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第14話 涙溢れた瞬間

「いよいよ今日だね。緊張してる?」


「私がやる訳じゃないのにね?何か変に緊張しちゃってる。」


「はは!俺も今日はちょっと緊張してる。ほら。」


「わっ!本当だ。ちょっと震えてる涼ちゃん。」



春夏秋冬のアレンジ作業を終えてから1週間。

今日はいよいよライブハウスツアー最終日の土曜日。

リハーサルを終えて楽屋にいた時、不意に差し出された涼ちゃんの手は、ほんの少し震えていた。

春くんたちも、いつもより表情が硬いように見える。

やっぱり初めて披露する楽曲をやる時は、こんなふうに緊張するものなのかな。

そう思いながら、この2ヶ月を振り返った。


今日のワンマンライブで、Lumiyの大きなツアーが一区切りを迎える。

少し寂しい気もするけど、この2ヶ月で私の知らない時代の各地を巡ることができて、本当に楽しかった。

それに、私にとって一番の収穫は、皆との距離がぐっと縮まったこと。

明日の休みには、涼ちゃんと初めて二人で遊ぶ約束もしている。

そんな約束ができるほど仲良くなれたことが、心から嬉しかった。

春くんたちとも遊ぶ予定はあるけれど、二人きりで遊ぶのは涼ちゃんが最初。

そう思うと、今から胸が高鳴って仕方なかった。



「時間あるからスーパーに昼飯行かない?」


「あー賛成ー!」


「行こう行こうー!」


「え?私行ってくるよ!皆は今日は主役なんだから!何食べたい?」


「はは、サヤは頑張り屋だねぇ。でもいいんだよ。

こういうのは皆で行くのがいいの。ほら、行くよー。」


「わっ!ちょっと春くん引っ張らないでよー!」



午前中に軽いリハーサルを終えたこともあり、昼食を買いに行こうという話になった。

私が「行くよ」と手を挙げたけれど、春くんは「皆で行くのがいい」と言って、私の手をクイッと引っ張ってエレベーターへ向かった。

強引なんだから…と思いつつ、そういえばこの人たちはいつも皆で行動するのが好きなんだよね、と気づいて笑みがこぼれた。


ふと涼ちゃんを見ると、少し不機嫌そうに見えた。

さっき緊張してるって言っていたし、何か考え込んでいるのかもしれない。

そう思いながらエレベーターに乗り込み、1階へ降りた。



「俺、牛丼食べたいなー。」


「俺はラーメンかな?」


「焼き飯食べたい!」


「俺オムライスー。」



近くのスーパーへ向かう途中、それぞれが食べたいものを口にしていた。

けれど、後ろを歩いていた涼ちゃんだけは、なぜか元気がなくて。

私はスッと後ろに下がり、涼ちゃんの隣に並んだ。すると、ほんの少しだけ口角が上がった気がした。



「どしたの?涼ちゃん。」


「別にー…ご飯、何食べる?」


「んー。あ、カレーとか食べたいかも。」


「いいね。俺もそうしよっかな。」


「サラダも買っていい?あ、でも食べられるかな。」


「じゃあ、分け合って食べようか。」


「賛成ー!そうしよ。」



何が原因だったのかは分からないけれど、ひとまず機嫌が直ったようで安心した。

もしかしたら、お腹が空いていてご機嫌斜めだったのかもしれない。

そんなことを思いながら、涼ちゃんと一緒に店に入り、昼食のカレーとサラダを選んだ。


…今日はどんな日になるんだろう。

きっと最高の夜になることは間違いない。

でも、自分の曲を演奏した時の反応を考えると、やっぱり少し怖い。

それでも、自分にできることはちゃんとやろう。

そう心に言い聞かせながら、開演の時を待っていた―…。









あっという間に時間は過ぎていき、いよいよツアーファイナルを迎えた。

開演前からすでにファンの人たちが外に集まり、中には「県外から来たよ」と声をかけてくれる人までいて、今回のツアーでLumiyの知名度が確実に上がったのだと実感していた。


ここがNeon Arkということもあり、私はスタッフとしてバタバタと動き回っていた。気づけば開場時間、そして開演時間になっていた。

初めて観た時は最前列という贅沢な席だったけれど、今日は一番後ろ。

だけど、Lumiyを含めファンの皆が最初から楽しそうに笑っているその瞬間を見られることが、とても嬉しかった。



「やっぱり皆の笑顔、大好きだなぁ…」



そう思った時には、こっそりスマホを取り出して数枚撮影していた。

あとで蒼ちゃんたちに見せよう。そう思いながら。



「皆の支えがあってこそ、今日までのライブが成功したと思います。本当にありがとう!俺たちは本当に幸せ者だって思います!」



今日の春ちゃんのMCは、いつもよりも優しかった。

それは、私があちらの時代で観てきた優しくてあたたかい言葉の数々を思い出させるものだった。

驚いたけれど、きっと元々こういう温かい言葉を贈れる優しい人だったんだろう。

その春ちゃんの言葉に、怜たちも静かに何度も頷いていた。


ねぇ、ここから少しずつ、デビューへの扉が開いていくんだよ。

今よりもっとたくさんの人たちに、その言葉が届く日がくるんだよ。

その瞬間を一緒に迎えられたらいいな。そう心から願っていた。



「今日はね、1曲新しい曲をやっちゃおうと思います。

この曲はね、俺たちにとってこれからとても大切な曲になること間違いなし。

初めて楽曲提供してもらった曲です。

昔から俺たちを知ってくれてる人は『あれ?イメージ変わった?』って思うかもだけど…

こういう曲も俺たちはこれから増やしていくつもりです!」



春ちゃんがそうMCを始めた瞬間、甲高い歓声と拍手が響いた。

新曲が聴けるという喜びの声と拍手なのは間違いない。だけど、その大きさが私をどんどん緊張させていく。

…あ、何だか胃が痛くなってきた…。



「それでは、聴いてください。

春夏秋冬―」



曲前のMCが終わり、照明が切り替わり、蒼ちゃんのイントロが流れ始めた。

私がやっていたあの頃と同じイントロが始まると、ドクンッと胸が高鳴った。

そして、スタジオで何度か聴いたはずの春ちゃんの歌声が響いた瞬間、私の心にズシンッと突き刺さり、鼓動が速くなり、涙が溢れた。


それはLumiyが私の曲を演奏してくれたからなのか、理由は分からなかった。

だけど、歌詞の一つ一つが春ちゃんの声を通して心に響き、涼ちゃんたちの演奏がその想いをさらに大きくして届けてくれている。

そんな気がしてならなかった。



「皆…ありがとう…」



涙を必死に拭いながら小さく呟いた言葉。それが精いっぱいだった。

過去に飛ばされ、わけの分からない状況の中で、こうして出会えた。

それだけでも幸福と呼べるのに、自分が生み出した楽曲をたくさんの人たちに届けてもらえる瞬間に立ち会えるなんて…。


この歌の歌詞にあるように、

いつか夜空の星になる時、

僕は思うだろう

出会えて幸せだったと

今この瞬間、心からそう思えていた―…

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