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第13話 ぽかぽかする気持ち

平日は仕事、そして金曜日の夜になるとライブハウスのある地方へと出発。

そんな生活が始まった。

私は平日はNeon Arkで働き、週末はLumiyに同行して一緒にセッティングをしたり、マネージャーのような役割を担いながら、楽しい日々を送っていた。


その間にメンバーとの距離はどんどん縮まっていき、2ヶ月が経つ頃には、私がずっと呼んできた呼び名で自然に呼べるほどになり、すっかり敬語も使わなくなっていた。

この頃には「Lumiyのメンバーだ」ということで変にドキドキすることもなくなり、友達のような感覚へと変わっていった。

もちろん、自分の好きな曲を演奏する場面では、どうしても色々と考えてしまうこともあったけれど、それでも毎日はとても充実していた。


そして屋敷では、時々おばあちゃんと一緒にご飯を食べることも増えてきた。

その時に私の今の生活の話をすると、おばあちゃんはとても嬉しそうに耳を傾けてくれて、まるで本当の祖母のように感じられることもあった。



「沙也音ちゃんも随分と表情が柔らかくなったねぇ。」


「周りの人たちに恵まれてるからだと思う!

そうじゃなきゃ、この時代で生きていけないよ…。

でも、未だに何で自分が過去に飛ばされたのか分かんないんだけど…」


「そうだねぇ。魂がそのうち反応するだろうから大丈夫だよ。

今はこの時代で精一杯頑張っておいで?」


「魂、ねぇ…。よく分からないけど、でもやれるだけ頑張ってみるね!」



夕食を囲みながら、そんな会話を交わした。

おばあちゃんと屋敷が私を選んだ理由なんて、あれからずっと考えていたけれど、結局分からないままだった。

考えれば考えるほど答えは遠ざかっていくようで、いつからか考えるのをやめてしまった。


おばあちゃんは「魂が反応する」と言っていたけれど、その意味もまだ理解できない。

だから私は今、この時代を一生懸命歩いていく。それしか出来ないと思う。

こんなふうに前向きに考えられるようになったのも、やっぱり周りにいてくれる人たちのおかげだろうなと思うから。

だから、自分に出来ることは何だってやりたい。

そう思いながら、おばあちゃんとの食事を心から楽しんでいた―…。







「サーヤ!スマホ貸してー。」


「はい。蒼ちゃん。相変わらず好きだね、スマホ。」


「おもろい。」


「充電器ここにあるから、減ったら差しておいてね。」


「オッケー。」


「何故か充電器が使えてラッキーだったよ。時代に関係ないのかなぁ。」


「どうなんだろうな?でも俺は使えてラッキーだよ。」



今日は朝からNeon Arkのすぐ近くにあるスタジオにこもっていた。

というのも、私の「春夏秋冬」を本当にライブでやると言い始め、ワンマンライブの最終日であるNeon Arkで初披露するらしい。

そのための曲の確認作業とアレンジ作業に追われていた。


そもそもこの曲はバンドで演奏していたこともあり、アレンジ自体は終わっていた。だからあとはLumiy風に変えるだけで、正直私は必要ないと思っていたのに、何故か一緒にスタジオに入っていた。



「ここのアレンジいいよね。だからここは活かして…」


「イントロとアウトロの基盤は変えたくないよなー。」


「ここのベースラインそのまま使っちゃおっと。」



蒼ちゃんがスマホに夢中になっている間、皆は黙々とアレンジ作業を進めていて、何だか自由だなぁと思いながら眺めていた。

最初こそ蒼ちゃんはスマホで写真を撮りまくったり、オフラインでも使えるアプリで遊んでいたけれど、突然スイッチが入ったのか、スマホに入っている原曲を聴きながらギターを持って弾き始めた。


こんな状況の場にいても私は何もできないんだよなぁと思い、飲み物でも買ってこようと一度スタジオを出て近くの自動販売機へと向かった。



「えーっと…春ちゃんと怜はブラックコーヒーでしょ。

蒼ちゃんは緑茶で、音馬はコーラね。で、涼ちゃんは…」


「俺もコーラね。」


「あれ?涼ちゃんどうしたの?」



皆の飲み物を1つずつ買いながら、最後に涼ちゃんの分を選ぼうとした時、後ろから声がして私がボタンを押す前にピッと自分で押された。

振り向くとそこには涼ちゃんがいて、私が持っていた缶を全部受け取ってくれた。



「1人で行かなくていいのに。声かけてくれたら俺、一緒に行くんだから。」


「だって忙しいでしょ?こういうのは私の役目でしょ?」


「そうかもしれないけどー。でも、俺も行くからさ。」


「あはは、ありがとうね涼ちゃん。」



涼ちゃんは、私が1人で出て行ったのを見て追いかけてきてくれたらしい。

気を使って駆けつけてくれるのは嬉しいけれど、作業の邪魔にならないように出てきたのに本人が来ちゃったら意味ないじゃない。

なんて思いながらも、そういう優しさは素直に嬉しかった。



「早くライブでやりたいなぁ。」


「好きになってくれてありがと、涼ちゃん。

あの曲は元々バンドでやったことあるけど、Lumiyの皆がやると全然違うものになるんだろうな。

あとね、涼ちゃんが私の考えたベースライン、そのまま採用してくれて嬉しい!」


「あれは変更する必要ないなーって思ったから。

それにさ、沙也音の曲って何か心にズシンッてくるんだよ。

他の曲も前に聴かせてもらったけど、どれも好きでさ。

今度の休みにゆっくり聴かせてよ。ちゃんと聴きたいんだ。」


「うん、いいよー。私の曲ならいくらでも聴いてくれて。」


「やった。じゃあ、楽しみにしてる。」



スタジオに戻る道中、曲の話をしていると涼ちゃんから「ゆっくり聴きたい」と言ってもらえて、胸がじんわり温かくなった。

2025年の世界では音楽投稿サイトもなくなってしまい、曲を作ることもなくなっていた。

だから、こういう感情になるのは本当に久しぶりだった。


「好き」と言ってもらえるだけでも嬉しいのに、「ちゃんと聴きたい」と言ってもらえることが、こんなにも幸せだなんて。

それに、涼ちゃんと過ごす時間が、何だかとても癒しだと感じている自分がいた。

その感情は久しぶりに味わうポカポカした感覚で、思わずクスッと笑ってしまうくらい嬉しくて。

ちょっとくすぐったいけれど、心地いいこの空間にずっと居たい。

そう思い始めていた―…

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