9話 くすぶり
魔術王との謁見の後、僕達は宿の代わりに宮廷の一角にある建物に通してもらった。
レーヌはアースルドが亡くなったことにショックを受けており、部屋にしばらくこもっていたようだが、僕にレーヌから呼び出しがくだった。
僕はレーヌの家臣になったのだ、彼女の期待に応え、彼女を守るために全力を尽くそう。
それが僕の役目なのだから。
扉をノックすると、どうぞというレーヌの声が聞こえ、ウェルサが扉を開け、僕を通し。
「ウェルサ、少し外してもらえますか?」
レーヌからそう言われるとウェルサは一礼し部屋から退出した。
魔術灯を消し、ロウソクが一つ部屋を照らしている。
そんな暗い中で、レーヌは僕に話しだした。
「ヴェルフ、お願いがあります、アースルド様を暗殺した者を突き止めて欲しいのです」
僕は返答に困る、だが主の命とあれば答える他ない。
「その命承りました、しかし僕でいいのでしょうか?僕は魔術で犯人を仕留めることはできても、探すことは得意とはしていません」
レーヌはうなずく。
「ええ、理解しています。ですが今回は犯人がある程度絞られているのです、犯人はクディア商会の中にいると推測されています」
レーヌの言葉の後、しばらく静寂が流れた。
「今、裁判官をはじめとして王宮がクディア商会を洗っている最中なのですが、クディア商会は武器の運搬や販売なども行っています。どの様な脅威になるかわかりません」
レーヌは僕の瞳を静かにみつめる。
「つまり僕の役目は、クディア商会が武装蜂起した時の制圧役ということですね」
「ええ、そうなります」
僕の言葉にレーヌはうなずいた。
「明日、私は辺境のバーイヤー領に戻らねばなりません。夜分遅くにこの様な話をし、更にはヴェルフに首都に残れというのは申し訳ないのですが、私はアースルド様を暗殺した者達を許せないのです……」
レーヌは僕を再び見つめる。
「もう一度言います、ヴェルフ。引き受けてくれますか?」
「レーヌ様の命とあれば喜んで引き受けましょう」
レーヌは僕の言葉に、うなずき。
「ありがとう」
短くそう言った。
翌朝、僕はレーヌの出発を見届け、宮廷に残る。
まずはどうしようか?
この国では、こういう時に動くとなれば裁判官が現地におもむいて直に検証することが多い。
とりあえず、裁判官に接触するほうがいいかもしれない。
自分で事件現場に行って調べると言うことも考えたが、それなら調査中の裁判官の許可が結局必要だろう。
僕はメイドに裁判官の部屋を教えてもらい、その場へ向かった。
裁判官の部屋は宮廷の入り口に近い一室で、忙しそうに人が出入りしている。
教会の大支部長が亡くなったのだ、それも当たり前だろう。
僕は扉をノックする。
「誰だ、入れ」
ぶっきらぼうな返事が返ってきた。
「お邪魔します、僕はヴェルフと申します」
「俺はイルギット裁判官をしている、何用だ?今は忙しいんだ」
イルギットは書類に目を通し、ペンで線を引いたり、修正をしながら書類をまとめている。
「見るな‼見るな‼関係者以外は見てはならん」
イルギットは僕を鋭い目で見据え、言い放つ。
「レーヌ様から、アースルド様暗殺の件で助力をと言われてやってきたのです」
僕の言葉にイルギットは目を細める。
「レーヌ様のところから俺に?彼女は部署が違うはずだが……なるほど教会関係か、話がややこしくなるな」
イルギットはくしゃくしゃと頭をかく。
「俺の仕事が増えてしまう……ヴェルフと言ったな?レーヌ様には何と言われてここに来た?」
イルギットはこちらに向き直り、僕を監視するようにじっくりと見る。
「クディア商会がもしも手に負えなくなった時に制圧するようにといわれました」
イルギットはため息をつく。
「確かにクディア商会は武器も扱い、雇用人数も多い、その上私兵だって持っている、警戒するに越したことはないのはわかるが、俺だとて穏便に済ませたい」
イルギットはもう一度書類に向き直りながら、作業を続ける。
「いいぞ、教会を一度見たいのだろう?」
僕が何も言わないでいると、イルギットは僕に証書を渡して来た。
「これで教会に入ることができる」
イルギットはそう言って書類に没頭する。
「ありがとうございます」
そう言い、僕は裁判官の部屋を後にした。
厄介払いをされた感じではあったが、僕は教会への証書を手にすることができた。
とりあえず、教会に証書を見せ、事件現場に通してもらう。
現場では遺体はすでになかったが、血の後が残されていた。
魔術で殺された可能性もあるため、魔力を察知したがこれと言って反応はない、そもそも魔力感知のスペシャリストである教会側がその様なことはすでに調べているだろう。
ならばやはり、物理的に刃物などで殺害された線が濃厚である。
僕は、ふとクディア商会のガランのことを思い出し一度会ってみようと思い、クディア商会へと向かった。