4話 約束
行きついたのはローレッタという町だった。
記憶が正しければ、ルーン・スタック王国の首都スタックの手前の町である。
是非と言うので、レーヌと同じ宿に泊めてもらい、宿賃を出してもらうことになった。
出す金も僕にはないため、食事をレーヌに払ってもらい、一緒に今、食事中である。
「ヴェルフさんの出身はどちらなのですか?」
レーヌは興味ありげに僕に尋ねてくる。
「出身ですか……」
出身と言われても、家を追い出され、その家の家族であろう人に尋ねられるというのは困ったものだ。
「そうですね、僕の出身は魔術学校のあるムスティファという町なのですが、少し成績の悪さで親と喧嘩をしてしまって、家出中でして」
レーヌは不思議そうに僕を見つめた。
フフと少し笑った後。
「ヴェルフさんは嘘が下手なようですね、あの魔術の腕前で成績が悪いなんて、そうとう厳しい親だったのでしょう。いいですよ、秘密にしておきたいのですね」
レーヌに言われた言葉に僕は戸惑っていると。
「明日の朝は、護衛達に盗賊に関する報告に行ってもらいます、その間にヴェルフさんの服を買いに行きましょう、今は宿から服を借りているとはいえ、借り物ですからね」
レーヌはそう言って、食事場を後にする。
僕にしてみれば、レーヌが去った後、彼女の成長がうれしいと共に、受け入れられないであろう自分の立場に、少し悲しみを感じるのであった。
朝になった。
朝食を食べるために宿の食事場に降りていく。
「ヴェルフさん、おはようございます」
レーヌの言葉に僕も。
「おはようございます」と返す。
レーヌが食事中に隣に座る。
すっかり気に入られてしまったようだ。
パンと、サラダ、スープ、それに目玉焼きで朝食を済ませると、僕たちは宿を出た。
「ヴェルフさんは、どんな服装がいいですか?」
レーヌは楽しそうに僕に尋ねて来た。
「そうですね、一応魔術師ですし、魔術師向けの服装が落ち着きますね」
僕の言った言葉に何度かレーヌはうなずく。
「私の兄、ヴェルフリッツも魔術師だったんです、とても優秀で、強くて……私も兄の様にお父様の力になれていればいいと思うのですが、難しいですね」
僕は、レーヌの言葉に心を痛めた。
僕は、身勝手に母を生き返らせようとして、今まで眠っていたのだから。
「僕はレーヌさんが何に悩んでいるかわかりませんが……お兄さんもレーヌさんがお父さんのために頑張っている姿を見てくれていますよ」
僕の言葉にレーヌは目を丸くした後に。
「そうですね、私の兄は見てくれていますよね」
レーヌは自分に言い聞かせる様に、そう言った。
そうこうするうちに、服屋へとたどり着いた。
僕は魔術師のローブに腕を通し、着心地を確認する。
レーヌは着替えた僕を嬉しそうに見て。
「似合っていますよ、まるで熟練の魔術師みたいですね」
そう言ってくれた。
服を買い終え、二人で護衛の3人との合流場所に向かっている途中に、レーヌが切り出して来た。
「ヴェルフさんさえ良ければ、王都まで付き合ってくれませんか?報酬は出しますよ」
僕は、考える。
悪い話ではない、それに今の妹、レーヌが少し心配なのもある。
「いいですよ、同行させてください」
そう言うとレーヌは少しうれしそうに。
「ありがとうございます」
といい、僕に更に尋ねてきた。
「そう言えば、盗賊の件のお礼がまだでしたね。私のできる範囲であれば、オクトー・バーイヤー辺境伯の名の元に何なりと申してください」
オクトー・バーイヤーの名が出た瞬間、僕の中の不確実だったレーヌ・バーイヤーが妹だという憶測が確定する。
僕は何ができるだろうか?
そんなことを考える。
「ヴェルフさん、どうなさいましたか?」
少し考え事で、ボーっとしてしまった僕をレーヌは不思議そうに見つめていた。
自分も考えるあまりに黙っていることに気づく。
だが、この申し出はチャンスかもしれない。
「お願いがあるのですが、もし僕が王都までの道中で優秀な魔術師だと言うことを証明できたのなら、オクトー・バーイヤー伯の家臣として取り立てて欲しいのです」
レーヌの目が大きく見開かれ、すぐに笑顔に変わる。
「いいですよ、ヴェルフさん。あなたの実力見させてもらいますね」
レーヌはそう言って微笑んだ。