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第12話 二人で話した時間

「沙也音ー!そろそろ受付に立ってくれるー?」


「分かったー!今から出るねー!」



Lumiyと出会ってから、もう1ヶ月ほどが経った。

あれから私は、メンバーの皆がアユミさんに事情を説明してくれたおかげで、Neon Arkで働かせてもらえることになった。

同い年だからと「タメ口で呼び捨てでいいよ」と言われ、慣れるまでに1週間もかかってしまったけれど…。

アユミは本当に気さくで、そのコミュニケーション能力に私は何度も救われていた。


それにしても、ライブハウスで働けるなんて夢のようだなぁ。バンドをしていたあの頃を思い出す。

Lumiyみたいになりたかった自分がいたり、地元の先輩バンドに憧れて、いつの間にか憧れが「好き」に変わっていたり。

それも今では全部がいい思い出。


そして今度は、大好きなLumiyのサポートをさせてもらえるようになった。

また一つ、大切な思い出が増えた瞬間だった。



「沙也音ちゃん!」


「あれ?涼介くん!どうしたんですか?」


「いや、ちょっと仕事が早く終わったからさ。

今日ワンマンするバンド、仲いいから観に来たんだ。」


「そうなんですね!

私、Winlayウィンレイ観るの初めてなんで、とっても楽しみなんです!」


「いいバンドだよー。俺たちと同時期くらいに上京してきたバンドでさ。

何かあれば結構一緒にやってたんだよね。」



ライブハウスが開場するのに合わせて受付をしていたところに、涼介くんがやってきた。

出演するバンドと仲がいいから来たらしいけど、春翔くんたちも来ると言っていたような…。

本当に仲良すぎなのは、この頃からだったんだなと実感する。


そして、Winlayとも昔から仲良しだったという話は本当だったんだと、ひとり納得していた。

このバンドはLumiyより少し先にデビューしたバンドで、今でも人気は変わらない。

ただ、私が知った頃にはすでに活動休止していて、メンバーはソロ活動をしていた。

だから、こうしてバンド形態でのライブを観るのは初めてで、とても興奮していた。



「好きだね、音楽。」


「はい!でも一番好きなのはLumiyの音楽です!それは断言できます!」


「あはは!それは嬉しい。ありがとね。

あ、仕事終わったらご飯食べに行く?」


「いいんですか?」


「もちろん。じゃあ今日は一緒に食べに行こっか。」


「はいっ!仕事頑張りますね!」



ライブが楽しみで胸を弾ませていると、涼介くんはクスッと笑って「好きだね」と言った。

だから思わず「Lumiyが一番好き」と答えると、涼介くんはあははっと大きな口を開けて笑ってくれた。


そして、一緒にご飯を食べに行こうと誘ってくれて、ドクンッと胸が高鳴った。

大好きな涼介くんと会話できているだけでも奇跡なのに、食事に誘ってもらえるなんて本当に夢じゃないんだろうか?と、思わず心の中で呟いてしまう。


だけど、皆と過ごすようになってから、私が追いかけていた時に抱いていたLumiyへの気持ちが少しずつ変化していることに気づいた。

最初はミーハーというか、「若い頃の皆に会えて嬉しい!」って単純に思っていた。

でも今はそういうのを抜きにして、それぞれの人生を応援している感じ。


メンバー一人ひとりと接することで知らなかった部分を知ることができて、このバンドが大きくなれた理由が分かった気がしていた―…











ライブ後―



「いよいよ明日からライブハウスツアーですね。」


「土日だけのツアーだけど、休みなく動くことになるからハードな旅になりそう。

沙也音ちゃん、大丈夫かな?」


「大丈夫です!今の私は年中無休で何かしていたいですから!」


「はは、そっか。でもしんどくなったら言うんだよ?」


「はい!ありがとうございます、涼介くん。」



Winlayのライブが無事に終わったあとも、涼介くんは私の仕事が終わるまでカウンター席で待っていてくれた。

春翔くんたちとも話していたけれど、彼らはWinlayの打ち上げに呼ばれていたので、メンバーと一緒にNeon Arkを出て会場へと移動していった。

涼介くんも誘われていたけれど、「沙也音との予定が先だから」と断ってくれたのが聞こえてしまい、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが入り混じって胸が熱くなった。


そんな中、明日から始まるツアーの話題になり、色々と語り合った。

今回は週末を利用してのツアーで、平日の仕事のあとに休みなく動くことになる。

それが2ヶ月も続くのだから、終わる頃にはきっと疲れ切ってしまうだろう。

だけど、初めてツアースタッフとして参加できるし、この世界に来て右も左も分からなかった時に手を差し伸べてくれたLumiyの皆のために頑張りたい。その気持ちの方がずっと大きかった。



「沙也音ちゃんはバンドやってたんだよね?ツアーとか経験はあるの?」


「まさか!私は高校生の頃に初めてライブハウスのステージに立って、20歳くらいでバンド活動は終わっちゃいましたから。

だからそれからは趣味の一環でパソコンとかスマホを使って曲を作って、投稿できる場所にアップしていた感じです。」


「今の俺たちには考えられないな…。蒼くんみたいに詳しくないから、何言ってるのか全然分かんないけど…

あ、今その曲聴けないの?」


「ええ?一応…自分でいつでも聴けるようにはしているけど…イヤホンがないからなぁ…。

小さい音で流すので耳に当ててください。」


「分かった。」



音楽の話になると止まらない涼介くん。

私のバンドの歴史を聞いたあと、「曲は聴けないの?」と目を輝かせて言うものだから、断ることができなかった。

仕方なくスマホを取り出して小さな音で再生すると、涼介くんは次第に体を揺らしながら聴き入っていた。

恥ずかしいなぁ。こんな形で自分の曲を聴かれるなんて…。

心の中で「早く終われー!」と叫びながら数曲流すと、ようやく満足したようでスマホを返してくれた。



「涼介…くん?」


「めっちゃ良かった!すげぇ好き!」


「!!」


「勿体ないなぁ!これが世に出ないなんて!優しい曲ばっかりなのに!」


「あはは、ありがとうございます涼介くん。

涼介くんにそう言ってもらえるだけでもう満足です。」


「もっと自信持った方がいいって、沙也音ちゃん!

…ねぇ、また聴かせてくれる?」


「私ので良ければいつでも!」


「ありがとう、沙也音ちゃん。なんか楽しいね。」



涼介くんがこんなふうに盛り上がっている姿を見るのは、この1ヶ月で初めてだった。

若い頃のライブ映像では、あまりはしゃぐイメージがなかったけれど、実はこんなふうに沢山笑って楽しむこともあるんだ?そんな新しい発見をした瞬間だった。

しかも、その瞬間を見られたのが自分の曲を聴いてもらった時だったなんて、嬉しすぎる。


胸がキュンと鳴って、特別な時間を過ごしていることを強く感じた。

この1ヶ月は慣れない時代と仕事でとても大変だったけれど、アユミや涼介くんたちがいつも励ましてくれたから、何とかやってこられた。

だから、やっぱり私はこのツアースタッフとしての仕事を全力で頑張りたい。

そう思いながら、涼介くんとの時間を心から楽しんでいた―…。

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