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8話 魔術王の間で

 遠かった魔術宮廷が視界いっぱいに広がる。


 僕は懐かしさをどこか感じていた。

 僕の生前以前の輝きは薄れていない。


 僕たちは、魔術宮廷の入り口までたどり着いた。


 ルーン・スタック兵が僕たちの方を見て、敬礼をする。

 いや、レーヌに敬礼をしているのだ。


「辺境令嬢、レーヌ様のお帰りだ‼」


 恐らく上級兵士であろう、レーヌを見て声を張り上げ、お辞儀をし、こちらに近づいて来た。


「上級兵士オクトバ、レーヌ様を案内させてもらいます」

 オクトバ、聞いたことがある。

 大柄で不器用だが、真面目な性格のにくめないやつだった。


「おや?そちらの御仁は?」

 オクトバは僕の方に視線を向け、しばらくまじまじと僕をみる。


「まるでヴェルフリッツ様を思い出しますな、まるで生き写しの様な……これは失礼、無用な話でしたな」

 オクトバは話を切り上げ、僕たちを魔術王の元へと案内する。


 魔術王。

 500年前、勇者ブレイヴの仲間であり英雄である魔術師スタックの子孫であり王族である。


 魔術王となる者は、厳しい魔術訓練を受けなければならない。

 並大抵の努力では許されないのだ。


「オクトバ、レーヌ様をお連れしました」

 オクトバが門の前で一礼しながら言うと、奥から声が聞こえた。


「入れ」

 僕たちはオクトバとレーヌに続き入って行く。


 扉の奥には、立派な王座と広間が広がっていた。

 そして王座には長い髭を蓄えた白髪の老人が座っている。


 レーヌが王座の前で膝をつく。

「魔術王スラク・スタック様、今回は任の報告に上がりました」

 レーヌの言葉に魔術王はうなずく。


「レーヌ・バーイヤー辺境令嬢、長旅とその任ご苦労であった」

「もったいないお言葉」

 魔術王のねぎらいの言葉にレーヌは謝辞の言葉を述べ、報告を始める。

「ブレイブハーツ国において、勇者王ティク・ハーツ様の治療と、平和外交のための話し合を行いました。しばしの平和が保たれるものと思われます。」


「レーヌ辺境令嬢、大儀であった、ところでそこに連れている御仁は誰であろうか?」

 魔術王の視線を僕は感じた。


「こちらは、我らの旅の途中で盗賊に襲われている時に、助けてくださった者でございます」

 レーヌの言葉で、僕に魔術王は感心を持った様だった。


「お主、名は何と申す?」

 魔術王の僕への問いに、僕は一瞬本当の名前を言いたいと思ったが、次の瞬間には偽名を名乗っていた。


「僕はヴェルフと申します。一人旅をするしがない旅人でございます、盗賊相手など1度や2度やり過ごすのは慣れております」

 魔術王は、僕の目をじっと見る。


「お主は、昔のわしの家臣によく似ておる、姿も、声も……」

 魔術王は僕から目を離さずに言う。


「何かの間違いでしょう、僕はあなたの様な偉大な方に仕えたことはありません」

 僕の言葉に、魔術王はうなずく。


「そうであるな、昔のことだ……ほうびを遣わす、何なりというがよい」

 魔術王の言葉に、僕は少し考え、そして意を決し答えを言った。


「では、この僕を取り立ててください」

 僕の申し出に魔術王は笑う。

 僕にしては、これは家と関係を持つチャンスだ、どんな役職でも苦難でもたちむかってやる。

 そして父とレーヌを守るのだ。

 僕の決意の発言の後、レーヌが挙手をする。

「よろしい、レーヌ・バーイヤー発言を許そう」

 魔術王はレーヌに発言するよう促す。


「私は彼に、褒美として家臣として王都までの旅の間に仕えるに値するか見極めると契りを交わしました。彼は先刻より発生した魔力溜でゴーレムの活動を停止し、我が国の大商クディア商会の少女を救いましたこれ以上の褒美はないかと?」


 僕に辺りの視線が集まり、そこに居た者達は信じられない様な目を向ける。


「いいであろう、そのものをレーヌ・バーイヤーの家臣として認める」

 魔術王はそう言い放ち、僕とレーヌは魔術王に向かいひざまずく。


「レーヌ、そしてヴェルフよ、面を上げよ」

 魔術王のその言葉で僕達はゆっくりと顔を上げる。


「レーヌよ、一つ残念な話なのじゃが……」

 魔術王は数秒考える様に口をつぐむ。

「教会大支部長アースルド殿が亡くなられた」

 魔術王の言葉にレーヌは悲しそうな顔をする。

「道中、アースルド様の話は聞き及んでおります……私の師であり導いてくれた恩人でもあります」

 レーヌの言葉に魔術王は一度うなずき……


「レーヌよ、心して聞いて欲しい。アースルド殿は、何者かの手によって殺された」

 魔術王の言葉にレーヌは驚きを隠せず、口を両手で覆う。


 そして、苦悶の表情で涙を流す。


「魔術王様、本当なのですか?アースルド様が?なぜ……?」

 レーヌは相当なショックを受けており、手は震えていた。


 レーヌが落ち着くまで魔術王は様子を見守り、ゆっくりと口を開く。

「今も調べているが、まだ犯人はわかっておらぬ。この話は内密にして欲しいのじゃ、レーヌよ、長旅ご苦労であった。ゆっくりと休むがよい」


 僕達は、その言葉と共に魔術王に一礼しその場から退いた。


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