掌編17:『アルト・ザ・次にくるライトノベル2025に本投票しよう』
アルト・ザ・ダイバーが次くるラノベ大賞にノミネートされました!
これも皆さんのお陰です!
そこで本投票も是非…アルト・ザ・ダイバーに投票お願いします!
https://tsugirano.jp/nominate2025/
「『次にくるお店大賞』にノミネートされた?」
魔寿司の店内でグレイのオッサンから言われた単語をオレはオウム返しにして、恐らく奢りであるっぽいノンアル芋焼酎をぐっと飲み干した。
そして腕を組んで、記憶をどうにか手繰る。なにかおかしい。
「なんか……無限ループ時空に突入してないか? もしくはオッサンがボケて同じ話をコピペミスしたかのように繰り返してるとか」
「してないよ。いや、似たような話題を何度も振っているのはわかるけど」
「振りすぎなんだよ! 3回目だろ!? 全話数の1割が宣伝ってどんな作品なんだよこれは!」
「アルトくんどうしたの? 意味不明な発言をして」
「オレも聞きてえよ!」
ノンアル芋焼酎はどことなく芋臭くて喉を焼く謎の液体だ。アルコールは含まれていないが時々脳が誤認して酔っ払う。そんな感じの変な発言をしたらしい。オレが。知らんけど。
謎の既視感に気分が悪い。頭を振って意識をはっきりさせる。
「前にもう終わらなかったっけか? そのなんかコンテスト」
「いや、前にやったのはあくまで三岳島の一区を対象にした、本戦の候補を選ぶコンテストみたいなものだから。次にやるのが二区と三区を含めた三岳島全体でノミネートされたお店の中から大賞が選ばれるやつなんだ」
「そんなこと言ってなかっただろ!? 普通に大賞で選んでたじゃねーか!」
「大人の事情ってやつだよ」
なんでもこの前のコンテストが比較的内外に評判良かったので、追加で開くことになって選ばれた複数の店から決選投票という形で本戦が行われるようだ。
グレイが茶を啜りながら説明をする。
「というわけで私が君たち店舗の担当推薦人なったからよろしく」
「担当推薦人?」
「前回の予選では『店を営業しながら大賞用の宣伝をするのが難しい』『宣伝と実態がかけ離れている』などの問題があったので、『担当』と呼ばれる人が諸手続きを行うことが決められてね。遠慮なく担当さんと呼んでくれ」
「担当さん今日の寿司はオゴリだろうな」
「接待費で落としておこう」
「有能担当……!」
とりあえず腰のポーチからポリ袋を取り出してエリザに、
「これに値段とカロリー高そうな寿司を限界まで詰め込んでくれ」
と、頼むと嫌そうな顔をされた。
「アルトくん……普通に持ち帰りのパック頼みなよ」
「持ち帰り用パックの常識だと考えられないぐらい詰め込んでくれ」
「ほらヨ。カロリーの高いサラダ油」
「チッ。暫く油を舐めて生活するか」
「そんな化け猫みたいな生活しないで」
仕方なくエリザがポリ袋を受け取って、ボウルでちらし寿司かなんかを作り始めた。ウナギとかマグロとか入れてくれ。
ウリンがタブレットでスケジュールを確認しながら担当に尋ねた。
「それで担当サン。こういうのはイベントの宣伝開始日が決まっているみたいなことないカ? 開始日に合わせて宣伝の準備をしないとナ」
「宣伝開始日は──ずばり今日だ!」
「今日!?」
「早くね!? っていうかいきなりか!?」
ウリンがタブレットをポチポチ確認して「我操!」と罵りの短い叫びを上げた。
「SNSで検索すると他のノミネートされている店はもう全部宣伝しているし、特設ページを作っているところもあるネ!」
「動きが早えな」
「いやこれ絶対事前に準備していたダロ! 担当サン! 宣伝開始日っていつ頃決まっていたカ!?」
問い詰めるとグレイ担当員はさっと顔を背けて、モゴモゴと述べた。
「いやあその……ちょっとこっちがバタバタしていて、ここにだけ伝えるの今日まで忘れてたっていうか……」
「バタバタしてただと……!?」
担当さんの連絡遅れた理由に、オレたちは難しい顔をして頷いた。
「バタバタしてたなら仕方ねえな……!」
「きっと担当さんも忙しかったんだね……!」
「連絡が来ただけマシと思うネ……!」
「うん。なんかそう物わかりよく肯定されるとこっちも悪い気がするからゴメン」
担当さんが気まずそうに謝ってきたのでオレたちの精神的勝利ってところかな。
「しかしよ」
と、オレは根本的な疑問を口にする。
「別に張り切って大賞だのなんだのやらなくてもいいんじゃねえの? ぼちぼち固定客も付いているし予約も結構入ってるんだろ、この店」
主に提供されるのが高級寿司と酒だから客単価は高い。
店に入って一番安い一人前だけ頼んで帰る客はそう居ない。というか、エリザの腕前で一番安い寿司を食っても客は食欲ブースト掛かって次々に注文していくので、安くて数万、高くて数十万エレクほど一人で食っていくようだ。
魔物原価が結構掛かっているとはいえ、恐らくドバイの高級ホテルで働く寿司職人並に儲けているはずだった。
大規模大会のノミネート予選って形になっちまったわけだが、一回は選挙で勝利したわけだし知名度も十分なはずだろう。
「甘いネ! この生き馬の目を抜く飲食業界! ちょっと目を引いた、設定が独特だった、固定ファンが一定数居る、ノミネートに名前だけ上がったとかその程度だと二年目で打ち切られて消えていくヨ!」
「そ、そうなのか……? 打ち切られてって何を打ち切られるんだ……?」
「どうにかせめてコミカライズぐらいはされないとナ」
「コミカライズ!? 寿司屋の!?」
なんの話をしているんだ、なんの。
「とにかく、出遅れたけれど早速宣伝を始めないと! センセイ! オネガイシマス!」
ウリンは冬眠前のリスめいてオゴリの寿司を頬張っていたセンセイに頼んだ。
「むぐむぐ……よし、任せてくれ」
と、センセイはスマホを取り出して操作する。
「センセイの超級黒客的な腕前に頼めば、『次にくるお店』で検索したときに一番上に表示される宣伝ページを作るぐらい容易いネ!」
「もはやなにを弄くればそうなるんだよ」
「できた」
「早っ!」
センセイはボル鉄火巻きをパクつきながらスマホを見せてきた。
そこにはセンセイのSNS『オケアノエックス』が表示されていて、そのアカウントに投稿されたスレッドが一つ。
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スペランクラフターのセンセイ@Sensei-SC
魔寿司、次に来るお店大賞にノミネート中なう。
投票よろ。
コメント0 引用0 PV6
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「やる気ゼロの宣伝だこれ!?」
「センセイー!? オネガイシマスヨー!?」
「すまないなウリン。趣味でハッキングしていたらオケアノスに怒られて、罰としてSNSに30文字以内しか利用できない端末に交換されたからこれ以上の宣伝は難しい」
「なにやってるのカ!?」
「オケアノスのIPを経由してペンタゴンの機密情報にアクセスしたのがいけなかったかな……」
「なにやってんだ!?」
「動画サイトの陰謀論で解説されていたロズウェルの宇宙人が実在するのか調べたくて……実在するらしいぞ!」
センセイはなにかキラキラした目をしてアク禁されているスマホを握りしめていた。なんかジジババ向けっぽいデカいスマホだった。
「クッ……センセイが駄目となると良い宣伝材料を探して自力で宣伝しないと……姐姐! 一番高いネタは!?」
「うーん、今はあんまり有名な高級魔物が仕入れられてないんだよねえ。モザイクアワビのお寿司とかは?」
「エロ広告になっちゃうネ!」
「もうエロで客釣ればいいんじゃねえの?」
前回はそうしたんだし。そんな気分で投げやりに提案したがウリンが激しく否定した。
「甘いネ! 今どきはどこのお店も小綺麗で可愛い店員を全面に押し出している時代ヨ! 一昔前の『表紙が可愛ければ売れる』とかそんなことはなくて、今はどれだけいい感じの広告表紙を出しても売れるかわからないヨ!」
「担当としてもそのあたりは博打なんだ……! 売れて欲しいんだが……! 売り出そうと営業を打っても全然伸びないこともある……!」
「なんの話だよ」
色々世知辛そうな苦悩はともかく。
「売れるためには……新キャラの追加ネ!」
「新ネタじゃなくて?」
「冷静に考えるヨ。亜空間連鎖爆裂イクラを店に出すのと、可愛い店員を臨時でも雇うのどっちが盛り上がるかってことヨ」
「いや知らんが。亜空間連鎖爆裂イクラなんてネタあったら見てみたい気もするが」
「というわけで手頃な人材は……担当さんの権力で、ゴルゴン小隊の女の子たちバイトで呼べないカ?」
「彼女ら忙しいんだけど!?」
「嘘つけよ。前パチ屋で見かけたぞ。ほら1巻でオレの台をハイエナしてた女」
「1巻って!? ……まあ、たまには休みもあって半くんはパチンコ屋に行ったり、大くんはドカ食いに出たりしているみたいだが……企業冒険者の僅かな休日にバイトをさせるのは忍びないというか」
「ゴジラさんならバイトで呼べねーかな」
「人気が出なそうネ」
「ひでえ」
最初に登場してオレと会話をしていた女だというのに。とはいえオレも思い出そうとしても姿が曖昧で浮かんでこない。まるでまだ姿を見たことがないみたいに。恐らくノンアル芋焼酎で頭がおかしくなっているだけだが。
「センセイは下半身が不自由だから寿司屋でバイトさせるのは無理があるしナ……」
「レジ打ちとおしぼり丸めるぐらいなら手伝うが」
「電子マネー払いだからレジはないヨ」
「記憶喪失なのにレジ打ちは知ってるんだな」
センセイはおしぼりでツルを作りながら能力をアピールした。さすがにスペランクラフトジャケットで配膳なんかを手伝うにはデカすぎる。
「ついでに言うとセンセイはこう真面目そうに見えてズボラネ。特に仕事を頼まない休みの間は二階でポテチ食べてマリカーとかノイタとかやってるネ。あまり労働者向きじゃないヨ」
「そこはなんらかのクラフトゲームじゃねえのかよ……」
「こうなったらアルトくんが女体化してアルバイトになってもらうしか……」
「どうなったらそうなるんだ!? 絶対嫌なんだが!?」
「『ティーエスクマノミ』……この魔物に含まれる成分は性転換の作用があって、現状では家畜での実験に成功している。おじさんが発見したんだが」
「魔物博士は黙ってろ! オレは協力しねえぞそんなん!」
「なんて生意気な。野良犬の非協力的な態度でもし店が潰れたら、野良犬を無理矢理にでも女体化して無店舗形式のウェブ販売のみでREニューアルオープンしてやるネ……!」
「なんの話だなんの!」
まだ女顔のトビーの野郎でも女装なりなんなりさせて働かせたほうがいい気がする。まあ、あいつも忙しいんだが。
「えーと、他に店でバイトさせる女って……ヴァルナ社のインド女発明家とか」
「色黒インド系メガネマッドサイエンティスト暗黒金持ちなんて属性が渋滞事故起こしている存在は絶対持て余しそうダナ」
「媽祖集団の診療所にいる赤毛の髪長女医とか」
「ドジというあらゆる職業で邪魔しそうな要素……絶対転ぶヨ」
「うーん、配信者らしき、さかなクンを女体化したいみてえなやつ」
「さかなクンを女体化したみたい、という部分が特大のノイズすぎて登場させていいものか悩みどころネ」
「やたらと渋い男声の、女装型ダイバースーツで冒険者やってるキティ・ガイ」
「正直怖いよね。いろんな意味で出すのが」
「存在と名前からあらゆるところから怒られそうだからきっと本編では登場できないヨ」
どいつもこいつも駄目すぎる。ここは異常者と版権とヘイトスピーチ的にギリギリな連中しかいねえのか。
「じゃあもうエリザの母ちゃん呼んどけよ。オレ苦手だけどあの人」
「やはりそれしかないカ……一般人だから安全対策が大変なんだがナ」
「ええ……でも客寄せにお母さんを呼ぶのってどうなのかな……だってお母さんだよ? 小樽のスナックじゃないんだから」
「小樽のスナック!?」
「お寿司屋さん巡りツアーに行った時、なんか50代から60代の熟練のおばちゃんしか居ないスナックがあったんだけど」
「どうでもいい限定的地域情報すぎるだろ……」
「あと三重県の漁師町でコンパニオン呼んだら地元漁師の奥さん(50代)が、さっきまで魚捌いてましたみたいな匂いをさせながらお酌してきたんだよね」
「だから地域限定すぎるだろ情報が! そもそもなんでコンパニオンなんか呼んでるんだよ!」
「寿司学校の修学旅行だから……」
「っていうかエリザの母ちゃん何歳だっけか? 若そうに見えたが」
「30……歳台?」
「なんで曖昧なんだ!?」
「こういうのは細かく設定しておくと次に話題に出すときに忘れていたり齟齬が出たりするから曖昧にしておくといいんだよ」
「いいんだよ!? ってかエリザ19とかだっただろ? 親父さん犯罪だな!」
「薄々気にしていることを言わないで」
「設定上若い母を出すとどうしても付き纏う問題ネ。まあ、後妻という可能性もあるけれど深くは追及しないヨ」
「ウリンちゃんのお母さんもいっそ呼べば」
「あの闇組織の女ボスを呼んだらストレスで我の胃が死ぬから却下ヨ」
「あたしのストレスとかは!?」
「つっても呼ぶにしてもすぐ明日からってわけにも行かねえよな。宣伝期間はもう始まってるのに」
「まあ、お母さん鹿児島に滞在してるみたいだから最速一日で来れるけど……」
オレらの建設的なのかそうじゃないのかわからん話し合いを聞いて、担当さんは深々と頷いた。
「そうだね。それこそまさにこのコンテストの意義かもしれない」
「なんで」
「『次に来るお店』だからこそだよ。この大賞は既に三岳島で大繁盛している、大きな店舗は対象じゃないんだ。ここ一年以内で店を出したところを選んで、その店が続いて欲しい、もっと様々な展開が見たい、アニメ化して欲しいなどの願いを込めて投票される」
「アニメ化して欲しい!?」
どこが三岳島の店舗なんぞアニメにするんだよ。オケアノスの資本か?
それはそうと、店の継続に期待するというのはわからんでもない話だ。三岳島は治安がカスだし客層もウンコ。支配している暗黒メガコーポの締め付けも不条理なので、閉店する店も多い。開店資金は補助が出て安いからテナントが空いたら次の月には新しい店ができているが。
オレもお気に入りのエチオピアラーメン屋が銃撃戦で潰れたのを悲しんだことがある。
「だからこそ、この店は続けば次々に新しい展開を見せます、期待していてください、店主を飢え死にさせないための支援の手が貴方にはあります、そういう未来への希望が込められた賞なんだ」
「やたら切実なのがあった気がするけれど」
「最近店主は毎日夕飯代わりに安い麦焼酎と漬物だけで済ませて体調がボロボロなので助けて欲しいという情報を込めるのもいいかもしれない」
「エリザのことか!? エリザのことだよなそれ!?」
「もし大賞になったら客の要望する寿司ネタをなんでも出すとかそういう見返りも大事だ。毎日新しい寿司ネタを更新するとか。永遠に更新停止した寿司ネタを再開するとか」
「永遠に更新停止したネタ!?」
「なんか凄い要求されたら大変なのあたしなんですけど」
「大丈夫。本気で大賞を取れるかというと宝くじより確率は低いから。きっと投票してくれる固定客さんも薄々そう思っている」
「担当さん!?」
「むしろ確実に当たりは入っている宝くじより、投票で選ばれる分確率は……」
「担当さん!?」
急にネガティブになった担当さんをウリンは揺すって正気に戻した
「ま……それはさておき。これから投票期間に入るから君たちも宣伝頼むよ! 担当している店が受賞すると私も嬉しいからね!」
「担当さんはどんな宣伝してくれるんだ?」
「……とりあえずSNSで呼びかけようかな?」
「やってることがセンセイと同じ!」
そんなこんなあり、『魔寿司』は再び『次に来るお店大賞』を目指して宣伝を始めるのであった。
今回はセンセイのチートハッキング戦法が封印されているから真っ当な方法しかないが。
ま、精々知り合いに投票呼びかけるぐらいはしておくかな。
店が潰れるかどうかの瀬戸際らしいと言っておけば多少は同情を引けるだろう。
ぜひ皆さんも投票してくれやがれ。




