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俺は勇者だ  作者: ごっち
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第10話「王様について(後編)」つづく

 第10話「王様について(後編)」



 城で行う面倒な手続きはこれで完了した。あとはラスボスをぶち殺すまで自由行動だ。


 とりあえず、さきほど大臣の所から取ってきた麻袋を確認してみることした。貰った物はすぐに確認したくなるたちなのだ。


 麻袋の中身をぶちまけると、いろいろなコインで出てきた。


 廊下の隅の方でウンコ座りをしながら、種類別に並べると、10G金貨が5枚、5G銀貨が6枚、1G銅貨が20枚、計100Gあった。


 他に何か入っていないか袋を裏返して調べてみると、紙きれが1枚ひらひらと落ちてきた。



 『冒険の資金に困ったら王国金融まで。


  月1000Gまでは無担保でご融資。


  安心、確実、信頼。


  ※無職の冒険者さまにもご利用頂けます』



 街金・・・いや国金の広告であった。


 人に貸す金があるなら俺によこせ、この世界をなめているのか。


 ちなみに紙の裏には、豚のような男がゴールドメダルのつまったバスタブにつかりながら美女を両脇に抱えた写真が載っていた。広告にはド派手なフォントで『キミもこれさえあれば成功者。猛金運が鬼の如く押し寄せて娯楽の殿堂に激進開始。魔王も顔面蒼白』などと書かれている。水豚がいやらしい笑みを浮かべ水晶のネックレスを首から下げている。金利は年24パーセント也。高い・・・。


 そんなに強運の持ち主ならお前が魔王を倒しに行ってこいよ。


 こっちはガキのお小遣いのような金額で命懸けの魔王暗殺計画は遂行せねばならんのだ。旅先で出会ったバカをバカみたいな理由でバカなトラブルからバカ正直に救ってやらねばらなんのだ。まったくバカみたいだ。貧乏くじ引きまくりで貧乏神も逃げ出す始末だ。


 正式に勇者になった俺だが、やる気はどんどん失われていくのであった。


 そして決意する。今までのお人好しのバカ勇者の二の舞にはなるまいと。俺は殺伐としたRPG社会を生き抜く勇者のようなもんだ。いや勇者だが。


 つまり、無用の人助けより我が身の保身。慈善事業よりも営利的行動。金にならない感謝の言葉より実際に支払われる金額の桁に重きを置くリアリストである。


 なにびとも俺を非難する事はできない。だいたい街道で商人が死んでいても誰も気にもとめない世の中だ。あまつさえ、そこには金目のものは残っていない。いや、べつに死体あさりではないぞ。身元確認のためだ。うむ。

 もはや、次に俺がとる行動は見えてこよう。


 そう勇者としての初仕事は、城にある金目の物をすべて頂く、ということだ。勇者が城をあさろうとも(なぜか)免罪符が与えられているのだ。けっして、泥棒などではないぞ。


 俺はこそこそと柱の影などに隠れながら、城の2階を物色し始めた。



○バリアゾーン


 その部屋はがらんとしていた。他の部屋とは違い生活感が感じられない。奥の方には白い柱が二本に並んでいる。その間に一段高くなった場所があり宝箱が置いてあった。


「これは!」 


 さっそく目的のものを見つけて、俺は喜び勇んで宝箱に近づいた。


 宝箱まであと5メートルという所まで近づいたとき「ぶぅん」という細かな振動が鼓膜を震わせた。次の瞬間、生木を引き裂くような音と共につま先から全身へ衝撃が駆け上った。


「ぶばばばばばばばばらもんのかぞく」


 俺は顎をガクガク言わせながら、一歩踏み出した足を床から引きはがした。


「死ぬわっ」


 よく見ると、その床はぼうと青い光を発していた。床の表面には光のうねりが見られ、時間とともにゆっくりとそのグラデーションを変えていた。


「むむむ・・・」


 俺はポケットからさきほどの広告を取り出して、その床の上に放り出した。


「パチっ」という音がしたかと思うと、広告は燃え上がった。どうやらこの床には高圧電流が流れているらしい。存在としては知っていたが実物を見るのは初めてだ。これが噂に聞く殺人床バリアゾーンであった。


 まぁ盗人避けの意味もあるのだが、序盤で勇者に重要なアイテムを取られないようにしてのだ。


 トラップとしての強制力は弱い。バリア無効の呪文を唱えるか、薬草や呪文で回復しながら通れないこともない。ヘタをすれば死ぬが。


 まったく味方の本拠地で勇者を危険に晒すとは何事であろうか。気が狂っている、としか思えない。だが、こんな仕掛けは俺にかかれば屁みたいなもんだ。


 俺はいったん、部屋の入り口まで戻ると、助走を付けてバリアゾーンを飛び越した。


「いえーい」


 俺は笑った。


 いくらバリアゾーンといっても、見たところ、ほんの2メートルくらいの帯にすぎない。幅跳びで越せない距離ではないのだ。こんなモンに引っかかっていた、これまでの勇者を心底間抜けだと、と思った。


 俺は宝箱を開けた。


ハイスピードろくろ をてにいれた


  【解説】ハイスピード轆轤。もの凄い勢いで回転する。本来、陶芸の器具だが用途はふめいだ。※回り出したら触れることすら出来ない。



 謎である。まだストーリーを進めていないからどんな用途でこんなアイテムが存在するか分からない。まぁいいさ、大仰にしまってあるんだから価値のある骨董品に違いない。


 俺はろくろを愛用の風呂敷にしまった。


 帰りもまたバリアゾーンを飛び越して廊下へ戻った。ちょろいぜ。



○王様の寝所 


 俺は中に誰もいないことを東方のアサシンである家政婦のようなスタイルで横見すると、王様の寝所に忍び込んだ。


 天井には、逆さにしたウエディングケーキみたいな馬鹿でかいシャンデリアが吊り下げられていた。


 俺は意味もなくシャンデリアに向かって頭突きをする格好でジャンプしながら部屋の中央へ進んだ。


 床を見ると、虎の毛皮が敷いてあった。


 部屋にはその他に、天蓋の付いた金ぴかのベッド。本棚には経済学だの帝王学だの、俺が絶対読まないようなたぐいの本が並べられた。表面が磨き上げられている黒檀のテーブル、鷲だが鷹だがの彫刻が施されている椅子が何脚か、あと白塗りの小さいタンスがあった。


 ではさっそく仕事に取りかかろう。俺は舌なめずりをしながら辺りを『しらべる』ことにした。


 黒檀のテーブルの上には、宝石が散りばめられた小箱と銀の燭台が乗っていた。


 少々かさばるが古道具屋に持って行けば、金になるだろう。俺は唐草模様の風呂敷を取り出し、床に広げた。そして満を持して『しらべた』。


 小箱がパカッと開いた。



「なにもありません」



 確かに何もない。いや、そういうことではない。金貨や宝石は入っていないのは残念だが、この際、取るのは箱で十分だ。


 さらに『しらべる』を繰り返したが、出てくるメッセージは同じだった。


「なにもありません」


 俺はイライラし、融通の利かぬゲーム的プロセスを無視して直接小箱にかけた。


「ぬぬぬぬぬ」


 小箱はまったく持ち上がる気配を見せない。


「変だな」


 ためしに小箱の横に置かれている銀の燭台をひょい、と持ち上げてみた。つもりだった。


「ぐきっ」燭台はそのままに俺の手首だけがおかしな方向に曲がってしまった。


「いでででででえ」


 俺は手首をさすりながら燭台を見たが、テーブルに固定されているのか(そんな感じはしなかったが)、寸分足りとも動いない。


「ふざけるな、クソっ」


 俺はテーブルを蹴飛ばした。


 だが同様にテーブルも微動だにせず、俺は自らの蹴りの反動で後方へぶっ倒れた。


「なんなんだ、この部屋は」


 倒れた先にさきほどの毛皮の頭の部分があった。


「うおぉ」


 大口を開けたままの剥製になっている野獣ヘッドに一瞬ビビったが、むしろ俺は頭を野獣の頭に入れたり出したりして「喰われる」などと言い、遊びつつ、毛皮を『しらべた』。やはり床にしっかりと粘着してある。


「なんだこれ?」


予想以上の防犯体制に俺はたじろいた。

なるほど、どうも歴代の勇者がすかんぴんの状態で城を出たのが分かったよ。


第11話「王様について(後編)」


俺はやや、捜索(物色ではないぞ)をあきらめつつ、あることに気付いた。こういう城には抜け道がある。逃走路にも使えるし、地下には不快の生き物を飼っていくには好都合だ。王室にはまだ人の近づいてくる気配はない。まだ行けるか。


「だいたい、壁を押せばなんかなる」

RPGのお約束に従って、最初、手で慎重に壁の出っ張りをおしていたが、そのうち面倒くさくなってきて壁を蹴り回した。


「当たり!」


 王室側面の壁が横にずれた。


 俺は素早く、壁の隙間に身体をねじりこみ、くらやみに身を隠した。


 最初、何も見えなかったが、じょじょに闇に目がなれていった。その空間には、ぼうぅと明かりがともっていた。よく見るとドクロの中にロウソクを入れてあるランタンだと分かった。


「どうも、悪趣味だな。まさかドクロは本物ではないだろうな・・・」


 「ん?」何かにつまずく。部屋の中には石造りの棺桶が並んでいた。


 秘密のダンジョンか。迫力満点だ。ペンちゃんをつれて来なくてよかった。


 なおも進むとすると、奥から一陣の風が吹いてきた。向かうには下りの階段が見えた。


 ここまできたら引き返すこともできない。俺はべちゃべちゃする床に気を付けながら、階段を降りていった。階段のそこはかには、苔が生えていた。そして錆び付いた鉄格子の扉がまえに立ちはだかった。


 俺は軽く、扉を押してみた。「ガコンっ」と、扉は簡単に開いてしまった。


その奥にあった部屋? を見て驚愕した。


つづく


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