6話 ヴェルフリッツの実力
何度か瘴気に当てられ魔物と化した動物達と戦闘をし、街道を先へ進む。
しばらく進んだ先で、地鳴りが聞こえてきた。
恐ろしく暴力的な何かを叩くような音も聞こえる。
街道の真ん中、その方向には、人に似た巨体の化け物がいた。
僕も始めは見間違いかと思った、だが次第に確信に変わる。
「あれは……なんですかい?」
ゼクが驚いている。
「僕の予測が正しいなら、あれはゴーレムです」
僕は恐る恐るそう言った。
ゴーレム、ごくまれに発生する魔物で、物質が変異した魔物である。
巨体で、恐ろしい腕力を持ち、非常に危険な魔物だ。
大丈夫だろうか?ゴーレムのいる場所のかたわらで、荷馬車が一台横転していた。
ゴーレム、危険度で言えばベテラン冒険者10人の総戦力でも勝てるか勝てないかの相手だ。
その時、荷馬車から小さな物陰がこちらへ向かって飛び出てきた。
僕たちは、それを見てハッとする。
子供だ。
「オイオイ、子供じゃねぇか」
ゼクは驚きながらそう言った。
そうこうしている内に、ゴーレムが子供を認識し、追いかけ始める。
「僕が囮になります、皆さんは子供の保護を」
僕はそう言って走り出していた。
「ヴェルフ、あんた待ちなよ‼」
ウェルサの声が後ろで響く、だが今はそんなこと関係ないのだ。
僕は辺境伯の息子として。勇者の末裔の国、ブレイブハーツ国から国を守り、戦うために魔術を勉強していたのだから。
これくらい、乗り越えなければ僕はお父様のところに戻る資格などないのだ。
久々に無茶をする。
だけど、大丈夫。
一度は死んだ命だ、ためらうことはない。
目の前に、拾える子供の命があるのだから。
僕は、詠唱を破棄した威力の低い氷の簡易魔術をゴーレムに対して立て続けに放つ。
しかし、ゴーレムは依然として子供の方を追いかけている。
簡易魔術でも、体が痛い。
「冷たき壁よ、凍てつき隔てよ、アイスウォール‼」
僕は走りながら、魔術を発動した。
次の瞬間、子供とゴーレムの間に氷の壁が生まれる。
だが、次の瞬間。
氷の壁に穴が開き、ゴーレムの腕が壁から突き出した。
「冷たき壁よ。凍てつき隔てよ、アイスウォール‼」
僕はもう一度魔術を発動する。
今度は壁を作るのではない、先ほど作った氷の壁にゴーレムを取り込むのだ。
ゴーレムの腕が氷におおわれていく。
それにゴーレムは抗い、激しく壁を殴りつけた。
体中が痛い、魔術を使った反動が体中をかけめぐっている。
だけど、僕は足止めしたゴーレムから素早く魔術構成を読み取った。
ゴーレム相手には、魔術を読み解いて魔力を乱して活動を停止させるか、砕いてバラバラにするしかない。
僕が選んだのは前者、もちろん後者もあるだろうが、それは理論上の話で無茶である。
ゴーレムに向けて、僕は魔力を放つ。
攻撃性はないが、ゴーレムにとっては活動を完全に阻害、停止するには十分であった。
ゴーレムから手足を構築している岩が魔術的関係を失い自壊していく。
残ったのはゴーレムの頭、腕、胴体、足を構成していた大きな岩が6つだけだった。
その後、しばらく記憶がない。
僕の目が覚めたころには、魔力溜まりを抜け、首都街道に入った頃だった。
「ヴェルフが起きたよ、少し休憩にしよう」
ヴェルサの掛け声で、皆は街道のすみに馬を止める。
「お兄さん、ありがとうございます」
少女が僕に向かって、お礼を言ってきた。
あの時馬車から走り出てきた子供だ。
「どういたしまして、ケガはない?」
僕は少女にそう聞いた。
「うん、お兄さん達のお陰でケガはないよ、でもお兄さんも目が覚めなくて心配しちゃった」
少女はどうやら僕を心配してくれたらしい。
「大丈夫だよ。チョット眠たくなっちゃって……」
僕が少女にそう言うと彼女の顔は明るくなった。
「僕の名前はヴェルフ。聞いてなかったけど、名前は?」
僕は少女に問う。
「ルーミット・クディアって言うの、よろしくね」
少女は落ち着いた様子でそう言ったが……
しかし、その後、ルーミットの顔が曇り、泣き始めてしまった。
恐らく、あの馬車に大切な人が乗っていたのかもしれない。
すぐに、レーヌが来て少女をなだめる。
少女はしばらくぐずっていたが、やがて泣き止んだ。
クディア、恐らくその名前は聞いた覚えがある。
僕の予想が正しければ、大商クディア商会の経営陣の関係者かもしれない。
僕たちは、首都スタックへと向けて出発した、後1日で首都スタックにたどり着く、もう目と鼻の先だ。