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第5話『音速マグロ』



 船で近づくと襲われる海底ダンジョンの上は範囲としてめちゃくちゃ広い。

 もともとこのあたりの海底にあった鬼界カルデラが何倍も広がった感じだ。一部は日本の領海内にもはみ出ているんだが、日本政府は管理できていない。

 近づいただけで税金じゃぶじゃぶ掛けて建造した大事な国のお船が沈むんだからダンジョンに関わることに関して国民の支持はまったく得られず調査もイマイチで、オケアノスが金を握らせて代理で調査などを行うことにも許可しちまったぐらいだ。


 なのでオケアノスの船が日本の領海内に日常のように入ってきても今更なにも言われない。もちろん、船舶位置情報はちゃんと出しているし通信も行う条件もあるが。

 そういうこともあって冒険者たちも領海侵犯なんかに怯えず海へ入れる。

 ここが正確にどのあたりの位置なのかは携帯も通じないのでよくわからんが、オケアノスが衝撃波探知機で音速マグロの生息域を割り出して、その移動経路の一つらしい。もちろんダンジョンの上じゃなくて周縁部だが、いつもオレらが飛び込む場所とは違っているようだ。


 移動経路で船がギリギリ近づける場所は三箇所ぐらい。それぞれに冒険者のグループを送って、罠を仕掛ける。

 海に飛び込んだオレたちはヘルメットのシールドに表示される指示に従って作業を始めていた。

 大雑把に言うと作業は二種類。三百層に分かれた超細くて柔らかい網を分厚く張り巡らせることと、強い衝撃を受けると周囲の海水を巻き込んでゾル状に変化する薬剤を大量にばら撒くこと。

 音速で突っ込んでくるマグロに対して、ゼリーみたいなぐちょっとした粘度の高い海水で速度を減じさせて、超多層に張った網でキャッチする作戦だ。

 動画サイトとかで銃弾をゼラチンで受け止めるやつあるだろ。あんな感じで、ゾルの範囲がめちゃくちゃ広いだけだ。


 音速マグロが確認されてからまだ数年。その捕獲方法は全然確立されていないからこれも試作案の一つだろう。コンピューターでシミュレートぐらいはしてくれていると助かるけどな。

 ちなみに他の、これまで尊い犠牲を出しながら音速マグロを捕獲してきた方法は、海面に誘導するという手法もある。ブレーキも利かずに海面へ突進した音速マグロは空に向かってかっ飛んでいって、どこか遠くの海に落下しその衝撃で死ぬ。回収がめちゃくちゃ難しいという難点があった。

 海底に誘導して激突死させる、スニーキングダイバースーツで接近し遠距離仕様の水中スナイパーライフルで神経毒弾を打ち込むなんかもあるが、死亡率が超高い。


 特に今回は音速マグロが複数体確認されているから一網打尽を狙わないと反撃でやられる。だから海中ゾル化プランになったようだ。

 なおこのゾル剤にもクラゲスライムの成分が使われているとかなんとか。


『アルト。網の設置が遅れているからそっちを手伝ってやってくれ』

「うぇーい、オレ以外居ねえの? 手伝い」

『水中スクーター持ってきてるやつが少ないんだ。評価プラスしとくから』

「貸し出せよそこは……へいへい。行きますよ~」


 仕方なくゾル散布から網設置へと作業を入れ替わる。この罠で捕まえるマグロを一匹貰えるわけだから、ダルくてもちゃんと仕掛けておかないといけない。

 オレたちの作業度はボディとヘルメットに仕込まれたカメラで監視され、上の船にあるモニターでも見られるようになっている。で、成功報酬は百万だが貢献度次第で増額される。まあ……ケチ臭いオケアノスだから雀の涙だろうがな。ついでにオレはマグロ譲渡で大幅減額されているだろうし。


 水中スクーターを向けて遅れている網張りを手伝う。水の中を大雑把に進むことは素人ダイバーでも難しかねえが、細かく三次元に移動して網や道具を引っ張るのは慣れていないと難しい。

 海は広いし大きい。そんなところで、マグロが恐らく通るっぽいルートに罠を仕掛けるわけだから網もクソデカいサイズになる。自力で泳いで整えるのは大変だ。持ってきてよかった、水中スクーター。

 ただここは端っことはいえ魔物の跋扈する海域。冒険者が何人も集まって作業していると、寄ってくる魔物もいた。


「チッ! 弾代ぐらい請求したいぜ!」


 コボルトシャーク。トカゲだかオオカミだか、そんな感じのツラをした小型のサメだ。金属をバリバリ砕く強力な歯と顎を持っていて、死体の腹を掻っ捌くと稀に希少金属が手に入ることがある。

 ともあれ凶暴で人を襲う魔物だ。網を張っていた雑魚冒険者を狙ってやがる。


「そいつをやったら仕事が増えるだろうが!」


 水中スクーターで近づきながらVA-NGを連射して一匹の脳天を破壊。魚に痛覚があるのかないのか、学者どもは論争しているんだがとにかく多少の傷じゃ平気なのは確かだ。弾丸に毒でも塗ってない限り、銃は頭を狙わないと効果が薄い。


「助かった! ありがとな親切アルト!」

「だぁれが親切マンだ、冒険者なら自己防衛しろっつーの!」


 他のコボルトシャークがこちらを警戒して狙ってきた。近づいてくるなら好都合だ。VA-NGを両手で構えて狙う。


「お亡くなりになりやがれ!」


 もう一匹も脳天直撃。さらばだ軟骨魚類。骨が柔らかいから楽に弾丸が突き刺さる。

 後の一匹は銛をぶん投げて処理、もう一匹は近づいてきたらナイフで仕留める。そう彼我の距離から計算していると、残った二匹はビビったのか方向転換しやがった。

 クソ。他の雑魚冒険者を襲われたら面倒だぞ。普段なら応戦できるやつも作業中で対応力が低くなっている気がする。

 そう思ったら、


「チェェェエエストオオオオオ‼」

「うるさ!」


 水中でゴボゴボ言っているのに響くでっけえ掛け声と共に、逃げたコボルトシャークが真っ二つに切り裂かれた。

 ブラジリアン示現流のチェスターだ。手に持っている刀の峰が青く発光し、なんか海水を噴出するスラスターに変形していた。

 ヤバいやつと遭ったとばかりに最後のコボルトシャークが逃げるが、刀が噴出する勢いに乗って短距離だがサメより早く追いついた。


「ブラジリアン示現流『ジ・ナーダ』!」


 なんか技名叫ぶとまたコボルトシャークを真っ二つにした。これが……ブラジリアン示現流……真っ二つにするだけだな。


「技名って叫ばないといけねえの?」


 周囲に敵も居なくなったのでチェスターにそう訊ねたら頷いた。


「そん時の気分にごわす」

「ちなみに『ジ・ナーダ』って?」

「ポルトガル語で『よかよか』(どういたしましての意味)じゃっど」

「なんでそんな技名なんだよ……」


 地球の反対側で広まっている謎の流派について深く考えないことにした。

 それはともかく、チェスターも腕はそこそこ良いんだよな。弾代かからず、好戦的な魔物を刀一本で何匹も退治している。数メートルクラスでも楽に倒すらしい。

 オレはそんな真似したくねえけどな。周辺の魔物が寄ってきた際にはこいつに任せておこう。


 冒険者作業中……


 途中に休憩を挟みつつ五時間ぐらい経過しただろうか。ちなみに普通のスキューバダイビングで潜る時間は三十分から一時間が限度。ボンベやダイビングスーツの性能がダンチだから冒険者は何時間でもいける。

 ようやく指定された規模の網とゾルを設置したかなーと思う。眼前に見える作業進展率も九十七%を表示している。

 あとは安全地帯でここに音速マグロが通るのを待つだけ……と思ったらヘルメット内部にアラートが鳴り響いた。


「うるせえ⁉」

『緊急事態だ。その海域に音速マグロが接近してきている。冒険者は直ちに船上へ上がるか、安全な物陰へ避難しろ!』

「やっべ……! 船は……遠いか!」


 オレはその時海底近くで作業していたので、ここから船まで上がろうとすると下手すれば途中で音速マグロに突っ込まれる。視認すらできない速度で。

 オレは死んだことにも気づかないだろう。というわけで海底に隠れる。作業しながら逃げ込める岩陰を幾つか吟味していた。

 小さめの洞穴みたいになっているところへ隠れて天井にへばり付く。音速マグロが生み出す水中衝撃波はまさしく音速で周辺に伝播する。それに直撃すれば、内臓がミックスジュースみたいになってお陀仏だ。まあ、ある程度の防護服は着ているんだが。


 と、その時だ。


 洞穴の外を機雷でも爆発したかのような轟音と激しい潮流が荒れ狂う。音速マグロが通過していく。オレはヘルメットが外れないように押さえながら早くやり過ごされろと願った。

 秒速千六百メートルの圧力が海の中で全方位へ放射され海中も海上も嵐のようになっている。衝撃波を耐えても水に押し流されてひとたまりもないだろう。周囲との超音波通信も、船上からの通信も途絶えている。万が一船が沈んでいたら水中スクーターで帰らねえとな。


 暫くして衝撃波が落ち着いた様子になったので外に顔だけ出して確認をする。罠に捕まっていない音速マグロがいる場合はまだ隠れていよう。

 激しい衝撃波で海底の砂や海藻、砕けた珊瑚なんかが舞い上がって普段は馬鹿みたいな透明度をしている海がかなり濁っている。ヘルメットを操作して短距離超音波センサーでマグロを検知しようとすると、罠に相当数引っかかっているのが見えてきた。

 動いているやつは……いねえな。泳げずに罠で動きが止められれば音速マグロは窒息だか、体温の異常加熱だかでそのまま死ぬ。


「よーし、マグロどもは全滅か。……にしても多いな。十匹はいるぞ」


 音速マグロの生態はそれほどわかっていないが、あまり群れないらしいと言われている。理由はたとえ自分が音速を出す怪獣だろうと、隣で同じく音速出しているやつ居たら衝撃波が変な方向からぶち当たって来るのを嫌がるからじゃないかとか。

 集まってもせいぜい二~三匹。それが十もいやがる。


「……なんか嫌な予感がするな。とりあえず一匹確保してサッサと船に上がるか」


 マグロにトドメを刺す用の銛を構えて近づく。

 徐々に砂煙が晴れだしている海中で揺蕩っている冒険者の姿も見える。気絶しているか死んでいるか。ダイバースーツの性能が良ければ(そして衝撃波で壊れていなければ)生命維持の電気マッサージなどが行われているはずだ。体の内部がジュースになっていたらもうダメだろうけれど。

 船パイエケス号の影を探すが、流されたか移動したかですぐ近くにはいなかった。救助拠点がないならオレがなにかしら手助けしても今は無駄だ。

 オレたちの装備にはガイドビーコンが仕込まれているから、たとえ沈没していても他の船が救助にやってくると思うが。そんぐらいの保証はオケアノスもしているっていうか、してないと誰も依頼を受けない。なおビーコンは死んだら消える。死体は回収されず、地元民にとって運が悪ければ種子島屋久島あたりの海岸に打ち上げられるか、魚の餌だ。


「アーメンソーメンおまんじゅう。来世ではブッダになれよ」


 適当に祈っておく。魔物が湧き出る海なんだ。化けて出ないとも限らない。

 しかしひょっとしてオケアノスの連中、作業員の冒険者たちを音速マグロを誘引するエサにしたんじゃねえだろうな。基本的に人間を襲う魔物は、冒険者が十数人も集まっているここを見つけたら襲ってくる。

 まあ、事実がそうでも追求なんて不可能なんだけどよ。大事なのは暗黒メガコーポに罠を仕掛けられても生き残る算段をしておくこだ。

 そうしていると短距離超音波通信が繋がったのか、冒険者の一人が寄ってきた。


「アルトどん、無事じゃったか!」

「おー、チェスター。手前も生きてたか。衝撃波はちゃんと避けたか? 脳がシェイクされて溶けたりしてねえ?」

「よか。危なかとこじゃったが、正面からナミヒーラでチェストばして衝撃波を切り裂いてどげんかしもうした」

「秒速千六百メートルで押し寄せてくる衝撃波って刀でチェストできたっけか……」


 意気揚々と刀を抜いて興奮しているチェスターを疑わしげに見る。

 ……たぶん、衝撃波にふっとばされてたまたま安全なところに落ちてどうにかなったんだろう。きっと。


「まあいいや。生き残ったならちょっとマグロ殺すの手伝ってくれ。そのヴァルナアストラ社の新兵器で」

「これはおいのブラジリアン親友が伝統的な方法で鍛冶した正真正銘の日本刀でごわす」

「もう改造しまくってんだろ……」


 でも音速マグロを切るのはやってみたいのか、群れが引っかかっている罠へ向かってついてきた。マグロが突っ込んだあたりはゾル状のゼリー飲料みたいな海水と、蜘蛛の巣が百個絡まったような細い糸で空間が埋め尽くされている。ダイビングナイフより刀の方が切り開きやすい。


「一番でっけえやつを狙って……ん?」


 ビビッとヤバい気配を感じた。遠くから近づいてくる、異形の出す音を海水が伝えてくることでそう感じるのか、ともかく危険な雰囲気だ。 

 装備を構えながら水中スクーターに付けられたリミッターを解除する。クソ。バッテリーが使い物にならなくなるから使いたくねえんだが。


「アルトどん?」


 チェスターが異様な雰囲気に振り向いて、オレと一緒にやや濁った海中を見ながら刀を手にした。

 影が。

 砂煙を押しのける大きな影が悠然と寄ってきた──


「クソが! ツインヘッドシャークだ! ファッキントッシュ!」


 ダンジョン周辺海域の獰猛なハンター、双頭のサメがこちらに向かってやってきていた。他の魔物を食い散らかすことでも知られている食欲の権化が狙っているのは音速マグロか、既に片方の頭が加えている冒険者の死体か。

 ツインヘッドシャーク。まだ討伐例のない危険な魔物で既に冒険者は百人以上殺されている。最低で三個体が目撃されていて、軍艦を襲う百メートルはある特大サイズ通称『フォルネウス』、あとは二十メートル前後と八メートル前後の大と小がいる。

 やってきたこいつは小サイズの方だが、八メートルってだけでホオジロザメの倍はデカい。映画『ジョーズ』に出てくるサメがこれぐらいのデカさだ。人間も丸呑みする大口が、二つもついてやがる。


「逃げるか戦うか」


 武器になるのはVA-NGが一丁とVS-Gが一つ。あとは隣のブラジリアン示現流使い。

 こんぐらいの軽装備で撃破できる個体なら既に誰か討伐してんだよ。高価で持ってこなかったけど小型魚雷とかも売っているんだからよ。


「ああああ……クソ! 借金が増えてもボクは元気です! チェスター、逃げるぞ!」


 マグロの確保を諦めて逃亡を決断。エサが近くにあれば追ってこないかもしれない。サメの気分なんてわからねえけどな。

 だがチェスターは不敵に笑って──るかどうか、ヘルメットだから知らねえが──刀を構えて前に進み出た。


「うむッッッ! よか死に頃じゃッッ!」

「おい、無理に止める暇もなけりゃ、援護してやる余裕もねえぞ⁉」

「アルトどんは逃げんね。オイはやっど! チェーッチェチェッチェスト! こげん大物を切れるば、誉れじゃっど!」

「え? それ笑い声なの? 無理がねえ?」


 ツッコミを入れたが、もはやチェスターはツインヘッドシャークに挑むことは確定しているようだ。刀一本で。やべえやつだわ。

 心中なんてゴメンだ。残念ながら当然の如くオレは逃げることにした。水中スクーターを動かして斜め後方に離れていく。大型の魔物から逃げる際には海底へ向かう方が隠れる場所が見つかりやすい。

 チェスターは刀を上段に構えて待ち、ツインヘッドシャークは悠々と近づいていく。あの巨大なサメからすれば人間サイズの生き物がなにか構えていても気にしないように。だが、松毬みたくびっしりと並んだグロい歯を見せつけて口を大きく開いている。

 八メートルの巨体に水中銃VA-NGは利かない。良いところに当てても脳に到達する前に肉で止まる。援護の狙撃をしてやるなんざ無意味だ。

 サメとチェスターの間合いが近づいた。当然のように齧ろうとする大口を開けたサメに、男が吠えた。


「ブラジリアン示現流奥義ッッッ『ボア・ソルチ』ッッッ‼」


 食いついてきたサメの下顎を踏み台に一瞬で魔物の頭上へ移動したチェスターが、周囲の水がキャビテーション現象で泡が生まれるほどの勢いで振り抜いた!

 水中に青白い放電の火花が飛び散る。最大出力でナミヒーラに組み込まれた電撃発生装置も作動させたらしい。下手に近くにいると感電しそうだ。

 電撃を伴うブラジリアン示現流の一撃は巨大なサメの上顎から頭半分ほどを切り飛ばしてしまった。マジかよ。すげえ……が、

 ツインヘッドシャークの頭は二つあるんだ。

 怒り狂ったもう一方の頭がチェスターの体に噛みついた。歯の一本一本が包丁みてえなデカさをしているそれが体に食い込み、高ランクのダイバースーツを容易く貫通して肉と骨を押しつぶしながら切断していく。

 それを噛んだまま振り回してチェスターの血が大量に広がった。


「なんのこれしきの致命傷ッッッ!」


 ヤケクソに叫んで、刀を強引にサメの無事な頭へ突き刺した。だがそれでも相手は怯まずボロ屑のようにチェスターを噛み砕き、もはや男は動けなかった。

 あの時代錯誤の剣士みたいな冒険者は、賞金首になっている凶暴な魔物の首を落としたが殺しきれずに死につつある。

 クソ、だから逃げろっつったのに。あの馬鹿が選んだ自殺行為ではあった。仕方ない。


 ギリギリの距離までオレは離れて様子を見ていた。

 ここはオレが音響爆弾VS-Gを投げつけても、効果範囲がツインヘッドシャークに届く位置だ。

 本来はサメなんて巡航速度でもそこらの水泳選手並に早く、遠距離からVS-Gを投げても届く前に移動される。だが今はやっこさん、自分の頭をぶった切ってきた剣士に噛みつき、振り回して怒りをぶつけその場に留まっていた。

 チャンスだ。VS-Gで気絶させたらチェスターの刀を借りてもう片方の頭も破壊してやれば始末できる。

 オレは賞金首のツインヘッドシャーク討伐報酬も貰えるし、あいつが音速マグロを食い散らかすのも防げる。


 もう死んでいるかもしれんが、運が良ければチェスターも死に損なうかもな。チラッと見ただけだが、あいつはオレのやつの何倍も高価な、ヴァルナ社の高ランクな強化スーツを着ていた。緊急時には人工筋肉が体をブロックごとに止血し、生命維持装置も高性能だ。

 死んでたとしても仇討ちしてやるとしよう。この前パチ代五万エレク借りたしな。うるせえけどチェスターはいい奴だった。


「オラアアア! チェストオオオオ!」


 気合たっぷりに叫んでVS-Gをぶん投げた。水中の抵抗を減ずるように爆弾が変形し、強力な音波を浴びせる形になる。

 本来なら冒険者が近くにいたり、接近戦したりしているときの使用は厳禁で下手すれば村八分にされるんだが、チェスターは死んでいるからセーフ理論だ。

 サメ野郎の近くでVS-Gが展開。死の音波を聞かせてやれ!

 効果範囲外なのにサメの胴体からの反響でビリビリと水の震えを感じるが、強力な音波兵器は直撃したようだ。チェスターの死体にも当たっているが、枕経だと思ってくれ。

 サメって生き物は(よく見えないが)耳があり、更には体表にも側線という器官があって海の中で音……振動をキャッチする能力に優れている。

 その能力は百キロ先の音も拾えるぐらいだ。百キロ? 本当かよ。

 そんな敏感な聴覚を持つサメが音波兵器を近距離から直撃されたら?


「殺ったか⁉」


 当然! 大ダメージは間違いが……間違い……


「……めっちゃキレてるように見えるんだが」


 気絶しなかった。あるぇー?

 大ダメージは大ダメージっぽい。そもそも片方の頭が上半分は切断されて大出血しているし、電撃と音波を次々に浴びてかなり混乱しているように見える。食いかけのチェスターもそのへんに放り投げて捨てた。

 いや……まあ確かに音波兵器で一発だったらこれまでに色々と試した誰かが討伐していることになんのか?

 サメは嗅覚も良い。視力は種類による。そしてロレンチーニ器官という、近くの獲物が動く筋肉から生み出される微弱な電流を感知する高性能生体センサーを持っている。

 そんなサメちゃんが、数十メートル先で攻撃しかけてきていたオレの存在に気づいてブチ切れた顔を向けてきた。


「フン……今日はこのぐらいで許しておいてやる。貴様には殺す価値もない」


 適当に捨て台詞を吐いてオレはリミッター解除した水中スクーターを最大速度で動かしてその場を離れた。

 そしてツインヘッドシャークは……追いかけてきた。


「とほほー! もうサメ退治は懲り懲りだよー! ……ってボケてる場合じゃねえわ! クソボケがマグロでも食ってろゴジラみてえに!」


 最初から逃げてりゃよかった!


挿絵(By みてみん)

エリザ・ベルモンド

イラスト:ミチハスさん

あんなオボコっぽいのに凄い格好だ…!

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