6話 初めての戦闘 ユタの森③ ハイ・ゴブリン
●黒皇 セリア・フォア・ラムザ視点
(...あの威力、素晴らしいな...)
先ほど、カムラが放った一撃は黒皇たちが居た場所からでも、確認できた。
「...そんなに壊さなくてもいいだろうに...」
ギークは呆れた顔だ。
『バンッ!』
いきなり音が響きわたる。
背後から飛んできた槍が、兵士が展開するシールドに弾かれた。
槍が飛んできた方向を皆が凝視する。
「...今の威力、ゴブリンじゃないね...」
ギークのその言葉を肯定するように木の裏から他のゴブリンより二回りは大きい巨人が現れる。
「おやおや、困ったな。これは予想外だ...」
ギークはその姿を見て、困惑した。
そこにいたのは、ハイ・ゴブリンだったのだ。
「兵たちよ!防御陣形!」
ギークが声を上げると、兵士たちがギークとラムザの前方に横陣を敷く。
「ラムザが居る前で、情けない姿は見せれないよね...」
ラムザを横目で見ると、前へ歩みでる。そして、ギークは右手をハイ・ゴブリンへ向ける。
「...”腐食”」
ハイ・ゴブリンが溶け出した。
「グヲオオオォォォ!???」
ハイ・ゴブリンが腐食の痛みから声を上げる。
「どうだい?自分の体が腐っていくのは...私の領地に侵入するとは、万死に値する。」
ギークは冷たい視線をハイ・ゴブリンへ向ける。
「グヲオオォ...オオォォ!!!!????」
ハイ・ゴブリンは腐食した足を無理やり再生させ、突撃姿勢を取る。
「...やれやれ、往生際が悪い...」
ギークは先ほどとは違って左手をハイ・ゴブリンへ向ける。
「...死ね。”爆破”!」
その瞬間、ハイ・ゴブリンが盛大に吹き飛ぶ。
『ドドドンン!!!?!?!』
「うお!!??」「なんて威力だ...」
兵士たちはギークが起こした爆発の爆風を必死に耐えていた。
爆炎が晴れると、ドロドロに溶け、体の一部が残ったハイ・ゴブリンがいた。
「...なかなか臭いな。さて、カムラは終わったかな?」
ギークは笑顔で言い放った。
●カムラ視点
「...あそこにいるな。」
カムラは戦闘をしながら、ボスを探していた。
そして、ひと際大きい魔力を持ったモンスターを捉えていた。
「...”チャージ”...」
カムラは剣に魔力を込めながら、上空へ飛ぶ。
「終わりだ!『ブンッ!』」
剣をボスがいると思われる場所へ向け、降る。
その瞬間、衝撃波が地上へ向けて放たれる。
(終わりだ!...)
カムラはこの瞬間にボスを倒したことを確信した。
しかし、衝撃波は地上へ届かなかった。
何故なら、衝撃波が地上からも放たれたのだ。
『ドンッ!!!!!!』
二つの衝撃波は空中でぶつかり大爆発を起こす。
「...何だ?」
カムラは地上に降り立ち、周囲を確認する。
「さすが騎士様。お強いですね。」
衝撃波が放たれたと思われる場所から声がした。
「...何者だ?...」
「私の名前などどうでもよいでしょう?
私の目的は達したのでお互い退きませんか?」
砂塵が晴れ、煙の中からフードを被った人物が現れる。
「...退くわけないだろう。お前のような危険人物をみすみす逃すことはない!」
(...私の衝撃波を相殺できる力がある存在を野放しにはできん...)
「はぁ、面倒ですねぇ。”グラビティ”!」
直感からカムラは後ろへ飛ぶ。
その瞬間、カムラの居た場所が大きくへこんだ。
「...よけますか。これを...」
(...危なかった。あれに当たれば即死だった...)
へこんだ場所を見てみると、直系3メートルほどが円錐状にへこんでいた。
へこむというより、抉れたに近い状態だった。
(見えない攻撃を待ち続ける必要はない!”チャージ”!...)
剣に魔力を込めながら、足を踏み込む。
瞬間的に、相手の近くまで近づいたが相手もまた剣で応戦する。
「私とやりあっても、意味ないですよ!」
「それはお前を捕えてからゆっくり確認する!」
剣を交わしながら二人は高速で移動する。
「...面倒ですね...”グラビティ”!」
その瞬間、カムラは自分の体に巨大な岩が乗っているような感覚になった。
「グゥゥ...!?重いぃ!?」
「どうですか!私の力は!」
(これは...重力か...どうりで見えないわけだ...)
敵のいる周辺から約10メートル範囲がすべて重力圏内になっており、地面がへこんでいる。
「さて、終わりにしましょう!殺しはしませんのでご安心ください!」
フードの男は右手をカムラに向ける。
「では、また会いましょ『ドンッ!!!』...」
「...油断しすぎだ。」
カムラは男が言い終わる前に剣を突き出したのだ。
その結果、男の居た場所からその後方までを衝撃波が襲う。
重力が解除されたようで、カムラは立ち上ることができた。
「あまりにも軽薄だ。今の私の攻撃は”ブースト”×”チャージ”の掛け算...
跡形も残らんぞ...」
男がいたであろう場所を見ながら、カムラはそう呟く。
その言葉を肯定するように、周辺の森を吹き飛ばし、地平かなたまで続いていた。
「...さて、戻『ドスッ』...は?」
「あまりにも無防備ですね?」
腹から剣が生えていた。
咄嗟に背後を向く。そこにはフードを被った奴がいた。
「グハッ...なぜ...」
「なぜとは、なぜ生きているという質問ですか?
答えはですね、これです!」
敵はマントを脱ぐ。
「なんだ...それは...」
カムラは激痛で意識が飛びそうなのを堪えながら、言葉を吐く。
「これは我々が開発した魔導具なんですよぉ!」
コートの下は上裸であったが、特徴的なのは左胸に不気味な目があったことだ。
「素晴らしいでしょう?
これは”イービル”!
あんたら攻撃力が強すぎるからその対策です!
なんと物理攻撃を無効化できちゃいます!
すごいでしょう?すごいでしょう!?」
(...物理攻撃無効...なんて、ものをもってやがる...いや、作ったのか...)
男は興奮するのを抑えられないようで顔が赤くなっていた。
フードの下には金髪の髪。筋肉隆々の体。顔中ピアスの男だった。
「それでは!また会いま『ドンッ!!!!』...今度は何ですかぁ?」
金髪の男が言い終わる直前に、火炎があたりを覆った。
(...これは!?...”爆破”!?)
カムラはすぐに、この炎が主、ギークのものであることを看破した。
(...ギーク様、申し訳ございません...お手煩わせてしまいました...)
「...やれやれ、私の騎士が帰って来ないと思ったら、誰だね君は...」
「おや?おやおや!?
これはこれは、辺境伯様にお会いできるとは!光栄の極み!?」
男は逝った目をしながら、顔を紅潮させる。
「...しかし、辺境伯様ともあろう方が一人で行動されるなど...不用心では?」
男は急に真顔になり、ギークを睨む。
「アハハ、確かに不用心だ。だがね、何か勘違いしているようだが...君はすでに包囲されているよ?」
「...!?」
男は周囲の森の気配を探る。
自身の魔力を広範囲へ放出することで敵を探る方法、探知。
それを行った。
その結果、周囲の森にはすでに兵士たちが潜伏し、包囲していた。
「...これは、驚きですねぇ。私にバレないように包囲を敷くとは、さすがの練度です...」
「お褒めに預かり光栄だが、君はここで捕まえさせてもらう!。”腐食”」
男の足元が溶け出し、毒素を噴き上げる。
男は咄嗟に後ろへ飛び、何とか回避する。
「...君は魔力密度が高いようだ、腐食させれなかった」
「即死攻撃なんてずるいですねぇ...やられるところでしたぁ...」
「...腐食できないなら、”爆破”!」
炎が男を飲み込む。
「危ないじゃないですかぁ!?」
上空から声がする。
「私は戦う気はないんですよぉ!?”グラビティ”!」
ギークの周囲が大きく凹む。
「ほぉ、重力か...いい重さだ。だがね、まだまだ軽い。」
「な!?」
男は普通に立っているギークを見て、驚愕する。
「なぜ立てる!?」
「うむ。軽いから?」
ギークは涼しげに言い放つ。
「では、私の番だ。”爆破”」
『ドドドドドドドドドッ!!!!!』
「グハッ!!!???」
上空にいる男の周囲を連続する爆発が襲う。
「どうだね、小さめの爆破は。
地味に痛いでしょ。」
男は何が何だかわからず、全方位からくる爆破に成すすべがなかった。そして、
数十秒後、男は気を失い地面に倒れ伏していた。
ギークの両手には、”魔導紋”が刻まれている。
魔導紋とは、契約した”概念”の能力が使えるもの。
契約すると体に模様が刻まれる。
あまり契約しすぎると精神汚染が進行し、死ぬ。または、体を乗っ取られる。
ギークは右手に”腐食”の概念、左手に”爆破”の概念と契約をしている。




