第31回「サカナトール村(中編)」
第31回「サカナトール村(中編)」
「働きすぎだろ・・・」
イケーニエの村で狒々(ひひ)退治。そしてエルフの森。たどりついた漁村。おれたちはつつがなく? 冒険を続けている、ようだが。さて、おれたちはいつ寝ているのか。RPGの謎のひとつだ。HPとか関係があるのだろうか。生命力があれば、不眠不休の超人か。まあ、いいや。
陽はすでにかげっていた。漁村の家々には炊煙が上がっている。扉はみな閉まっている。商店もねえ、宿屋もねえ、教会もねえ、カジノなんてあるわけねえ。オラ、こんな村イヤだぁ。
「ハァ・・・酒飲みてえ」
漁村をうろついていると、やっと『酒』の看板を掲げている店を発見した。
「んんん、むぅ」
入りづらい。無骨な格子戸がはめられた玄関。中から客とおぼしき笑い声。これは地元民がいく酒場のようだ。入店していいのか。店前でためらっていると「あいよ、ごめんよ」強い口ひげに赤銅色の肌をしたガタイのいい男が店へ入っていった。「よう、いらっしゃい」声が聞こえた。「さけいっちょう」ゴクンっ。喉が鳴った。
おれの様子を見ていたカンちゃんは「ワタシも飲みたいぜ。気合いを入れて行け!」背後から魔法の杖でおれの尻を突いてくる。
ペンちゃんはやたらと、服のそでを引っ張ったり、色味を見たり、周囲を気にしたり挙動不審だ。敵とは違う何かに追い詰められている気がする。ある意味、我がパーティは危機的状況だ。おれは覚悟を決めて、外の格子戸をあけ、入り口の引き戸をひらいた。
「へい! いらっしゃい」デカイ声がおれの耳にとどろいた。けおされつつ店内を見わたす。
そこにはカウンター席が8つ。4人掛けのテーブル席が3つと、広くもないし、狭くもない酒場の風景があった。テーブル席は埋まっていたので、カウンター席に腰を落ち着ける。
「じゃあ、さっそくビールを」
ビールのジョッキがおれの前に運ばれてきた。「乾杯!」「あれ?」
ぬるい・・・なんだ、これは。これビールじゃないよな。シャワシュワ感がない。味は濃いがビールとは違うモノだ。まぁいいや。ぐびぐびやる。けっこうキツイ。意外と酔えるかも。
「ペンちゃん、カンちゃんはなにか飲む。それとも食う?」
「んじゃ、ワタシは赤ワインをボトルで、あと酒のつまみにチーズかなにか」
「わたし、お酒は飲めません。なにか食事を」
オーケーおけー。
「じゃあ、この、こまっしゃくれた? 魔法使いには、赤ワインのボトルとチーズの盛り合わせを。こっちの・・・(極彩色の服装が僧侶と呼ぶには無理すぎる)、ええとメガネの女性には、何かおいしいものを」
カンちゃんはなぜか、ふてくされて「あ~?」とか言ってやがる。クソガキ(年齢不詳)。ペンちゃんはニコニコしている。
注文が運ばれてきた。
「兄さん。見ない顔だな。魚の買い付けに? いや、仲買人にはみえないな。なんのようでこの漁村へ?」店主が話しかけてきた。
「ああ?(ビール? を一杯空けて)王様から手紙が来てね。俺はゆうしや・・・」
そこで戦慄が走った。なんか、前にも同じ光景を見た。いやな記憶がよみがえる。カンちゃんの目が一瞬、するどく光った。やばい・・・。
「いや、それより酒のつまみをくれないかな。この土地の名物とかないの?」
おれはあわてて、話題をそらした。
「うーん、それならカニだな。はい、どうぞ」
カウンターの前にゆでたてほやほやの甲殻類が乗った皿がおかれた。
「うわ、グロいな。ほぼ虫? 海にはこんな生き物がいるのか」びっくりしていると。
「あはは、はじめてか。まぁくってみな。うめえぞ」
店主が頭と脚をむいてくれている。海の虫がうまいのか。甲羅の中にはドロドロの物体。脚には繊維状の肉。不気味だ。食えるのかこれ。視線を左右にふると、カンちゃんは酒をあおっている。ペンちゃんはくだんのカニをバラしておいしそうに食べている。うまいのかなぁ?
解体されたカニをそっと食べてみる。
「これは!」繊維のかたまりと思われた身は、うまみが強くしっとりとしている。
甲羅のドロドロは・・・くせがあるな。「カニの身に付けてくってみな」
ためすと、ドロドロの濃厚な海の香りがカニ肉の身がまとい、奥深い味がする。これは・・・。
「うまい! 酒だ!」
「ほい、きなすった」
これには少々強い酒があうぜ。店主は透明の酒を小さな器に注いだ。
「ごくっ、うまい!」濃厚なカニの風味とドロドロが綺麗に洗い流されていく。
「もっと、くれ」おれは要求した。
「それがよ、ダメなんだ。最近、漁場にクラーケンって化け物が現れて、不漁なんだ」
「むむむ、クラーケン? モンスターか、まかせておけ。何を隠そう、おれはモンスター狩りを生業にしている冒険者なのだ」
「冒険者? 信用できないな」
「イケーニエの村でモンスターを討伐したぞ」
「え? イケーニエの村の狒々(ひひ)騒動は、伝わっているがあんたがやっつけたのかい?」
「論より証拠、これを見たまえ。狒々の頭部の1/4だ。まだ動いているぞ」
おれはもっている袋の中身を見せた。
「ぐぁ、気持ちわり。あんた、ホンモノだな。分かったよ。網元に話は通しておく」
店主は酒場をはなれ、いずこかへ走り去っていく。
それではメシの続きを・・・?
カンちゃんは酒瓶を枕代わりに寝ている。完全にできあがっているようだ。小さいし背負っていくには問題あるまい。ペンちゃんは、次の食事を待っているようだ。申し訳ない気がした。
しばらくして、店主が戻ってきた。
「話を聞くだとよ。こっちだ」
おれはカンちゃんを背負って闇夜の漁村をかける。ペンちゃんも口をもぐもぐしたまま、あとに続いた。(なに食っているのかな)
つづく




