよね。不思議なんだけど、何かあればすぐに集まってんの。俺が入る前からこんな感じみたいでさ。
でも全然嫌じゃなくてさ。一緒に居るのが当たり前みたいな、家族って感じ。」
「そっかぁ。でもいいよね。そんなふうに思える仲間が側にいるって。
時代と共に人との付き合い方も淡泊になりつつあるからさ。
そういう中でも、一緒に笑ったりできる相手って貴重だと思うんだよね。」
「沙也音は遠い未来の世界を見てるから、説得力あるかも。
…俺はさ、一緒に居るのが当たり前になりつつあるよ。沙也音のことも。」
「え?」
「涼介ー、お願い!これ持ってー。」
「あ、うん。今行くー。」
Lumiyの仲の良さについて話していた時、改めて思った。
ここまで変わらない関係でいられるのは本当に羨ましいし、尊敬できる素敵な絆だなって。
そう思っている時、涼ちゃんは少し小さな声で何かを言った。
でもちょうど車が通って、その言葉はよく聞こえなかった。
聞き直そうとしたけれど、涼ちゃんは春ちゃんのところへ行ってしまい、結局何を言ったのか分からないまま。
私の名前を呼んでいたような気もしたけど…まぁ、何でもいいか。
今日はすごく楽しい。それだけで十分。
そう思いながら私も皆の元に駆け寄った―…




