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掌編32:『アルト・ザ・上級冒険者』



 10億の箱を奪いに暴徒が押し寄せてきつつある最中でオレらは選択を迫られていた。

 

『とりあえず逃げるか。アルト、乗れ』

「あいよ」


 箱を抱えてスペランクラフトジャケットの頭の上に乗ると、ローラーダッシュでその場を離れだした。


「逃げたぞ!」

「追え!」


 なんて叫び声が聞こえるが、遅え遅え。三岳島の特徴は島民の9割9分は車両を持っていない(オケアノスがパンピーの車両使用を嫌っているので許可が滅多に降りない)ため、車並みの速度で進める強化アーマーに追いつくことは困難だ。

 そう思ってたんだが。


「ヒャッハー! 待ちやがれ!」

「あの強化アーマーごと売っぱらってやるぜ!」

「うわ! 追いかけてきやがった!」

『改造された電動スケーターか。あれなら車両扱いじゃないというわけだな』


 数人のチンピラが銃を手にしてスケボーやローラーシューズを使ってかっ飛ばしてこっちに向かってくる。近年発達した小型高性能バッテリー技術によりああいった乗り物でも改造すれば時速50kmは出るだろう。安全性とかはガン無視だが。


「オラァ!」

「センセイ、右!」


 クソ! 撃ってきやがった! センセイに指示を出して射線から離れる。流れ弾がそこらの建物を削った。


『撃ち返すか』

「いや、銃撃戦までやったらオケアノスに捕まっちまう」


 一方的に撃たれただけならまだしも反撃で銃器を使ったら色々と面倒だ。まあつまり、既に監視カメラに映っている後ろの連中はオケアノスの実験室送り確定なんだが。刹那的な生き方を選ぶチンピラにとってはそんなことは脅しにならないらしい。

 

「ゴカイくん! 野生に戻っても元気でな!」

 

 オレは叫びながら箱の中に入れていたオオキナゴカイを振り回して背後から追いかけてくるチンピラに投げつけた。

 10メートルはあるどでかい多毛類の魔物が二人ほど巻き込んで事故らせた。


「よっし!」

『……マズいぞアルト。車両で来るやつがいる』

「えっ!?」


 別の道から荒っぽい運転で並走してきたのは小型のバスだ。そこには数人のチンピラが乗っていて窓から銃を突き出している。

 

「公共のオケアノスが運営するバスじゃねーか! 乗っ取ってやがる!」

『思い切ったことをするなあ。電子制御だったはずだが……』


 そして問答無用で発砲してきたのでスペランクラフトジャケットを盾に隠れる。機体は平気でも外に乗っているオレはヤバい。ダイバースーツ着てないから撃たれたら死ぬ。

 目先のカネに目がくらんでバスジャックまでやらかすチンピラがいる島、三岳島。素敵な観光地だな。


『こうなればもう反撃した方が……』

「あのバスぶっ壊したらバス代請求してくるぞオケアノスは」

『目に浮かぶ』


 クソ。人質を取りながら一方的に攻撃してるようなもんだぞ、あのチンピラども。

 そんなことを考えていると別の方向から頑丈そうな装甲車が更にオレらを追いかけて飛ばしてきた。

 そっちも襲撃者かと思ったら、装甲車のルーフから機銃を出して朗らかに笑っている赤毛の女が手を振っていた。ゴジラさんだ。


「やっはー、アルトくぅん。元気してる?」

「頼むからその物騒なもんをこっちにぶっ放すなよ!?」

「じゃあちょっとバスから離れてねぃ~」


 言うが早いか、ゴジラさんは機銃をバスの方に向けて思いっきりぶっ放し始めた。

 窓ガラスなんて障子紙レベルで突き破る軍用機銃のフルオート射撃に、窓から身を乗り出していたチンピラどもは悲鳴を上げて引っ込みながらもバスは慌てて離れる進路を取った。

 容赦なくゴジラさんは逃げるバスのケツに機銃をぶっ放すと後方の両タイヤが撃ち抜かれたようでグネグネ動いてバスはそこらの壁に突っ込んだようだ。


「よぉーし、お仕置き完了ってところかねぃ」

「お仕置きのレベルが処刑すぎる」

「時々派手に罰を与えないと、ああやってオケアノスを甘く見てやらかす若者が出るしねぃ」


 倒れたバスへと今度はどこからともなく現れたオケアノスの警備員たちが近づいていき、割れた窓に催涙弾をぶち込んでいた。油断なく銃も構えている。

 チンピラどもは運よく生きていたら人体実験か奴隷行きだろう。果たして運がいいと言えるのか。自分らでやった行動だから仕方ないが。


「界村アルト、冒険者センセイ」

「ん? なんだよエリート課長じゃねーか。運転手に転職したのか? 初乗り幾ら?」


 装甲車の運転席に居たのは第一ギルドのエリート課長だった。今日も馬鹿みたいなアプサラを光らせている、銀行員と役人を足して割ったようなメガネの男だ。


「緊急時だから交渉役に駆けつけてきたのだ! それより、早く箱を手放さなければ延々とああいった輩に襲われるぞ。オケアノスに売る方向で手を打つべきだ」

「でもなあ……なあセンセイ?」

『かの有名なAIの父であるチューリング博士も今後の人類大絶滅に備えて宇宙開発を進めろと言っていたしなあ』

「欲深すぎる! オケアノスに売る分だけでも借金が半分ぐらい払い終えるだろう! それにお前たちならまだ稼げると私は見ている。目先の欲に釣られて、日々の安全を疎かにするのはチンピラと変わらないぞ」


 うーむ、確かに危険は危険だよな。下手に名前と顔を覚えられたので、今後パチ屋で背中から刺される可能性も考えられる。


「そこでオケアノスに売れば上級冒険者に昇格し、二等島民の資格が与えられる」

『二等島民?』


 センセイの疑問の声にエリート課長は頷いて言う。


「三岳島の正式な島民といったところだな。店舗の店主等がこれにあたる。島に税を払う義務を負うが、その分受けられるサービスもあるし、先程のチンピラのような三等島民に襲われた際には警備員に守られる権利や、反撃しても正当防衛として扱われる」


 他にもテナントを借りられる権利、警備ロボの貸し出し許可、二等島民用商業施設への入場許可、更には日本人以外向けだが、日本国内へ入国するためのビザ発行と手続きまでやってくれるようだ。


「ついでに上級冒険者の場合は二等島民が払うべき税はギルドへの貢献で相殺されるのでほぼ無税となり、返済の取り立ても緩くなる。現状、かなり人数が少ない特権的階級であり、色々と便宜も図ってもらえる。今後も三岳島で活動をするならば是非とも受けておくべきだ」

「たぶん数が少ねえのって、上級になれるレベルで稼いだ冒険者って辞めるか死ぬかしてんだよな……」


 だって現状で言えば10億だからな。二人で山分けしても手数料引いて四億ずつ。リタイアしても十分な稼ぎだ。

 しかしまあ、オレだとそんなカネ持っていてもパチ代で消えそうだから仕事を辞めるわけにはいかないんだが。


『アルト、いいか』

「ん? おうちょっと相談タイム」


 センセイが小声で話しかけてきたので課長に背中を向けて通信機でやり取りをする。


『ひとまずここはオケアノスに売ってもいいんじゃなかろうか。襲撃が続くと魔寿司にまで迷惑が掛かる』

「10億は人を狂わせるには十分な額か」

『そうらしい。……だいたいあのチェスト、また作れるだろうしな』


 それもそうか。希少品度で言えば前に売ったピキャストの方が材料は手に入りにくいので作れない道具ではある。

 一品物の異物ではなく今後二個三個と手に入るとしたら(何個も出したら価値が下がるかもしれないが)、一個目はオケアノスに恩を売りつける形で渡してもいいかもしれない。


『ウィーロンとヴァルナ社にはDMで連絡し、次に手に入れたときにこっそりと直接売買するという手もある。ヴァルナ社の方には海底遺跡で見つけたレーザー銃を売ってもいいだろうしな』

「まあ……偽物じゃねえのは見て分かるからなこれ」

『前回のピキャストのときもヴァルナ社には渡せなかったが、その代わりに寿司エネルギー変換システムの設計図を提供した分の恩もあるから大丈夫だろう』

「あれ? 寿司エネルギー変換システムってセンセイの機体についてるやつだよな? そんなのいつ提供してたっけ?」

『ほら、3巻のときに』

「まだ2巻も出てないんですけど!?」

 

 思わず自分でもなにを言っているかわからないツッコミを入れてしまった。

 ともかくそういうことになって、オレらは頷いてエリート課長の方を向き直った。


「よし、それじゃオケアノスに売って証拠動画も配信するから頼むぜ」

「賢明な判断だ」

「あらぁ~……エリート課長、冷静を装いながらも手がガッツポーズになってるよぅ」


 ゴジラさんからツッコミを入れられているが、どうやらかなり喜んでいるようだ。

 一応エリート課長は僅かながらでも先んじて売り出されることを知って(教えられた)、販売開始までで稟議取って予算確保して10億即決で出しつつ他のライバルを蹴落としたわけだから、社内的には手柄ってことになるのか?

 まあ、中に外見以上の大容量が入って重さが変わらない道具なんて、海運会社のオケアノスからしてみれば間違いなくお宝だ。石油からバナナまでなんでも運ぶが、もしこの箱の容量がタンカー一つ分とかに改造できたらとんでもないことになるだろう。


 とりあえずオレらの手元からオケアノスに譲渡されたことを証明する動画を撮影する。ついでにチェストの中に、試しに車についていたどでかい機銃を放り込んで使えることを確認していた。

 ゴジラさんも一斗缶ぐらいの大きさの箱にスルスルとマシンガンが入っていって目を丸くしていた。


「凄いねぃ。重さもほぼ消えてる。これに装備突っ込んで背負えば、兵士が一人でジャベリン何本も運べそう。むしろ中に兵士を入れて運ぶとか……」

「居住環境までは知らねえぞ。しかしこれ使えば、オケアノスの海底拠点に荷物運ぶのも楽なんじゃねえの? 課長」


 利用方法について尋ねてみると、彼は軽く小馬鹿にしたように肩を竦めて告げた。


「いや、これはすぐにオケアノスの研究部に回されて、徹底的な調査が行われるだろう。電波が通るのかとか、放射線を通すのかとか、熱や時間の流れや重力に変化がないかとか……常識的な科学者がまた発狂するかもしれないな。そして構造を把握して複製、あるいは改良を試みるはずだ。そのまま現場に回すことはない」

「堅実だな。つーかオレらが拾っといてなんだが、こんなファンタジーな魔法の箱なんて複製できるのか?」


 原理とかさっぱりわからんぞ。特別な材料……タカラオトシゴの宝箱と、ポータルイカなのもなにが関係しているかわからん。いや、ポータルイカは触れたものを亜空間に消し飛ばしている的な能力なら関係あるのかもしれんけど。

 エリート課長は頷いて応える。


「もちろん私にも科学的に詳しいことはわからないが、オケアノスの研究部は優秀だ。例えば以前に渡したビルダー。あれだって吹き付けるようにして物質を生成するなどまるで魔法かSFのような道具で、他に似たような機械は他社も作れていない。それでも研究部はどうにかオリジナルを解析し、製造することに成功しているのだ。現象に再現性があるならどれだけ魔法のように見えても科学であり、科学ならばそれを作り出すことができるのだそうだ」

『ふっ……人間も中々やるじゃないか』

「センセイが魔族の幹部みたいな台詞言ってる」


 しかしまあ、冒険者の活動に使われる特殊素材のダイバースーツや従来より遥かに高電力量になったバッテリー、活動時間が十倍以上になった空気ボンベに海底でも使える一部通信システムなどなど。

 異海ができて5年で、この海から引き上げた異物や魔物を使って新たに作られた革新的な技術の数々だ。オケアノスだけではなくヴァルナ社、媽祖集団、日本でもフジバヤシ・テック社なんかも多くの新製品を開発していた。そりゃウィーロンも注目してそうな技術が生まれているわな。

 

 キャバーンキャバーン! オレらに即金でカネが振り込まれる音がする。

 キャバーンキャバーン! そしてそれが借金に吸われて口座からすぐさま消えるのも配信された。虚しい。それでも相当量の借金が消えたわけだが。ついこの前までさだまさし並の借金があったと思うと大いなる進展だ。

 

『はい。というわけで今更私たちを襲ってもお金も現物も持っていないので、物騒な考えをしている者はやめた方がいいだろう。あと今回で私とアルトは上級冒険者に昇格して二等島民になったようだ。二等島民が入れるオススメの店などを教えてくれると助かる。それでは今回の配信はこれぐらいで、みんなも気をつけて帰るように』

「なにその挨拶」


 センセイの謎の挨拶にコメントは定型らしく『センセイ、サヨウナラ』が大量に流れていた。学級会か?

 なにはともあれ、こうしてオレらは二度目の高額オクを果たしてついでに上級冒険者の資格も取れたのであった。

 上級冒険者……憧れでボクそれを目指して日々頑張ってますってわけじゃなかったんだが、なれたもんは仕方ねえな。

 ギルドでアイスとかタダにならない? これ。


『そうだ、アルト。また作る材料はあるのだが……この機体についている物資回収用のコンテナをチェスト仕様の拡張空間に改造するのに使っていいか?』

「ん? まあそうすると一回の冒険で回収できる量が増えるか」

『借金返済にお金稼ぎも大事なのだが、やはりなんといっても冒険をして色んな魔物や宝を持ち帰る方が楽しいからな』

 

 ということになって、どうせ作るのはセンセイなわけだからスペランクラフトジャケットのコンテナは改造されることになった。

 コンテナが広がると予備のボンベや食料なんかも持っていきやすくなるしな。それにこれまでは取捨選択で捨てていた寿司ネタになるかならないか微妙そうな魔物なんかも持って帰れる。

 あんまり競売で荒稼ぎしているとまたチンピラに目をつけられるわけで、冒険者稼業のための投資だ。

 センセイほどじゃねえけど、オレも冒険は嫌いじゃねえからな。

 魔物と戦うスリル。手に入れた宝が高価値かどうかのギャンブル。冒険が成功して稼げたときの脳内麻薬。

 殆ど冒険ってのはパチみたいなもんだ。オレたちの海の物語は続いていく。



 余談だが。

 センセイがオケアノエックスで今回の襲撃計画のログを調べたところ、オレらを襲うように煽っていたのはオケアノスが一般利用者を装って作っているアカウントからだった。

 運用しているバスの電子制御も『たまたま』停止しているのでそれを使うように指示されていた(今は書き込みが消されている)。


 つまり自作自演で襲撃を煽ってオレらを追い詰め、契約を迫ったらしい。

 ついでに実行者のチンピラどもは捕まって実験台送りで後腐れもない。


 ……カス!



 ******



 数日後。

 エリート課長から電話あった。


『界村アルト! あの箱を複製したら開ける度にチェストとか叫び声がするのだが! どうなっているんだ!?』

「もう解析して複製したのかよ!? 早えよオケアノス研究部!?」


 どんだけ優秀な人材いるんだ。







おまけ


一等島民(無税。島内での消費活動には経費で補助が出る)

・オケアノス正職員

・オケアノス専属上級冒険者(実績があって自発的に給与を得て所属している)


特別一等島民(実質、一等の下で二等の上。経費は出ない)

・ゴルゴン姉妹(一等島民の所有物扱いで保護されている)

・オケアノス専属下級冒険者(借金等で無理やり所属させられている)

・オケアノス外部委託警備兵 (ゴジラさんなど)


二等島民(業種によって異なる登録費・税金が掛かる。審査あり)

・島内の店舗経営者(エリザ・ウリン含む。それぞれ支払っている)

・上級冒険者

・グレイ(オケアノス専属ではなく協力者で、前科もあって信用されていないので二等になった)

・仇村伊那(フジバヤシ・テック社の現地班長ということで登録)

・日本政府関係者

・ヴァルナ社職員(開発部長ルナーニや専属テスターアルジュナも)


三等島民(三等の中でも上下あり)

・オケアノスのツアー等で来る観光客(三等の中では保護されている)

・二等島民の経営する店で雇われている従業員(保護されている)

・日本人冒険者(日本政府との関係を考慮して密かに優遇されている。実は警備部によって撃ち殺された日本人は数少ない。最悪でも追放処分)

・その他一般冒険者


(非公式)四等島民

・低級冒険者(冒険の成果が少なく、どうにか生活しているだけでギルドへの貢献度が低い者)

・オケアノスに借金をしているが専属になるほどではない実力の冒険者

・特定の国からの渡航者(潜在的なスパイ扱い)

・媽祖集団関係者 (シャオディエなど)


捕獲・追放対象者

・一定以上の犯罪的行為を行った者

・冒険者として再起不能な怪我を負った者

・商業・冒険活動を行わずに滞在している者


今月末にアルトザダイバー2巻発売予定!

ポップが出ましたでよ!

挿絵(By みてみん)

特典小説などもお知らせできるようになったらするので、よろしくです!

恐らく小説が4種類別に出るかも!?

あとオボーンにももう一回、短いの更新します!

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― 新着の感想 ―
>二人で山分けしても手数料引いて四億ずつ。リタイアしても十分な稼ぎだ。 >それでも相当量の借金が消えたわけだが。ついこの前までさだまさし並の借金があったと思うと大いなる進展だ。 これアルトとセンセ…
どんだけ薩摩汚染されてるんだよw もうオケアノス研究部は島津製作所を名乗っちゃえ
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