第7話「王様について(前編)」
第7話「王様について(前編)」
○謁見の間
階段を2階に上がると立派な大理石の柱が並ぶ謁見の間にでた。
玉座へ伸びる赤絨毯の上を進んでいくと、左右には槍を構えた兵士どもが等間隔に並んでいた。
俺は兵士どもの間を運動会の入場行進のように元気よく手を振って歩いた。そして、玉座の前まで行くとうやうやしくひざまずいた。
いよいよ(俺のための)伝説の1ページが始まる。
*王様「おお、勇者殿。よくまいられた」
*勇者「ははっ」
俺は深々と頭を垂れた。
*王様「そう、かしこまることもあるまい。おもてを上げられよ」
俺は顔を上げ王様を見た。
王様は、目を細くして人の良さそうな笑みを浮かべている。薄い口髭にボサボサの頭髪を生やし、年齢は60代かそこらだと思うが、全体的に枯れた印象を受ける。王様としての威厳はあまり感じない。
*王様「遠い所をわざわざ王城まで来てもらって悪いな。道中、いろいろ大変だったんじゃないのかね」
友人に話しかけるような口ぶりで王様はたずねた。
*勇者「とんでもありません。世界が大変な危機に見舞われているこの時、少しばかりの道のりなど気にもなりません。はい」
(むしろ王都に着いてからの方が酷い目にあったし)
*王様「うーむ、勇者殿は殊勝な心根の持ち主のようだ。さすがはこの国の命運を握る人物だ。すばらしい、実にすばらしい・・・」
王様は真っ直ぐに俺を見据えてそういった。その視線はどこ見据えているか計り知れない。
*勇者「あ、はい。ありがとうございます・・・」
俺は少しドギマギした。何だが妙な気分だな。でも親にもこんなに褒められたことはない(むしろ虐待されていた)。世界を救ってもらうのだから感謝されて当然だが、王様の態度は勇者を迎えるに相応しいものと言えた。俺は素直に感動した。
*勇者「こんな私でよければ、何でもやらせてもらいます。便所のくみ取りから地方反乱の鎮圧までなんなりとご命令下さい」
*王様「おお、何という頼もしき言葉。さっそくだが、いま世界は未曾有の危機に見舞われておる、知っておるか」
おお、きなすった、これぞ、R・P・G!。
危機に見舞われていないRPG世界なんぞあるものか。やってやるぞ、この野郎。
*勇者「はい、道すがら、魔王が復活しただの、恐怖の大王が降りてくるだの、噂を耳にしました。私の使命とはそいつらを倒すことにございましょうか」
王様は俺の言葉に相づちを打って、大きくうなずいた。
*王様「おお、勇者殿は何でもお見通しだな。さすがは世界を救う万能の超人だ。そなたならきっとやり遂げるだろう。それにひきかえ儂の息子と来たら・・・」
王様は隣の玉座に座っている青白い顔をした少年を見た。何だ、いたのか。いままで気づかなかった。
*王様「うむ、紹介がまだだったな。儂の隣りに座っておるのは我が息子だ。言うなればこの国の王子と言うわけだ」
へぇー、厨房で飯炊きのババァが言っていたのはこいつのことか。なんとも気弱そうな少年ではあるが。
*王様「これ、勇者殿に挨拶せんか」
王様にうながされ、一瞬、ハッとした王子は床に視線を落としたまま消え入りそうな声で挨拶をしてきた。
*王子「はじめまして・・・ゅぅιゃ・・・」
(なんという覇気のなさだ。俺は王子を遠慮なくじろじろ観察した)
・・・
(ふむ・・・、なるほど王族だけあって見た目はいい。整った顔立ちは、まるで少女漫画に出てくる王子様のようだ。(実際、王子様だが)しかし身体の線は痩せこけてヒョロヒョロの上、血色はこの上なく悪い。肉体疲労児にして虚弱体質なんだろう)
*勇者「ファイト一発」
俺は気合いを注入してやった。王子は一瞬、気違いを見るような視線をこちらに向けたがまた下を向いてしまった。失敗か・・・。何だろうこのイラつきは。
*王様「はぁ・・・、まったくお恥ずかしい限りだ。本来ならば、勇者殿のお手を煩わせることもないのだ。この国の危機を救うのは王子の役目なのだ。だが、こやつは生まれつき病弱でな。スライムを叩きに行くこともままならん。なんともはや・・・」
王様は相変わらず笑みをたたえていたが、その目は笑っていなかった。王子は一瞬、肩を震わせた。
*勇者「いえいえ、世界の危機を救うのが勇者のつとめにございます。むしろ、王子様が病弱なのは好都合・・・いえ!、ごほん。旅先で王子様の身に何かがあっては王国の一大事、ここはこの勇者めにお任せ下さい。はい」
そういうと王様はたいへん感激した様子で、玉座から降りてきて俺の肩に手を掛けて言った。
*王様「儂としては勇者殿を危険な所へ行かせるのは心苦しい限りなのだ。しかし、これも王のつとめ。分かって欲しい・・・」
王様の慈しむような悲しむような視線は俺に注がれている。おお、何といういたわりと友愛じゃ。王様の心が開いておる。
*勇者「王様のためにこの身を投げ出す所存にございます」
俺は感激して叫んだ。
王様はうっすらと目に涙を浮かべて、俺を抱きしめた。
*王様「勇者殿!」
*勇者「王様!」
俺は王様を抱き返し、二人して叫んだのだった。