掌編19:『アルト・ザ・儲けの選択』
『アルト。この前のトロの鎧があった場所に行こう』
「食いしん坊か?」
センセイの提案にオレは半眼でそう返事をした。
魔寿司の変とも言うべき、女二人の尊厳に関わる怪しげな食材を手に入れた翌日のことだった。
人間には消化できない類の魚脂を食べても、ちょっと総排泄腔がぬるついてお通じが良くなったという程度な(報告しないで欲しかった)センセイはまたぞろ食いたくなったのかそんなことを言った。
どっちにしても異海へ向かう途中、三岳島の道路をセンセイに乗って走りながらの会話である。あんまり他の車両が走っていない道路は快適だ。
ちなみに最近、センセイが走るのを見て自分も移動手段が欲しくなったのかバイクの密輸が流行っているらしい。漁船に載せて三岳島に運び込む方法で島民が手に入れている。正規の手段……オケアノスから買うと異常に高いんだ。あいつら、一般島民に道路使ってほしくねえから。
ただバイクを手に入れたヤカラはそれを使って楽しいツーリング……ではなく、窃盗して逃げる手段にしたり冒険者を轢き倒して強盗したりといった、より稼ぐための道具に使っているので、バイクごと三岳島の警備員に銃撃されて死ぬやつも出ていた。
閑話休題。
『そうではなく、あの台座から手に入れた朽ちた鎧の部品らしき装甲板のことだ』
「そういやそんなのも回収してたな」
『あれを自宅で分解、解析してみたところ、素材に希少金属が含まれていた』
「希少金属?」
『オケアノスで発見、報告された新元素による金属体──通称【パイレーツメタル】だ』
パイレーツメタル。異海ダンジョンで発見されることがある(というかここでしか産出されないし人工的な合成もできていない)非常に希少で貴重な金属のお宝だ。
不可思議な電子構造は他では見つからないどころか地球上、あるいは宇宙にも存在するか怪しいとまで見られていて異海金属とも呼ばれている。現在、パイレーツメタルとヴァイキングメタルの二種類が発見され、研究が進められているホットな新素材だった。
希少すぎてマイナーだからか、ググると海賊の格好して音楽バンドやってる変な連中ばっかりヒットするのが難点だな。
「マジか。あれかなり高いぞ。確かグラムあたり10万エレクでのギルド買い取りだったか?」
発見が結構レアだ。ダンジョン中心部のブルーホールに近いところでしか見つからず、岩塊に含まれている。パイレーツメタルが入っている岩塊は非常に脆くなっていて、ナイフの柄頭で殴りつければ割れるぐらいだ。
で、割ってみると中で赤く発光している物質があったらそれがパイレーツメタルだ。一つの岩塊で数十~数百グラムぐらい含まれている。つまり数百万~数千万エレクのお宝だ。
「オケアノスの連中にバレて回収される前に全部奪っちまおうってわけか」
『それもあるが……このパイレーツメタルを素材に使えば【ビルダー】や【ピキャスト】を高性能にしたり、複製したりできるぞ』
「マジか」
ビルダーってのはセンセイが使う吹付け工事用の道具みたいなやつで、マテリアルを吹き付けて3Dプリンターめいて物質や道具を作ることができる。店の改装工事もこれ一つで建て増しすらできちまうし、設計図があれば機械だって組み立てられる。
ただし現在センセイが使っているのはオリジナル・ビルダーのデッドコピー品を少し改造した劣化品で、素材の強度や物質生成の精度が低いらしい。ラジオは作れてもパソコンは作れない的な制限が掛かっている。
オケアノスが生産していて、やつらが使う工事用強化アーマーに一部装備されている。こんな人工島の上に街なんて作れたのはビルダーのお陰だ。豆腐みたいな箱型の建物なら数時間で作れるからな。
もう一つのピキャストもスペランクラフトジャケットの装備で、ツルハシ型の物質分解装置だ。これで殴れば岩盤だろうが鉄板だろうが魔物だろうが削り取れる現代科学を越えた便利グッズ。
これのお陰で、センセイは従来の掘削工事の数百倍の効率でトンネルを掘ることができるからオケアノスから度々掘削依頼を受けるハメになってるわけだな。
どっちにしろ異物級のお宝で価値は計り知れない。
「現状、センセイの専用装備なわけだが複製品を作って売り払えばパイレーツメタルを売るよりも高くなるかもしれないわけだ。よし! 取りに行こうぜ!」
『アルトの装備にしなくていいのか?』
「取り回しが悪い上に高価すぎてイヤだ」
なんつーかサイズが、スペランクラフトジャケットみたいなロボだと登山用ピッケルみたいなサイズ感なんだが、オレが持つと小型の錨みたいな感じで重たいし運びにくいんだよな、あれ。
それに色々冒険者各位で方針はあるのかもしれんが、オレの場合は装備を失っても舌打ちで済ませる程度の金額に抑えたいというのはある。
高価な装備を捨てて逃げれば助かった場面で躊躇ってサメに食われた冒険者を何人も見ているからだ。
余談だが冒険者じゃなくて鮎釣りの釣り人でも、うっかり手放して川に流された鮎釣り用の竿を追いかけて溺れて死ぬやつが結構居るらしい。鮎釣り用の竿って何十万とかしてクソ高いからな。
「必要なときはセンセイが持ってりゃいいしな。コンビなんだしよ」
『そうだな。一生の絆に結ばれている』
「そこまでコンビだっけか!?」
『借金の絆では結ばれているな。連帯保証人の』
「それはそう……」
微妙に気分が盛り下がる。オレとセンセイがオケアノスにやっちまってる借金は、互いが連帯保証人なわけだ。一応は借金額も山分けにしているんだが、両方返済完了しないと終わらない戦いであった。
『まあ、とにかく材料を集めに行こう』
「おうよ」
そういうことになり、オレらは現場へ向かうのであった。
******
オケアノスのトンネルを使って移動したらバレそうなので、あの鎧が置かれていた地下空間がある座標をセンセイが記録していたからその真上から掘り進んで行くことになった。
異海ってのは冒険者が毎日数百人は彷徨いている。レアで高価な魔物やお宝なんぞを見つけたら奪い合いになることもよくある。
だからセンセイがすごい勢いで穴を掘っていたら怪しまれるわけで、対策としてビルダーで岩のドームを作り、覆って作業をしていた。
ピキャストを地面に叩きつけると、接触部から2メートル範囲ほどの地面が極小のダイスキューブに分解されて結合を失う。それをオレが吸引器みたいなの(センセイが作って渡してきた)で吸い込んでは穴の外に排出していくことでどんどん穴は深くなっていく。
「まるで銀行強盗するために坑道掘ってるみたいだな」
『ピキャストで壁を掘ってオケアノスの研究所とか忍び込めばパイレーツメタルが大量に手に入ったりしないだろうか』
「さすがにリスクが高すぎるだろ」
時々センセイもアウトローだよな。若干引く。
さて、高速掘削作業によって地下空間まで開通した。オレとセンセイは中に入り込み、周囲に他の冒険者がいないか確認する。
『よし、念の為にオケアノスのトンネルとの穴は塞いでおこう』
抜け目無く邪魔が入らないように、ビルダーで穴を塞ぐ。その間にオレはお宝を回収に向かった。
「……この前ぶっ殺したビキニグソクムシの死骸が消えてるな」
このダンジョンの魔物はゲームみたいに倒したら消えていくわけではなく死骸は残るわけだが、それがない。
特にこの空間は閉鎖されているから片付けたなにかが居るかもしれない。ライトの出力を上げて視界を広げた。
ニョロっと壁辺りで細長い物体が動いた気がした。
「──ちっ! 海賊ゴカイじゃーねーか! センセイ、さっさとブツを回収して逃げようぜ!」
『海賊ゴカイ?』
「人間だろうが魔物だろうが人工物だろうが噛みついて溶かし食べる魔物だ! お宝も齧られちまうぞ!」
『で! 味は!?』
「知らねえ! でもベトナムだとゴカイ食ってるってパチ屋の店長が言ってた!」
『よし』
センセイがバリバリとブラスターの拡散レーザーを撃ち込んで牽制し始める。壁近くの海賊ゴカイは隙間に逃げ隠れしながら動いているようだが、どうも一匹ではなさそうだ。この魔物は群れて集まり、沈没船だって半日もすれば食い尽くしてしまう。
その間に、用意していた箱付き水中スクーターで台に置かれている鉄くずみたいな物体を回収して行く。
既に食われているのか空っぽになっている台座もそこそこ見かけて、全体的に数が減っているみたいだ。数百万はする希少素材なのに! 海賊ゴカイは異物や宝箱も分解していくので害獣度が高いクソ魔物だった。
うねうねと前方からも海賊ゴカイが身をくねらせながら飛びついてきた。
「魚の餌になりやがれ!」
ナイフで切り払って体節からぶっちぎれてもまだ蠢いている。体表を覆っている毛は異常に硬くて岩も削るから注意だ。
もう大丈夫かとライトで照らすと、前方にある岩壁の隙間という隙間から海賊ゴカイがはみ出てきていた。
「うげ! 回収完了! とっととずらかるぞセンセイ!」
『確かにこの数は厄介だ……!』
オレもニードルガンで弾幕を張りながら入ってきた穴へ戻る。センセイの強化アーマーはとても便利で強力なんだが、図体がデカいから死角も多いのと、軽めのダメージでも削られる度にエネルギーを消費していく。
海賊ゴカイの群れに纏わりつかれてはすぐにエネルギー切れになりかねない。
穴に入ってセンセイがすぐに蓋で塞ぐと、蓋に食いつくような衝撃があった。
だが冷静に、幾らでも蓋なんて作れるセンセイが何枚も重ねた後で穴を砂で埋めていく。これで海賊ゴカイどもも出てこられないだろう。
『よし、ラボに持って帰って素材を取り出そう』
「おうよ。……ラボ?」
******
魔寿司は元々二階建てで、二階はビジホみたいになっていた。オケアノスのテンプレ的な一般住居仕様建築らしい。
その中の一室をセンセイは寝泊まりに借りていたのだが、なにせ強化アーマーの整備や改造、道具の作成などもあって手狭になったみたいだ。
そこで、ウリンから店の改築を頼まれた際に三階を建て増ししてそこをラボ兼倉庫にしたようだ。
三階も半日ぐらいで作った(エレベーターもある)んだからビルダーってのはどんだけ便利かって話だな。
案内された三階には金床だの作業台だのチェストボックスだの、なんか弓矢を持ったヒトの骨格標本だの色々と置かれていた。
『抽出と精錬にはこのかまどを使う』
「でっけえかまどだなおい」
江戸時代とかのご家庭にあるかまどではなく、炭焼き窯みたいなブツを見てオレはそう感想を呟いた。
『溶鉱炉のほうが効率はいいのだが、マテリアル抽出用の溶鉱炉は現在のビルダーでは作れなくてな……』
「寿司屋の上の階に溶鉱炉か……」
『ともあれ、このかまどの中に回収してきた金属パーツを入れる』
本当に大丈夫なのかってぐらい無造作に、ザラザラとかまどの中にガラクタにしか見えない金属を放り込む。
『次に燃料としてロケットトビウオの内臓を入れる』
「爆発しねえか!?」
『蓋をするから大丈夫』
本当かよ。分厚い鉄の扉で燃焼室を閉ざして、かまどに着火した。
ボッと空気が爆ぜるような音が響き、かまど全体がほんのり赤く発光し始める。部屋の温度が一気に10℃は上がった気がした。よく知らんが超高熱が発生しているようだ。オレは倒れた。
「は?」
急に体が動かなくなって意識が遠のいていく。
『アルト? あっ! しまった。酸欠だ。私はいつもこのスペランクラフトジャケットで作業しているから大丈夫だったのだが』
言いながら窓を開けに行った。オレは極端に酸素濃度の下がった空気を吸わないよう呼吸を止めて、風が吹き込んでくるのを待った。
「危ねえから頼むぜセンセイ……」
『すまないすまない』
危うく死ぬところだった。作業中入室禁止の看板とかも用意しとかないと、うっかりエリザたちが入って危ないかもしれない。注意しておこう。
五分もすると精錬作業はどういうわけか完了したようで、かまどの熱が下がり、センセイが中身を取り出した。
耐熱セラミック製のトレイの上に、赤色の宝石めいたインゴットが置かれている。
『パイレーツメタルと有機素材の化合物だったからパイレーツメタルだけ残ったようだ。重さは約1kg』
「1キロ……!」
つまりは買取価格で1億エレクのブツだ。下手すりゃこれ手に入れて冒険者辞めるやつもいるぐらいだろう。
『山分けする約束だから半分はアルトの取り分として、これをどう利用するかだな』
「センセイの装備を改造したりするのにどれだけ使うんだ?」
『そうだな……1kgあればビルダーをアップグレードしてより高度なクラフトが可能になる。そうすれば、例えば適当な素材で簡易的な強化アーマーを作り出せるだろう。それを冒険者に売って利益を得るという方法も考えられる』
「ほほう」
いやまあ、上手いこと騙さないと冒険者も新興メーカーの作った強化アーマーなんてあんまり買ってくれなさそうだが。
他にも真水精製プラントや自然エネルギー発電設備を使って水や電気を使い放題にする、魔物用生け簀を作って養殖をするなどの方法で、いきなり儲かることはないがお得になるようだ。
『あるいはピキャストを複製するのにも1kgは必要だな。ピキャストの能力はオケアノスも知っているから、交渉次第で1億エレク以上の値段を付けさせることが可能かもしれない』
「たしかにな」
簡単にトンネルが掘れるだけでも滅茶苦茶便利だからな。一般的にトンネルを掘るシールドマシンって呼ばれる作業機械は、まあ大きさにもよるんだが10億円以上はお値段がする。ピキャストはそのマシンよりも遥かに早く掘れるわけだ。
大体、冒険者の活動としてセンセイが使っているから穴掘りがメインなんだが、本来の機能は物質を分解するやべー異物だ。幾らでも利用活用方法があるかもな。
『山分けして500gだけ私が使うのならば、ブラスターの強化とフラッシュ弾頭が3本作れるからそうする』
「うーん、そんでオレは売り払って5000万エレクゲットか……」
稼ぎの手段増加+生活環境向上か。
交渉で大金ゲットチャンスか。
センセイの強化+即金ゲットか。
「まあもちろん、1億エレクに替えた後でオレがそれを元手にパチ屋で増やして山分けするというのも」
『ない』
「選択肢の一つ」
『ない』
「……」
全否定されたわけだが、さてどれを選んだものか。
皆さんなら三つのうちどの選択肢を選びますか?
イラストのミチハスさんもつぎラノ用の描き下ろしセンセイを描いてくれておりまする! ありがとう!
https://x.com/michi_hasu/status/1993656475278004283




