掌編18:『アルト・ザ・伝説の装備』
異海ダンジョンのダンジョンっぽいところってのは下層区にある。
海底遺跡群は廃墟の街みたいなもんだが、そこのあちこちから下層へと潜れる穴みたいなのがあり、その先は天然の海底洞窟と人工の(人工って表現でいいんだろうか? 誰が作ったか知らんが)地下街みたいな空間が広がっている。
当然ながら、暗いし道は枝分かれしているし危ないしで、調査は表層の海底遺跡に比べて進んでいない。魔物狩りを稼ぎにするなら上の遺跡周辺で十分だしな。
しかし、その分探索の手が及んでいないので財宝の類は下層区のほうが見つけやすい……的なジンクスがあった。なにせまだこの異海を調べ始めて数年目だ。そんな統計データが揃っているわけはない。オケアノスが下層を探索させたいがために振りまいた噂な可能性もある。
つい先日、比較的安全な周縁部から海底遺跡群にある休憩所、そして中心にあるブルーホールを繋げるトンネルを工事していたわけだが、暴れるイサハヤワンデスワームによってトンネルが一部崩壊。下層区の空間と繋がった部分もあった。
トンネルの修繕もしないといけないわけだが、繋がった下層区の調査も必要ということでオケアノスの仕事依頼が発生し、センセイがそれを受けたのでオレも同行することになった。
オケアノスに借金をしちまっているオレとセンセイだが、オケアノス直接のミッションだと報酬の天引きに手心が加えられる。そうやって企業所属に引き込む策略だが。それとセンセイが一人で暗黒メガコーポの仕事を受けていると騙される可能性が大だ。
騙されないにしても交渉事とかの常識がないので、例えばこの前トンネル崩壊時にオケアノスの作業員数人を掘り起こして救助したこともサービスでやっている。オレならその場で交渉して報酬増額させている。そういったケチな精神も持たずに冒険者やっていると、搾取される一方になるから注意が必要だな。
ついでにオケアノスの船で海域まで行くと船内に積んである高カロリーバーとか食える。
『こっちだ。アルト』
「おお」
破壊されたトンネル(所々に灯りが置かれ、やがて荷物運搬用のレールも敷く予定だった)を暫く進み、がっぽりと空いた横穴に入った。
空間の中は半分天然洞窟のようだが、所々に遺跡が見える。かなり広いみたいだった。少なくともヘッドライト程度の灯りでは見渡せない。
『パスファインダー射出』
センセイがそう通信で告げると、スペランクラフトジャケットの背部ユニットからドーナツめいた投光器が数個飛び出ていってあちこちに配置され周囲を照らした。ヒカリ珊瑚を機体の方で食ったら出せるようになった機能だ。
「さて、目標はここの空間内部構造の把握と、魔物の調査だったな」
『ああ。このトンネルと繋がった場所が、閉ざされたエリアなのか、外海と通じているのか。閉ざされているなら魔物の量も限定的だろうという判断だな』
「お宝があるといいな」
一応は作業中に見つけたお宝はオレたちの物になる契約だ。まあ……オケアノスが送り迎えも管理しているからギルドに納品することになるんだが。
さて、未知のところを探索だが十分に広さがあるので、センセイを前衛にしてオレはカバーだ。入り組んでいる狭い遺跡とかだとセンセイでは身動きが取れず、ソナーも乱反射して使えない場合があるが、広い場所ならばオレよりも索敵能力は高い。
まずは底へと移動し、そこから探索範囲を広げていく。オレらのボディカメラに仕掛けられたマッピング機能で一通り移動するだけで地形は完成するはずだ。
ちなみに高額のお宝を発見した場合は、センセイがカメラの映像弄ってカットし、お宝はスペランクラフトジャケットに隠して帰る予定だった。オケアノスに全部売るよりはエリザに転売してもらったほうがマシだ。やりすぎると目を付けられかねないから幾らかはギルドにも納品しないといけないが。
『アルト! 前方になにかの群れだ! 這って来ている!』
「んん……グソクムシ系か?」
のそのそとナウシカの映画みたいに近づいてくる多脚の甲殻類。大きさは1メートルほどのやつが十数匹。気の弱いやつが見たら気絶しそうだ。
いやパスファインダーの灯す範囲に入って見えたが、グロ!
「ビキニグソクムシだ! きめえ!」
『ビキニグソクムシ!?』
「背中の甲殻が三箇所しか付いてなくて身が見えてるやつ! 撃ってよし!」
どういう進化すればそんなカスい防御面積になるんだと思わなくもないが、こんなんでも近づいたら齧ってくるし、動く速度はフナムシぐらい早い。いや早えなデカいのに。水の中なのに。ビキニで敏捷値がアップしているのか?
近づいてくるオームみたいな魔物の群れにセンセイのブラスターから放たれるレーザー光が突き刺さり一掃される。オレのニードルガンは弾代がもったいないのでお預けだ。いや、サボっているわけではなく補給が難しい水中の冒険では無駄弾は撃たないのが基本であって。
装甲が無いだけあって中身の肉をレーザー光が焼き切るため、巨神兵に薙ぎ払われたみたくあっさりとビキニグソクムシはやられた。
そしてセンセイから嬉々とした通信が届く。
『で! 味は!?』
「えええ……甲殻類だけど等脚目だろグソクムシは……等脚目ってフナムシとかダンゴムシの仲間だし……」
断言するがフナムシはどう料理しても美味くなかった。食糧危機のときに試した。
センセイがやや止まって、機体の顔面にあたるモニターがなにやら思案顔の絵文字になった。
『調べたところ、オオグソクムシは時々網に掛かったものが市場に出ているらしい。内臓は不味いが、身は美味いとのことだ』
「なんでも食うな日本人……」
『撮影し、内臓を取って肉だけ持って帰ろう。……内臓ってどこだ?』
機体が首を傾げる仕草を見せたので、仕方なくオレが解体しておいた。フナムシを食うためにあの小さい体から内臓を除去したこともある。ちなみに内臓全部取ってもフナムシの身はゴミみたいな悪臭がした。
暫く先に進むと、妙な出っ張りとその上に乗っている、部品みたいな残骸を見つけた。
時々、異海ダンジョンからは部品っぽい異物が見つかるがここにあるのは完全に朽ちているようだ。
「なんだこりゃ」
『台座に乗せられていたなにかの道具だろうか。スキャンして解析してみよう。朽ちた部品の形状からわかるかもしれない』
「そんなのできるんだ」
センセイが小型レーザー銃みたいな道具を向けてコンピューターで解析する。
『……どうやらこれは鎧らしき、体を覆う道具の残骸らしい』
「ヨロイ?」
『少なくとも人体に近しい構造をした生物の上半身に沿って作られた形状の部品だ。材質は不明だな。気になるから少し持って帰るか』
「なんでもかんでも気にしすぎじゃねえのかな。にしても、保存状態の悪い異物の類か?」
普通、異海ダンジョンにある遺跡は人の生活感がある物品は出てこない。テーブルや椅子すらないぐらいだ。誰かが着るヨロイだの、おしゃれ衣装だのが置かれているのは見たことがなかった。
『ふむ。この台座のようなところに文字めいた記号が彫ってあるな』
「異海文字ってやつか? 時々、建物なんかで見つかる記号なんだが意味のある文字なのかはわかってねえ」
『だとするとこの記号で【鎧】という意味かもしれない。念の為に撮影しておこう。意味を把握した文字を一定以上集めればAIで分析もできるだろう』
「真面目か」
『遺跡の謎を解き明かすのも冒険の醍醐味だ』
センセイの場合はオレみたくカネのために潜っているというよりは探検が好きでやっているフシがあるので、色々と楽しみ方があるみたいだ。
どっちかっていうとグレイのオッサンが新発見のために潜っているのと似た感覚だろうな。
他にも似た、残骸が乗っている台座みたいな出っ張りが規則正しく並んでいるようだ。
鎧展示室的な空間だったのか? いやそんな限定的な空間があるのか知らんが。同じ記号が台座に刻まれている。
だが残骸の数が結構マチマチだな。ひょっとしたらさっきのビキニグソクムシが食っていたのかもしれん。そんで甲殻を強化していたとか。
他に持って帰るものがなければ甲殻も採取しておくか。
ざっと体育館ぐらいの広さの空間に台座が並び、オレとセンセイは1番奥まで周囲を警戒しながら進んだ。
どん詰まりのそこにはまた台座がある。
しかし今度のは台座にドデカイ箱が置かれていた。ちょっとした衣服用ロッカーみたいな感じか?
「おっ! もしかしてこれ……鎧の完品が残ってるんじゃねえの!?」
『楽しみだな!』
「ひょっとしたら異物の類かもな、場合によってはこっそり持ち帰ってヴァルナ社とかに売ろう」
オケアノスの場合、新発見の異物は一定価格でしか引き取ってくれない。それがどんな有用な品かは不明だからだ。それでも、そこそこの値段ではあるがそこそこ止まり。小型の異物ならそれでもいいかもしれんが、このロッカー並の大きな異物だと絶対ヴァルナ社あたりに売ったほうが得をする。
とりあえずロッカー宝箱の周囲を点検して見る。慌てて開けるアホから死んでいくのが冒険者だ。
「──っと! 吸着地雷ガイが根本にびっしり付いてやがる。危ねえ危ねえ」
『吸着地雷?』
「岩とかに張り付いていて、動かすと爆発する貝の魔物だ。命ってなんなんだろうなって考えさせられるよな」
倒す方法は電流で痺れさせれば爆発しないで剥がれる。ポーチに入れている多目的海中用小型バッテリーからケーブルをダイビングナイフに接続。即席に電撃ナイフにして、切っ先で刺す。
剥がれたやつは更にナイフで身と殻を分離してやれば確実だ。爆薬っぽい生体物質は殻の方に含まれていて、トリガーが身だ。殻はギルドに売れる。
『身は魔寿司に持って帰ろう。美味しそうだ』
「イガイの仲間っぽい見た目だからな。たしかナマでも食えるタイプの貝だ」
『なるほど……意外と美味しい……ってことだな?』
「……」
『イガイなだけに、意外と』
「解説しないでいいから」
凄まじくどうでもいいセンセイの発言を聞きながら、宝箱に張り付いた吸着地雷ガイをひょいひょい外していく。こうした作業は強化アーマーのマニピュレータよりは人間の手先のほうが簡単にできる。オレの役目ってファンタジー冒険者チームの盗賊みたいになってないか?
とりあえず罠を解除して、他に問題がないかもチェック。そして漁っている間に他の魔物が寄ってこないかも注意しておく。宝箱ゲットに喜んで気が緩んだ瞬間にサメの餌になった冒険者は両手の指じゃきかないぐらいに居る。
そして安全を確保してから宝箱を開く。ひょっとしたら異物の鎧……強化アーマーの類が入っているかもしれない。どれだけの価値があるか……!
「あれ? どうやって開くんだこれ?」
『……どうやら完全に密封されているようだな。センサーによれば内部になにか入っているのは間違いないが』
「んだよ盛り下がるな」
『私が表面を削って開けてみよう』
センセイが削岩杖ピキャストをバックパックから取り出した。見た目はツルハシだが、物質の結合分解装置で何でも粉々にしてしまう万能鍵だ。
まあ、うっかり力を込めると宝箱全部をバラバラに分解しちまうかもしれないが。
そのへんの微細な力加減は、持ち主のセンセイがよくわかっているはずだ。たぶん。
ピキャストで撫でるように宝箱の角を削り、まるで段ボールを封じていたガムテープをカッターで切るみたいにすーっと四ツ角を割いて、一面を取り外した。
ライトで中を照らしてみると……おお!
「鎧だ……!」
『思っていたよりファンタジーな感じだな』
中に入っていたのは、最新型の強化アーマーとかじゃないが、見た目は中世ヨーロッパの騎士サマでも身につけてそうなプレートアーマーだ。プレートアーマーって中世だっけ? まあどうでもいいか。
そんで異常なのが、その材質による見た目だ。
なにせ鮮やかな赤と白で全てが統一されている。付属している兜、剣、盾までその紅白で彩られていた。
表面を塗料でペイントしたって感じではなく、まるで生命体のような雰囲気を出している。
「すげえ……」
オレは手を伸ばしてその不気味なほど赤い鎧に触れてみた。
むにっ。
「……?」
指先で突っつく。程よい弾力を返してくる赤い装甲。
「なんか……柔らかくないか?」
『どれ……あっ! 千切れた!』
「うおっ! センセイ気をつけろよ!」
スペランクラフトジャケットの無骨なアーム先端が触れたら、その部分がほぐされるように削れてしまった。異常に柔らかい。
センセイはその欠片を機体のスリットに持って行くと、吸い込んで材質を検査した。
『これは……魚肉だな』
「魚肉」
******
下手に箱から出して持つと崩れそうな魚肉アーマーを箱のままオケアノスのギルドに持って帰った。
ひと目見た職員は大喜びだが、簡易検査後は魚肉の塊と判明して「魚肉」と呟いていた。
一縷の望みに掛けて、異物検査室へ運ばれ、グレイのオッサンも同席してギルドの課長が異物判定器を近づけた。
判定器ってのは養殖したタカラオトシゴの稚魚だ。こいつを近づけると異物の場合『タカラ! タカラ!』と鳴き声を出す。いやマジで。
しかし残念なことに判定ならず。
「つまりただの……魚肉を装備の形に加工した一式?」
「そうなるな」
神経質そうなエリート課長は頷いた。グレイは写真撮影しながら提案する。
「名称は『トロの鎧』でどうだろうか。他のもトロの剣とかトロの盾とか」
「まあ……大トロみたいな色合いはしているがよ」
FFの方に出てこなかったか、そのネーミング。
「とにかく、新種の魔物でもないし異物でもないとなればギルドでは引き取れん。産業廃棄物として代金を払うならいいが……」
「えー、でもよ、この魚肉になんか画期的な栄養成分とか含まれているかもしれねえだろ」
「分析の結果が出た。パーチ目の赤身魚の身でしかないようだな……」
「パーチ目?」
オレが首を傾げると、センセイが機体の中からネットで検索して解説してくれた。
『俗に言うスズキ目だな。食用魚のほとんどはスズキ目に属する、いわゆるスタンダードなお魚って感じの分類だ』
「なるほ」
『ちなみに最近、分類が大雑把すぎるから再編しようかという話が学会で上がっている。それにより名前が変更されたらスズキ目はパーチ目になるらしい』
「全然ピンと来ねえな」
『そしてスズキ自体はホタルジャコ目に変更されるらしい。四国のじゃこ天の材料の』
「ホタルジャコ!?」
なんかビッグネームの大会社の社長から、田舎中小企業の下請けに落ちぶれるような変更だな。スズキも無念だろうに。
それはそうと、トロの装備セットはとにかく魔物ではなく、なんらかの食用魚のトロでしかないらしい。
「正直、誰かが作った現代アートかなにかではないのか?」
エリート課長の言葉には受け取りの拒絶が感じられた。
「そういえば私も海底の壁にバンクシーらしき落書きがあって撮影してきたが、現代アートが手に入ることもあり得るかもしれない」
「海底遺跡の壁にバンクシーはねえだろ!?」
「だが落書きの下にバンクシーってサインが」
「カタカナでバンクシーって書かれてるじゃねえか!?」
ともあれ、仕方なくカネには代えられないので、トロの装備は持ち帰ることにした。
寿司屋に売りつけるしかねえか……
*****
「ええ……なんの魚かもわからないし、いつ誰が加工したかもわからない切り身はちょっと値段を付けづらいかなって」
「クソッ! 普段ゲテモノの魔物なんて料理しているエリザから真っ当な意見を言われた!」
こっちでも買い取り拒否された。いやまあ、オレだって例えば海に潜っていて、なんともしれねえ魚のサクが流れていたとして決してそれを食おうとはしないんだが。
「でもまあ、質は良さそうなんだよね……」
エリザがトロの剣を慎重に持って観察しながらそう呟く。
「とりあえず大丈夫か検査して、賄いで食べてみる? お客さんにはちょっとね……」
「真面目かよ……つってもこれ以上放置しても痛みだしそうだから仕方ねえか」
はあ。ハズレ宝箱だったか。
エリザに引き渡して、いくつかのブロックに切り分けてから水気をキッチンペーパーで取り、試しに握った寿司をセンセイのスペランクラフトジャケットに食わせて分析させてみた。
『問題ないようだ。油脂分が少々多いが、毒素や危険な細菌、バクテリアなどは付着していない』
続けてウリンが毒見。
「味は……あっ、普通に美味しいネ。かなりいけるヨ」
「がーん!」
「なんでエリザがショック受けてんだ」
「ウリンちゃん……味覚が変わってるから普段あたしのお寿司食べてもそこまで美味しがる反応してくれないのに、この謎のトロをかなり美味しそうに……」
恨めしそうにエリザは手元のトロブロックを眺めた。自分が手を尽くして下処理したり隠し包丁入れたりタレに工夫したりした寿司よりも、どこのトロともしれん肉塊を切って寿司にしただけのモノが評価されたのが悔しいらしい。
「どんどん握っても大丈夫ヨ!」
「私も食べよう。スペランクラフトジャケットでは味がわからないからな」
「ううっ! ずるい! あたしも試食するからね!」
どうやら女衆は気に入った様子で、サササッとエリザが早握りしてその端から消えていった。エリザも試しに食って「美味しい! 口の中でとろけてる!」と喜んでいるようだ。
いやしかしオレに回ってこないんだが? ウリンもリスみたいにむしゃむしゃ頬張ってやがるし。どんだけ美味いんだよそのトロ。
ざっと一人で三人前ぐらい皆が食って落ち着いたのか、ようやくオレの方にも謎のトロが回ってきた。
醤油を弾くほど脂が乗ったトロだ。口に放り込むと、A5ランクの霜降りみたいな脂のサシがねっとりと溶け出して、赤みの魚肉をコーティングし芳醇な美味さを出している。
最高級レアステーキのレアな部分だけ食ったみたいな、そういう味わい。
なるほど、確かにうめえ。
「……?」
いや待て。美味いんだが、どっかでこの脂の味は食ったことあるような……
オレが考えている間にも皆はモリモリとトロを消費していた。
「そうだ! バラムツだ」
「……?」
「あれは白身だが、このトロに含まれる脂の味がバラムツによく似てる気がする」
「バラムツってなんだっけ? お寿司で見たことないような……」
「そりゃ販売が禁止されてるからな」
ウリンの手が止まり、顔が青ざめていた。
「バッ、バラムツって油魚のことカ!? ば、馬鹿な……あれは耐毒体質の我でも無理な……」
「おお。食いすぎると消化できない脂を下痢るやつ」
下痢っていうかこう、無意識のうちにぬるっとケツから脂が出てくるからオムツ推奨というか。
完全にバラムツと同じ魚というわけではなさそうだが、赤身のマグロみたいな魚の中で同じ脂を蓄えたやつがいたんだろう。ちなみにバラムツもスズキ目(パーチ目)だ。
まあ、一切れぐらいなら大丈夫なんだが。味はいい。韓国だと白マグロとか言われてたんじゃなかったっけか。オレも昔地元で取れたのをちょっとだけ食ったことがあるから覚えてたんだが、大量に食ったオッサンどもで地元は阿鼻叫喚になった。
エリザも顔を震わせて目を見開き、まだパクツイているセンセイを見た。
「セ、センセイ……食べても大丈夫って……?」
「うむ。私は問題なさそうだ。消化器官が特別だからか?」
その後、オレは店を追い出されたわけだが──数時間後に乙女の尊厳がどうのという酷いことになったらしいことはセンセイから後で聞いた。こう、トイレの争いというか。洗濯の嘆きだとか。
そして今後、持ち込まれた怪しげな謎の食材は店で取り扱ってくれなくなったようだ。
アレだな。よく考えたら当然だな。その辺に落ちていた食材には気をつけよう。それだけがわかった事件だった。
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「そこのキミ! 我ら三人はトロの勇者の子孫で、伝説の装備を求めて冒険者になったのだが知らないかい!?」
「いや知らん全然知らん」
なんか変な三人組に話しかけられたりもしたが、関わらんとこ。




