第32回「サカナトール村(後編)」
第32回「サカナトール村(後編)」
店主のあとを追って。網元の家に来た。(網元ってなんだろうか)
玄関前にはかがり火が炊かれている。明るいな。
家に入るとやたら広い玄関をぬけて、導かれるままにこれまた広い部屋にとおされた。
奥の間には体格のいい男が鎮座していた。年の頃は50前後か? 半袖からいかつい筋肉か見える。他の漁師とは違う精悍さと威厳を備えている。殴られたら、一発でやられそうだ。こいつが網元か。
漁師の長ともなれば、片目に眼帯を当てて、片腕には、かぎ爪の義腕をはめている、と想像したが違った。
「話は聞いている、クラーケンをやれるのか」
直接的な物言いだ。
「ええと。だいたいのモンスターなら」
「ふむ、船を出してもいいが、準備が必要だ。村の皆にふれを出しておこう」網元は後ろに立っている数人の若衆に目線を送った。若衆が部屋から出て行く。
「わかりました」おれは背負っているカンちゃんを床に投げ捨てて答えた。カンちゃんは「ワタシはやるぞー」などと、たわごとを発している。ペンちゃんはうしろでちゃんとひかえている。
「いつごろ、出航ですか?」
「そうだな、丑三つ頃」
「え?」その時間だとまだ、深夜じゃないか。早すぎる。(午前2時?)
おれがげっそりしていると。
「何か、不満か?」「いえ・・・行きます」(おれらが討伐するのに威圧感に押されて敬語になってしまう)
おれは別室に通されて、酒場から盗んだ酒をちびちびやっている。
カンちゃんは完全につぶれて、うつ伏せに倒れている。
ペンちゃんは、自分の道具袋から何かの木の実を取り出してかじっている。長靴いっぱい食べたいものかな。
外で何かを引きずるような音が聞こえる。クラーケン退治の準備か。「ふああ」あくびが漏れた。
数刻後・・・。
予定の時間がきたらしい。若衆がきて「来い」といった。む、少しイラっとしたが、おれたちは網元の元へ行く。まだ寝ているカンちゃんを背負った。「うん? バカヤロー」少し酔いがさめているようだ。
奥の間で網元は待っていた。
「さて、準備は整った、行くぞ!」網元と漁師のあとを追って、漁港へむかう。
接岸されている船に乗り込む。船と言ってもそんなにデカくない。中型の帆立船か。絵物語で描かれているような大型帆船とは違った。これでバケモノが狩れるのかな。共に行く漁船に光が見える。
「よいしょ」おれはまだ夢見心地のカンちゃん(戦闘要員)を背負いなおし船に乗り込んだ。ペンちゃん(支援要員)も続く。
闇夜の海に船は進む。
「今夜は月が出ない日だ。ヤツがくる」網元はつぶやいた。
潮風に当てられていい気分になったおれは、舳先に立って、酒瓶をあおりながら歌声を上げる。
「ぶらざ~しっぷはぁ~おやじの~おやじのれしいぃだぜ~」
さきほど目覚めたカンちゃんは船のへりに手をついてゲロを吐き続けている。悪酔いと船酔いのダブルパンチだな「ダサっ」おれはカンちゃんをあざけ笑った。ざまあみろ。「船から落ちるなよ、あっはっは」
「こんちくしょう・・・うっ、ゲロゲロ、殺す・・・」カンちゃんの横目に殺気が宿る。何を殺すのかな。おれには船酔いがきかないようだ。
「ああ、こわいこわい」かく言うおれも酔いがまわって来た。意識が飛びかかり、甲板に身を横たえた。
※ここからの話はのちにペンちゃんが語ってくれた
「クソ野郎は、寝たか・・・うっ」カンちゃんは口をぬぐいながら言った。胃の中のモノを吐いて正気に戻った(らしい)。
「酔いながら、聞いていたぞ。クラーケンを討伐するのか・・・うっぷ。XX△!○πうえ」
カンちゃんは船べりに胃液を吐いた(らしい)。「うぐぐ」ワタシの恐ろしさを思い知らせてやる、うっぷ」
クラーケンがよく出る海域についた(らしい)。
「胴元・・・エサは大きい方がいいよな」カンちゃんは目の下にくまを作って言った(らしい)。
「ああ・・・そうだが(なんだこいつ)」
「エサはデカい方がいい・・・へへへ。いいブツがあるぞ」にやり。
カンちゃんの提案で、おれは縄で胴をしばりあげられ、あろうことか海に放り込まれた(らしい)。
ざっぱーん!
※ここからは覚えている
「ぶくぶくぶく。息が・・・。げほげほ。しょっぱ、寒い。なんだこれは」
見上げると、船上からカンちゃんの笑い声が響いた。
「ぎゃはははは! ほれほれ、泳げ、泳げ、クラーケンは死んだエサには食いつかないぞ。せいぜい役に立て」
「お前の仕業か! 殺すぞ!」
「オマエが死ね」
くそう、おれは海中に沈まないように必死で立ち泳ぎをしている。さいわい? 手足は縛られていなかった。しかし、なんか頭皮がごつごつするな? 頭をなでると、ご丁寧におれの頭にカニの甲羅がかぶせられていた。
船は沖に向かう。縄でつながれたおれは曳航された。RPGって、レベルじゃねえぞ! この野郎。
「そろそろだな。全員、戦闘態勢!」
漁船はクラーケンの出現ポイントに近づいているらしい。
「撒き餌をばらまけ、微速前進」
カンちゃんが的確な指揮ぶりを見せる。おれが浮き沈みしているあたりに大量のカニの食いカスが投げ捨てられた。
胴元が望遠鏡を取りだし、遠い海原の一点を凝視する。「来た!」
「胴元、船首を岸へ回せ!」「あ、ああ・・・」漁船は進路を反転させた。おれは波にのまれないように、息も絶え絶えにもがいている。
「よし、エサに引きつけろ! 敵は近いぞ。油断するなよ」網元の怒声がひびく。「いや、そういう問題ではなく・・・はやく引き上げてくれ」
海面すれすれに青白い影がせまる。怪物(巨大イカか?)の触手がおれの足をからめ取ろうとしている。「ひええ」
「よし食いついた」カンテローザのクソ野郎が歓喜の声をあげた。
「網をかけろ!」胴元の声があたりに響く。
船から次々と巨大イカへめがけて網が放たれる。随伴の漁船も網元の船に平行して進み、巨大イカを挟み撃ちしようとしている。両船からさらに網が放たれる。大量の網が巨大イカを包み込もうとしている。おれがどうなったって? もちろん、もろともに網にからまっていますよ?
船はクラーケンを捕縛したまま岸へと向かう。
「このままでは座礁する」網元のするどい声。
「いや、これでいいんだ」カンちゃんのしたり顔。
船はついに浜に乗り上げ、クラーケンは浅瀬でのたうち回っている。
「じゃあ、あとはワタシが仕上げといくか」カンちゃんは、船べりに足をかけて、船外に躍り出た(空中で一回転してやがる)、浜に上がったクラーケンに正対する。
「そんじゃ、芸がないけど、いつものやつ・・・」
アレですか? ちょっと待って下さい。おれがまだ網の中にいますよ。
「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」カンテローザのクソ野郎が。死ぬぞ。
火球がクラーケンを焼いていく。おれの周囲にも炎がせまって。
終わったかな。でも、なんか、いい匂い(におい)だな・・・。
いまわのきわに不謹慎なことを思っていると「ドボン!」と船の方で水音が聞こえた。
何かの影がおれを抱きかかえて、飛んだ。
・・・・・・。
「気がつきました?」ペンちゃんがおれの顔をのぞきこんでいる。
「あれ? 生きてる・・・のか」
「ペンちゃんがアンタを救ってくれたのよ。感謝しなさい」
ああ、炎の中に飛び込んでおれを救出してくれたのはペンちゃんだったか。というか、お前がそれをいうか。
「何度も死ぬところだったぞ」
「ああ~? 海中にいるモンスターをどうやって攻撃するの。浜に上げてやるしかないだろ」
「まぁ、たしかに・・・」やり方は酷いが理にかなっている。おれは何も言えなかった。天才はいる。悔しいが。
「ファイト、ファイト、シンエイ! ファイト、ファイト、シンエイ!」漁民の威勢のいいかけ声が聞こえてきた。
「ああ、巨大イカを浜に引き上げていますよ。資源は無駄にできないとか」
おれはイカの恐怖が冷めやらず、よろよろと立ち上がった。
「聞け! 懸案のクラーケンは退治した。あとは宴だ、おっ、イカが焼けたぞ! 皆で食おう!」
網元の号令のもと、浜で宴会が始まった。
おれのもとにもイカ焼きが運ばれてきた。
「サカナトール村に繁栄あれ!」
一同がイカを口にした。
!? 一瞬の沈黙。
「まずい!」
つづく




