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掌編21:『アルト・ザ・ウェットエージェント』



 オレらが借金を4億ほど払い終わってすぐのことだ。

 鉄球で破壊された店の修理があって休業中な魔寿司で、ウリンにツケで頼んだ海鮮丼大盛り海鮮抜きを食っていたときである。海鮮抜きでもシャリの上に飾り付けられた紫蘇とかきゅうりとか刻み海苔でなんとか食えるやつ。虚無を所得しているような気分になる。

 センセイもペタペタと店内の修繕作業を行っていた。雑に形だけ戻すのは簡単なんだが、細かくデザインも作り込むとビルダーでも時間が掛かるようだ。


「センセイ! そこもっと金ピカに! 宝石もまぶして!」

『材料がない……メッキと色硝子でどうにか……』

「安っぽいのは駄目ヨ!」


 無駄に豪華さをマシマシで作り直されているようだ。

 そろそろ稼ぎのために次の冒険に出たいところだが、大金を返済したことでオケアノスバンクから今後の返済についてエージェント(借金取りを良く言うとそうなるらしい)が説明に来るというので待機しているところだった。


「はあ……借金返しても返してもまたいつの間にかできやがって。どうなってんだこの世界。借金禁止にしろ」

「それで最終的に困るのはアルトくんだと思うけど……はい、おまけの真空断熱サーモンの切り身」

「おお、サンキュ」


 異常に熱伝導性が低いことで有名な鮭の切り身を軽く炙ったやつをシャリ丼に乗せて貰った。表面はちょっと焦げてるのに中はヒエヒエで不思議な味だった。


 茶を1リットルぐらい飲んで腹を膨らませていると、店内で充電位置についていた警備ロボメカルスが警告音を出した。


『ビビビ。店のすぐ外で揉め事が起きているから注意だ』

「ん? このポンコツ、もっとカタカナっぽいカタコトで喋ってなかったっけか?」

「センセイが音声機能を改造したんだって。変換が面倒だとかなんとかで」

「なんか微妙な事情を感じるな……」


 そうだよな。平仮名喋りとかカタカナ喋りとか雰囲気を出すためにやるのかもしれんが、ぶっちゃけ聞き(読み)ずらいからな。時々見かけるけど。外人とか赤ちゃん言葉とか。


「それはそうと揉め事?」

『ビビ。防犯カメラの映像を出す』


 外に仕掛けてあるカメラとデータ連動をしているらしく、メカルスが異常を感知して報告するようだ。店のテレビに防犯カメラの映像が映る。

 今どきはカメラの映像も綺麗なもんだ。しっかりと、なにやら黒尽くめの服装をした女が冒険者崩れのチンピラどもに取り囲まれている様子が現れた。

 いかにも知性も理性もなさそうないかついカス男どもが、腰の引けている女の肩を手にして何処かに連れて行こうとしている。


「三岳島の日常風景だな。女追いしチンピラ。クスリ売りしチンピラ」

「そんな『ふるさと』みたいな歌にしてる場合じゃなくて、助けないと!?」

「仕方ねえなあ。寿司ランチャー使うか」


 とりあえず刃物持っていることは確定なチンピラが複数人いる三岳島の路上環境で、颯爽と飛び出していくのは自殺行為だ。下手すれば近くの女もモノのついでで刺される。

 かといって路上で銃器を使う場合はオケアノスに許可を取っていない限り、逮捕からの強制労働や罰金刑を食らう。

 しかし寿司ランチャーは銃器ではない。寿司を発射するためのジョークグッズの類だ。使用には制限がないと思う。たぶん。


「エイエンノネムリブカは切らしてるから……痺れシビのお寿司で!」

「時々思うんだけどなんで毒の素材まで用意してんだこの店」

「毒でも下処理を上手くやれば食べられるようになるんだよ?」

「へえ」

「シャリとの間にシソを挟んだりとか」

「そんなスシローのえんがわレベルの処理でどうにかなるのか!?」


 もっとこう、超絶技巧とかでなんとかしないものなのか。

 訴えられたりしねえだろうな。オレはやや疑問に思いながらも寿司ランチャーに寿司を補充して、店の入口を体半分出るぐらい開けて、こっそりとチンピラどもを狙い撃った。堂々と姿を晒して顔を覚えられたらイヤだからだ。

 三連射、寿司を保護したまま射出する。狙い違わず、チンピラどもの口へと寿司は吸い込まれた。訂正。一人鼻に入った。まあいいか。泡を吹いて痙攣したという結果は同じだ。

 

『倒れた者たちは私が移動させておこう』

「海に捨ててもいーぞ。路地裏に放置するのと死亡率そんなに変わらねえだろこの島だと」

『……比較的安全そうなところに置いてくる』


 と、センセイが出ていってチンピラを回収した。オレもチンピラの落とした財布とかを回収しておく。オレが取らなくてもいずれ取られるから安心して欲しい。


 そんで絡まれた女の方を見て──あまりの不吉さに「うげ」と呻いた。


「フヒッ、ど、どうもぉ~」


 監視カメラからは黒尽くめに見えていたそいつはなんつーか死神か魔女でも着ていそうな真っ黒いローブを頭からすっぽり被っていて、やたらメカニカルな櫂(船を漕ぐオールみたいなの)っぽいデカい杖を手にした女だった。

 陰キャの癖に浮かれてハロウィンに参加したやつみたいだ。


「フヒヒ、あ、あのぉ、自己紹介しますけれどぉオケアノスバンクからぁ、やってきましたぁ、日本支部エージェントの『塚本カロン』と言いますぅ」

「エージェントって……借金取り!? このネバついた雰囲気の女が!?」

『アルト。失礼だぞ初対面に』


 ねちゃあ……ってなんかよだれでべとついたような上ずっているキモい声で挨拶をしてきて、瓶底眼鏡の奥にある寝不足みたいな目をにたーっと歪ませた。

 控えめに言って引きこもり暦10年を越えた喪女って感じだ。

 こんなのがエージェントというのはなにかの間違いじゃないかって思う。

 近づいてくると柑橘類が腐ってコバエ湧いたみたいな甘ったるい臭いがしてきた。様子を見に来たウリンが嫌そうな顔をしてオレに囁いてくる。


「香水キツイ人を店に入れないで欲しいネ。寿司が不味くなるヨ」

「手前が直接注意してくれねえかそういうの」

「フヒヒヒッ、香水じゃなくて暫くお風呂に入ってないだけでぇ……小生、なんか汗がベタベタして甘い匂いするんですよねぇ……おまけに一時間に一リットルぐらい汗を掻くから、常に水分補給が必要でぇ」

「病気だろそれ!」

「長く風呂に入ってないやつを店に入れないで欲しいネ! 別の喫茶店とかで打ち合わせしてくれないカ!?」


 カロン塚本は鹿児島県産みかんジュースのペットボトルを取り出してグビグビ飲み干して「フヘー」と甘臭い息を吐いた。


「小生、近くの喫茶店が出禁なんですよぉ。座ったら椅子が汗でびちゃびちゃネチャネチャするとかいう理由でぇ……この店主さんがレイシストでないならお店入らせてくださいよぉ。あとぉ一応エージェントとはいえ銀行員なのでぇ……差別的なお店はちょっと上に報告をぉ」

「……センセイ! 新しい椅子作ってもらうヨ!」


 ウリンが折れて店に入れることになった。ほぼテロだろ。

 



 ******




 店の片隅にセンセイが急ごしらえで作ったテーブルと椅子で話し合いをすることになった。ウリンは容赦なく高級な空気清浄機を作動させている。

 テーブルにはカロンが注文した、冷たいお茶がピッチャーで置かれている。そしてジョッキでごくごくとカロンは飲み始めている。

 センセイがチンピラを捨てに行く間、少し待っていなければならない。


「グビグビ……フヒー! いやぁ、夏は汗の量が増えて嫌ですねぇ……一応目立たない吸水速乾繊維を編んだローブを着ているんですがぁ、フヒヒ、保水しきれない分が裾からびちゃびちゃ垂れてきて……」


 ウリンが凄く嫌そうな顔をして、カロンが歩いた跡をモップで拭いている。ポタポタ水滴が落ちているし、今日は晴れなのに靴がびっしょり濡れているような足跡があった。


「もうなんか『濡女(ぬれおんな)』とかそういう妖怪だったりしねえか? オタク」

「あっ! 勘違いされがちですけれどぉ、ぬ~べ~とかに出てくる全身ビショビショな妖怪は『濡女子(ぬれおなご)』といって別の種類なんですぅ。最近読んだネット小説で解説されてましたぁ」

「どーでもいいわ。っていうかよく借金取りなんてやってるよな。そんな雰囲気で」

「フヒ。これでも腕っぷしには自信があってぇ……聞いたことありません? マッハ蹴りの塚本とは小生のことでぇ」

「いや手前じゃねえよマッハ蹴りの塚本は! 普通に空手家のオッサンだよ!」


 いきなり謎の称号を名乗りだした女にツッコミを入れた。カロンは再びジョッキにお茶をおかわりしつつ、告げてくる。


「実際、小生は女だし多汗症だし声も苛つく、体臭もキツイ、怒鳴られると涙が出てくるとかそういう雑魚生態なので、債務者と直接会うとトラブルになるんですけどぉ……」

「だろうよ。三岳島のチンピラなら殴って借金をチャラにさせようとしてくるだろ。15割ぐらいの確率で」


 15割とは借金をチャラにさせた挙げ句にカネまで奪っていくやつが5割という意味だ。


「フヒヒッ、そういうこともあるんですがぁ……実のところ、小生はオトリでして」

「ほう?」

「小生を舐めて──あっ物理的にじゃないですよぉ? 小生の汗を舐めたらお腹壊して入院しますから」

「役に立つ補足ありがとう」


 オレは自分の座っている椅子を一メートル後方に動かした。蒸発した空気にも近づきたくない。


「冗談ですよぉ。で、小生をバチクソ舐めて暴行したら、近くで監視しているお仲間の『死神取り立てチーム』が債務者側からの違反確認ということで人権剥奪して連れて行くんですねぇ……その後はどうなるか知りませぇん」

「……お茶のおかわり要る?」

「どぉもぉ」


 オレの人権が心配になったのでコポコポとピッチャーからお茶を注いでやる。

 ちらりと窓の外を見る。怪しげなワゴン車が店の近くに止まっていて、屈強な男二人がこちらを見ていた。あれが『死神取り立てチーム』か。

 なんか苛つく女だと思ったら誘い受け地雷だった。生理的嫌悪感から引っ叩かなくて正解だったぜ。


「まぁぁそんなこんなで、返済の見込みが薄くて暴行とかしてきそうなカス債務者を合法的にハメるためにばっかり回される役目なんですがぁ」

「あれ? オレってカス債務者扱い?」

「一般的にぃ、定職にも就いていないのに億単位で借金をしてしまうのはぁ……返済が怪しいとしか」

「それはそう。にしても、一発はぶん殴られるかなんかする役目なんじゃねえの? 大変だな」

「フヒヒ、体表を覆っている粘液……あっ汗でぬるっと滑らせると顔を殴られてもそんなに痛くないのでぇぇ……エッチなことしようとしても全身から汗がドバドバ出てるの見るとたいていの人は引いてくれるのでぇぇ……」

「絶対妖怪だろ」


 などと話をしていると、センセイがチンピラを何処かに捨てて戻ってきたので本題に入ることにした。


「では改めましてぇ、先日の入金で本年度の借金利息が払い終えたことをお祝い致しますぅ~パチパチ」

「うえっ! 拍手したら水滴飛んできた」

「手汗スプラッシュですぅ」

「得意げに!?」

 

 げんなりしながらセンセイから渡されたおしぼりで水滴を拭う。もう汗とかじゃなくてコイツ自体がスライムみたいな液状生物じゃなかろうな。

 それにしても、利息。

 そう、借金には金利が付き物だ。日本だと年間15%程度の金利が発生して、1億借金していると1億1500万の借金を返さないといけない。

 この金利は国によって様々だ(借金持ちなので気になって調べた)。だいたい、主要国だと10%から20%前後のところが多いが、例えば近場の国だと韓国では上限49%、イギリスだと上限を規制する法律がなかったりもする。あんまりに利息が酷いと裁判で無効になったりもするらしいが。

 オケアノスバンクは一応国際的な銀行で貸付や融資で巨額の儲けを出しているので、そういった顧客が離れないように暗黒メガコーポにしては個人向け借金の利率が低く30%! グラシカ!(鹿児島弁で可哀想を意味するスラング)

 

 改めて借金のデカさにげんなりしていると、カロンが話を進めた。


「見事に年間利息を返済し終えたお二人ですので、返済プランが変更されますぅ~具体的には、今までみたいに入金即返済といった形ではなく、お客様のご都合に合わせての額を毎月返済に充てさせてもらう形でぇ……」

「マジか。いや待て、毎月返済ってどれぐらい……?」

「最少で1万エレクは振り込んでいただきますが、元金を減らすため纏った額を返済したい場合は別途でお支払い頂けます、フヒヒッ」

「月1万! もう借金終わったも同然じゃねーか!」

『これで自分の必要なモノを買えるようになるな。』


 急に優しくなったオケアノスの取り立てに、オレらは沸き上がる。

 しかしびしょびしょ女の放った声で冷水を浴びせかけられた。いや体液じゃなく。


「まあ、1年後にはまた利息返済プランに変更されますけれど。良かったですねぇ。オケアノスバンクから利息ジャンプ(利息だけ払って借金を持ち越す)することが可能だと判断されたのでぇ……利息で延々と絞っていけますからぁ、元金返済しなくてもいいですよぉ」

「……ちっとは返済して元金を減らすか」

『そうだな……』


 そう、銀行としてはずっとリボ返済してくれていたほうが長期的に儲かるっていうかこの年利だと3年とちょっとで銀行側は借金分が戻って来る。

 普通の冒険者だと明日にも死ぬかもしれねえから取り立ても厳しくなるんだが、どうやら継続して稼げそうだと判断されたようで。

 ひとまず利息分返したから様子見されているだけのようだ。


「フヒっ返済プラン変更の契約書をデジタルデータで送っておきますのでぇ署名しといてくださいねぇ。紙の契約書だと小生が持つとビッチャビチャになっちゃうのでぇ」


 ポチポチと冒険者も使っている完全防水仕様のタブレットを操作しながら説明する。冒険者とは別の意味であらゆる道具に防水が必要そうだ。


『今送られてきた。AIで精査……ううむ、一年間限定だがこれだけ見ると非常に良心的な返済プランに思える内容だから不思議だ』

「減らさねえと来年また億単位で利子発生するってのが問題なだけでな」


 最低でもあと五億ぐらい返済しときたい……一年以内に?

 いつの間にか億プレイヤーになっていたのかよオレ。当初の、日本でやらかした借金なら余裕で返済できているレベルだぞ。

 

「となるとやっぱり、価値が高いことが証明されたピキャストを作るのが一番なんだよなあ」

『パイレーツメタルの採取か……まだブルーホールにはあまり近づいていないから、行ってみるか』


 ちなみに探検大好きなセンセイが、ダンジョンの最奥(まあ、縦穴を更に降りていかないといけないんだが)まで行っていない理由は単純で、貧乏性というか魔物図鑑を埋める的な趣味で、とにかく目についたものを採取して荷物パンパンになって途中で引き返すからだ。

 安全に稼ぐなら近場でいいんだが、百万二百万稼いでもどうにもならん借金だからな。

 ひとまず、懲罰的な返済プランは脱したのでカネを貯めて装備を充実させることも可能になった。主に、いざというとき逃げるための煙幕や爆弾等の消耗品を買い揃えないと深層は生きて帰れない。


「それではぁ、頑張ってくださいねぇ。あ、一応少額でも毎月の返済は忘れないように……生存と返済意思の確認になりますのでぇ……滞ったらまた、小生がやってきますよぉ? フヒヒッ」


 そうして、ジトジトした陰気な借金取りとの会合は終えて──店の掃除を手伝わされてから、解散となった。

 よし、稼いでも借金で即持っていかれるってのはモチベ上がらなかったが、次からはちょっぴりやる気が出るってもんだ。

 宿に戻って明日の用意でもしとくか。まずは異海で拾ってきた他の冒険者のナイフ類(換金するとすぐ引き落とされるから何本かキープしていた)でも質に入れてカネを作ってパチを打ち、それでカネを稼いでウナギを食って夜のパチで爆発だ。



 *****



「じっとりしてやがる!?」


 オレの今のお宿な日本人街にある日本会館。残念ながらパチでウナギ代を稼ぐことに失敗したオレが戻ってきたら、集会所みたいになっているホールに肺に水が溜まるほどの湿気が漂っていた。

 そうするとテーブルで鹿児島名産の知覧茶をペットボトルでラッパ飲みしていた女がぬどろぐちゃらぁ~っとしたパスカル度高そうな笑みを向けてきた。カロン塚本だ。


「どぉぉもぉぉフヒヒッ」

「テメッ、なんでいやがる!」

「実はぁ、泊まっていたホテルがぁ、ベッドを寝汗で三日続けて駄目にしたら追い出されてぇ……ブラックリスト入りで他の宿も泊めてくれないんですよぉ……そこで日本人三岳島滞在者の避難所であるここに流れ着いてぇ」

「オケアノスバンクの社員だろうが! そっちの宿舎とか行けよ!」

「一応出張扱いで三岳島に来ているのでぇ、用意されてないんですねぇ……フヒヒッ」

「お仲間の死神取り立てチームは?」

「彼らぁ、仕事以外だと全然カバーしてくれないからぁ、普通に別の宿に行ってますぅ……オフの日に小生が襲われても助けてくれないんですよぉ? 酷いなぁ……フヒッ。それに会社からはアルトさんが逃亡しないよう監視とまでは言わないですけど、チェックしとけって言われているのでぇ……どうぞよろしくでぇす」


 オレは日本会館の管理人である強化アーマー『トビー』の搭乗者である、警備員・仇村伊那を睨むが、ちびっこは肩を竦めて答えた。


「オケアノス所属とはいえ、日本人の女性で困っているのなら受け入れない理由がないのです」

「こいつ1時間に1リットル汗を掻くとか言ってんだけど、仮眠室のタタミ腐らねえ?」

「恐らくは『メルヘン症候群』の『濡れ女子病』あるいは『雨女病』なのです。むしろ大変なのだから周囲のサポートが必要なのです」


 そう言いながら仇村は手元のタブレットを操作して、やつの警備会社の系列会社が作っているクラゲ系魔物を材料にした吸水ポリマー入りマットなんかを見せて取り寄せるかどうか聞いていた。


『メルヘン症候群』ってのは戦後あたりに外人から名付けられた、主に日本人が稀に掛かる奇病の一種だな。

例えば昔は狐憑きとか言われていたやつで、精神病かと思われていたんだがガチで後天的に体の一部が狐みたいな動物に変化した事例が科学的に観測された。昭和まではなんとなくそういうことがあってもなあなあで検証されてなかったんだな。いやマジで。

他にも蛇に変わる、カエルに変わる、女体化する、とかの変身系。『うわん』としか喋れなくなる。逆さ喋りになる。定期的に誰かに抱きつかないと死ぬなどなど、行動もまるで妖怪みたいになってしまう病気の総称だ。

 ファンタジーやメルヘンみたいな症候群ってことでそう呼ばれた。原因は不明だし治し方もわからないことが多い。

事例としても同じ病気が日本全国で多くて10件ぐらいしか発症していないので研究も進んでいない。(女体化が比較的多いらしい)


 ま、つまるところ『謎の病気』ってトコだからな。その中には汗が1時間に1リットル出るのも無くはないだろう。知らんけど。


「フヒヒ……管理人さん優しい……フヒヒッ」

「おい気をつけろこの水ポケモン、手前のこと良くない目で見てるぞ」

「ボクは昔から可愛いので男女ともにそんな目線向けられるの慣れているのです」

「成人男性が可愛さを誇るのってどうなんだ」

「むしろ早く可愛くなくなれよ! 声変わりしろよ! すね毛生えろよ! 背伸びろよ! って心の中ではここ何年もキレ散らかしているのです」

「……手前のもメルヘンな病気なんじゃねえの?」


 いつまで経ってもガキンチョのままな病気。ありそうではある。

 となるとこの日本会館に寝泊まりする中で、病人が二人。サナトリウムか?

 ある日目覚めると、オレは全身から汗が吹き出るガキンチョに変身しているかもしれない。


「……新しい宿を探そう」

「感染はしないのです」


 そんなこんなでメシが不味くなりそうな隣人ができたりもした。オレも空気清浄機買おうかな。



カロン塚本

汗が1時間1リットルも出るので常に大量に水分を補給しているが

実は飲まなくても死にはしないのが逆に怖いらしい。なので自発的にガボガボ飲んでいる

水に入ると発汗は収まるようだ

持っているメカニカル櫂は自分で作った専用電撃兵器『ヌーカーエイト』。使うとよく自分も汗で濡れているため自爆する


メルヘン症候群

主に日本で発生している変な病気?現象?の総称。

これが妖怪の元ネタだったんじゃないかというような変化を齎すものがある。数百万人に一人程度の発症率なので世間の認知度が低い。

異世界から持ち込まれた呪いや魔法めいた病気の類だという与太話もある。

江戸時代中期頃から記録に残る。

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― 新着の感想 ―
絶対異世界から江戸時代に戻ってきたアイツのせいだな
このキャラをいかに不快感保ちつつエロくするか、2巻のイラストが楽しみ
ガロン(3.7リットルくらい)じゃないんだ
感想一覧
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