5話 初めての戦闘 ユタの森② カムラ視点あり
●黒皇 セリア・フォア・ラムザ視点
ゴブリンの死体は確かに粉みじんだ。
しかし、この存在には生きるための”魂”がなかったのだ。
(何だこれは...輪廻の輪から外れた存在ではないか...)
この世界はデウス・ルーラによって作られたもの。
大地も、空も、海も、果ては魂も。
あらゆる存在は死んだら輪廻の輪に戻る。
そして、生まれ変わるのだ。
しかし、このゴブリンにはそういったものがなく、抜け殻に過ぎないのだ。
「...何だこれは...」
「...あってはならん...」
「...あってはならんのだ...このような...不純物は...」
黒皇は父が作りし、完璧な世界を汚されたことに怒りを滾らせる。
「敵襲!数10以上」
索敵していた魔導士がまた声を上げる。
「方角は?」
「全方位!囲まれてます!数増えてます!」
「何!?」
カムラは魔導士の報告に驚愕していた。
「囲まれるような素振りは無かったが...」
「...カムラ。落ち着きなさい」
「!?...ハッ、申し訳ございません。ギーク様...」
父、ギークからの言葉に我に返るカムラ。
「冷静に対処しよう。隊列を維持。全方位に向けてシールド展開。
魔導士はそのまま索敵を継続。随時、数を報告しろ。」
「「「ハッ!!!」」」
ギークは普段のキャラからは想像できないような冷静さで対応していく。
(...さすがだ、我が父ながら冷静だな...しかし、数が多いな...)
黒皇の索敵には優に1000を超える個体が補足されていた。
索敵の範囲は個人差があり、一般的な魔導士の索敵範囲は精々100メートル。
しかし、黒皇の索敵は1キロ以上の範囲を優に補足できた。
(...この世界を汚す蛆虫が...)
黒皇には、モンスターはすでに世界を汚す害虫としか映っていなかった。
「来ます!」
「ギャア!」「グええ!!」「グルウゥゥ!」
モンスターが木々の間を抜けて飛び出してくる。
「シールド全開!」
カムラが怒声のごとき声を上げた。次の瞬間、
『ガガガッ!!』
兵士が展開するシールドに勢いよくモンスターが激突する。
そして、前列の態勢が崩れた。
「今だ!突け!」
カムラのその指示のもと、兵士たちは手に持つ槍をモンスターへ突き出す。
「グハッ...」「ブシュッ!」「ドチャッ...」
突き出された槍はモンスターの命を容赦なく奪う。
「全部ゴブリンか...」
カムラは戦闘を凝視しながら冷静に分析する。
確かに、数は多いがゴブリン程度では簡単には崩れない。
「閣下。このままでは消耗戦です。この群れを率いるボスを討伐しましょう。」
カムラは背後で騎乗するギークに近寄り、提案を持ち掛ける。
「うむ。だが、今は大事な息子であるラムザがいる。危険は犯せん...」
「承知しております。故に私に討伐の許可を頂きたく...」
カムラは馬から降り、ギークに跪むく。
「...わかった。許可しよう...10分だ」
「ハッ!ありがたく!」
その瞬間、カムラは魔導を発動する。
カムラが装着する鎧は全身が魔導武具だ。
「”ブースト”!」
その瞬間、カムラがゴブリンの群れの中へ突撃した。
*ブースト”身体強化”
魔導武具。魔力を消費し、身体能力を向上させる。
『ドンンッッッ!!!』
カムラが突撃した方向は、土煙とゴブリンの死体を巻き上げていた。
『ドンッ!!!』『ドガンッッ!!!』
断続的に上がる轟音が兵士たちを鼓舞する。
「おおお!カムラ様ああああ!」
「お前ら気張れええええ!!!!」
兵士はお互いに鼓舞し、士気は跳ね上がる。
「やれやれ、困ったものだ。カムラも”騎士”なのだからそろそろ自重してほしいものだ...」
父、ギークはそういうものの、どこか嬉しそうだった。
●カムラ視点
(このまま進む!!!)
カムラには、主であるギークからの命令は絶対である。
その為ならば、命さえ厭わない、それがカムラ。
『ドンッ!』『バキンッ!』
カムラが持つ、刀の一振りが数十のゴブリンを一撃で粉砕する。
(...ッチ。数が多い...)
殺した数よりさらに多いかゴブリンが視界を遮る。
「なら、”チャージ”!」
*チャージ”威力上昇”
魔導武具。魔力を消費し、剣の攻撃威力を上げる。
カムラが持つ、剣が発光しだす。
「一撃だ...『ブン!』」
カムラが剣を横に振り抜く。
次の瞬間...
『ドガガァァンンン!!!!...』
轟音が響きわたる。
前方の大地が抉れ、木々が吹き飛ばされていた。
「...これで、減ったか?...次だ」
カムラは先へ進んでいく。




