1話 10年の眠り
僕はヴェルフリッツ・バーイヤー
魔術学校を卒業し、最少年で宮廷魔術師としてルーン・スタック王国に登用されたエリートである。
僕は王国の貴族魔術師であり、王国を守るために今まで父の厳しい魔術師としての鍛錬を施され、優しき母に愛されて育ってきた。
今の僕にはどうしても無念なことがある。
妹のレーヌ・バーイヤーを母であるヴェレーナ・バーイヤーが出産し、他界したのだ。
幸いにも、レーヌはすくすくと育ち、もう1歳と半年になる。
そして今、僕は小瓶に入った母の心臓の遺灰を持っていた。
死者蘇生の魔術……
何人が挑み失敗したのだろう。
生命の神秘に土足で踏み込んだ者の末路はよく聞く話だ。
間違えば死に、成功してもアンデットとなり果てる。
だけど、僕は宮廷の自室に魔法陣を書き込み、母の遺灰をその中心に置いた。
「お母さん、見ていてください、今僕が……」
母のことを思い出しながら、魔法陣を起動する。
僕ならできるはず、いやできるだろう。
母を思い出す、優しく、そして誰よりも強い母の姿を。
母は、上位の神官であり、ルーン・スタック王国一の治癒術師であった。
この大陸でも5本の指に入るほどの……
「お母さん、すぐ会えるよ」
僕は魔法陣に魔力を込めた瞬間に絶命した。
母の遺灰が優しく輝き、死した僕をその光が包んだ。
僕、ヴェルフリッツ・バーイヤーは13歳の時に死んだ。
そして、10年の時が過ぎた。