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掌編9:『アルト・ザ・ホスピタル』


 サバが釣れた。


 三岳島で行える娯楽は限られている。パチンコなどのギャンブル全般か(鹿児島の競艇やオートレースもネットで賭けられる)、飲み食いか(大体の国のメシは食える)、喧嘩や殺し合いか(オケアノスが主催する闘技場もある)、あとは釣りだ。最近、ミニシアターやカラオケ、サウナなんかもできたらしい。

 この島で過ごしている中で、休日にテニスを楽しもうなんてやつは居ない。サイクリングとかもだ。そんな場所はないからな。いや一般人が立ち入らない、オケアノスの職員のみが住む区画にはあるのかもしれんが。

 

 冒険の日々とはいえ一年中三百六十五日海に潜る訳では無い。割と潜水ってのは体力を消耗するし筋肉だって酷使する。必需品の特殊ダイバースーツは定期的なメンテを行わないと耐圧構造が壊れて潜水病で死にかねない。二日酔いや夜中までパチをやっていて寝不足の体調で潜って死んだやつを三桁は見てきた。

 というわけで、今日のオレは休日だった。そんで適当に釣りに出かけたわけだ。パチに行くには軍資金が足りなかった。それにオレだって釣りは嫌いじゃない。

 ロッカーに預けていた釣り道具を持って、釣具屋で冷凍キビナゴを一箱買って行く。

 三岳島には幾つか釣り場がある。いやまあ、海に囲まれているからどこでも釣ろうと思えば釣れるんだが、最悪なことに治安がカス。

 のんびり海に向かって釣り竿伸ばしてぼんやりしていると背中から刺されかねない。それを防ぐためにナイフやスプレーやスタングレネードで近づく相手を片っ端から警戒していたら魚なんて釣れねえ。

 なので、『背中を刺されない釣り場』を提供する商売が始まった。

 釣り場の主こと監視員はオケアノスに発砲許可を取って銃で武装し、凶器による支配で釣り客の諍いを止める。客はショバ代払って釣りをする。そんなエリアだ。世知辛い世の中だぜ。


 で、普通にオレはサバを釣った。

 このあたりでよく捕れるのはゴマサバだ。体に斑点のあるサバで、まあ味はサバだな。

 今日釣れたのはいい感じに脂が乗った、美味そうなやつだった。

 異海の海水は栄養豊富らしく、このあたりで捕れる魚はどれも質が良い。そのうち海水だけ持っていって養殖とか始まるかも。

 とりあえず刺し身ですぐに食うことにした。オレの釣り道具セットにはまな板も醤油もわさびも入っている。サバをさばくのはナイフで十分だ。サバをさばくのは。ふふっ。

 カツオなんかの赤身魚やホタ(アオダイ)なんかの白身はサクに切って一晩ぐらい冷蔵庫で寝かせた方が旨くなるんだが(個人の好みによる)、サバは新鮮な方がいい。

 手際よく刺し身にしてまな板に並べていると、隣で釣っていた日本人のオッサンが声を掛けてきた。


「おい兄ちゃん、サバを刺し身で食うのか? (あた)らないか?」

「あーん? オッサン、九州人じゃねえな? 九州あたりで捕れるサバはアニサキス入ってること少ねえんだよ。新鮮だから中毒にもならねえしな」

「そうなのか」


 食性が関わっているのか詳しい理屈はわからんが、黒潮に乗って関西以北へ行くと太平洋側に生息するサバのアニサキス率が増えるらしい。なので冷凍を推奨だ。

 このあたり、鹿児島から大分までで捕れるサバはだいたいみんな生のまま刺し身で食っている。もちろんアニサキスの確率もゼロじゃないが、中るやつは運が悪い!ってやつだな。

 皮付きで、赤と白の身がくっきり別れて脂で僅かに虹色に光るサバ。醤油皿に浸してみれば、醤油に油膜ができるぐらい脂が乗っている。こりゃいいサバだ。


「うまっ世界一うめえ。オッサンも食うか?」

「うーむ、美味そうだ。ありがたく貰おう。おっ! コリコリしていて噛みしめるとじわーっと脂が出て……メシか酒が欲しくなるな。兄ちゃん、こっちはミズイカを釣ってるんだがさばけるか?」

「ミズイカ! 最高じゃねえか。よーしイカ素麺にしてやる」

 

 細く切って醤油にまぶして食う。鹿児島の醤油は甘いからどっぷり漬けても大丈夫。うん、美味い。最高。釣りの醍醐味だな。



 ******



 サバで中った。

 やっべ、激烈に腹痛え。完全に中ったわこれ。クソが。

 釣りを止めて寝床に帰ってる最中で、じわじわと鳩尾のあたりが痛くなってきて、これまずいかなーやばいかなー放っておいたら治らないかなーなにかの間違いかもしれねーしと自分に言い聞かせていたんだが。

 もはや一歩も歩けんほど片腹大激痛。額から脂汗が滝のように出てくる。

 やばい。ここ路上だ。路上で倒れたら三岳島ではそれ即ち死を意味する。即座に追い剥ぎがやってきて内臓まで盗んでいかれる。

 どうにか家まで……うぐっ! 腹痛すぎて足が動かねえ……! オケアノスが配ってたキメキメのヤバい鎮痛薬持ち歩くんだった……! 

 おのれサバめ……許さん!

 

 サバを恨んだところでなにも解決しねえ。

 アニサキスに中ったのは初めてじゃないんだが、過去の記憶よりもハイパー痛い気がする。前は正露丸でどうにか耐えた。

 ヤバい気配を感じる。オレも見たことはないんだが、噂によると魔物のアニサキス──通称『魔ニサキス』が存在するとかいう話もあった。

 もはや生きるか死ぬかだ。オレは恥を忍んでセンセイに迎えに来て貰うよう連絡を入れた。


『アルトか? どうした? 今お風呂に入っていたところでな。今日はネギと油揚げが入った変わった湯で』

「ううう……センセイ、すまんが、ちょっと来てくれないか……腹が痛くて動けねえんだ……」

『まさか……ウンコか!? ……っ任せろ!』

「なにを任せるんだ!? 妙な躊躇入れてまで頼りがいのある返事しなくていいから! サバで中ったから病院連れて行って貰うんだよ!」 

『わかった。位置はGPSで把握した。すぐに向かう』


 把握されてんの若干怖い気がしたが、それを気にしている場合じゃない。

 オレは襲われないようにナイフを手にしたまま壁に背中を預けて周囲をギョロギョロと睨んだ。息も荒いし汗もダラダラ出ている。これでやばめのヤク中みたいに見られて、チンピラも迂闊には近づいてこないだろう。オレがぶっ倒れるまでは。


 胃袋が破けんばかりの痛みに耐えていると、ターンピックで道路を削りながらセンセイのスペランクラフトジャケットが駆けつけてきた。

 頭の上にウリンが乗っている。オレの前で止まって、ウリンが飛び降りた。


『アルト、大丈夫か!』

「野良犬! 拾い喰いでもしたカ!? バカ丸出しネ!」

「うーるーせ~……」

「サバで中ったって話だからとりあえずこれを飲むヨ!」

 

 ウリンは持ってきた小さな薬箱みたいなのから丸薬を取り出して渡した。


「寄生虫の活動を抑制する対処薬ネ。とりあえずこれで症状を抑えて病院に行くヨ」

「うう……なんだこれ征露丸じゃねえの」


 口に入れた風味がまるっきりそれだった。とはいえバカにはできない。征露丸にはアニサキスを弱らせる、或いは死滅させる成分が入っているという研究結果が出ていた。

 だがウリンは得意げに腕を組みながら言う。


「これは中国半万年の歴史から生まれた漢方の特別な薬ネ。西洋医学のクレオソートから作った歴史の浅い薬じゃないヨ」

「いや味が丸っ切り正露丸なんだが」

「名前は『征美丸』ヨ」

「征……美?」

「中国語ではアメリカのことを『美国(メイヨー)』と言うネ」

「政治的思想が強い!」

「それは元の征露丸からダロ」


 まあ……ロシアぶっ殺すメディスンって名前でよく売ってるよな、征露丸。いや、逆に今のご時世に合ってるのか?(センシティブ)

 プラセボ効果かもしれんが、薬を飲んだら少しだけマシになった気もする。

 

『それでは運ぼう。病院は……オケアノスの治療センターがいいのか?』

「ううう……そっちは駄目だセンセイ……」


 三岳島の医療機関は大きく分けて3つ。オケアノスの治療センターや医務室、ドラッグストアによるセルフメディケア、そして中国系の暗黒メガホスピタルの媽祖(マーツー)集団。この中で一番カスなのがオケアノスだ。腕が悪いんじゃなくて、迂闊に治療に行くと代金で借金持ちになる。

 大体の冒険者は薬局でいい感じの薬を買ってどうにかセルフ治療するんだが、この症状ではそれも有効じゃない。


「媽祖の診療所へ連れて行くネ!」

 

 ウリンがそう指示を出して、センセイはオレを担いでウリンを頭に乗せ、診療所へ向かった。

 多少怪しいがやむを得ない。

 媽祖集団は中国の大きな医療機関で、病院や製薬会社、医科大学などを経営している。三岳島には魔物の研究と中国人冒険者(軍人を多く派遣している)のサポートのため、でっけえ病院船を島の近くに浮かべている。

 

「中国は医療費高い方だけど、三岳島の媽祖集団は研究目的で安く医療を提供しているネ。まあ……未認可の治療方法とか薬とか実験的に使う場合もあるガ……」

「そこが怖えんだよな……」

「我は少し伝手があるから、野良犬を薬殺しない程度には頼んでやるヨ」

「頼もしい限りで」


 しかし胃のあたりにヤバい寄生虫入ったとなったら、虫下しの毒を飲まされるか腹を掻っ捌かれるかの二択になりそうだ。

 今度からサバをさばくときはしっかり目視でアニサキスが居ないか確かめよう。


『着いたぞ』


 スペランクラフトジャケットが停止する。眼の前には魔寿司と大きさはそう変わらない建物、『媽祖簡易診療所』と看板が掲げられている。

 病院にしては随分とこじんまりしているが、簡単な(媽祖集団的にはつまらない)怪我や体調不良に関しては、ここでざっと扱って、手術や入院が必要な場合は病院船に連れて行くことになっている。

 まずウリンが先頭に診療所へ入り、受付のオッサンに手続きをしている。


「急患ヨ。魔ニサキス症かもしれないから優先して検査して。これ特約券ネ」

「……鴆弊(ジェーパン)の関係者ですか。三号診察室で患者を寝かせてください」


 なんか話がすぐに進んで、ウリンに手招きされてセンセイに担がれたまま診察室に入った。病院の中も強化アーマーが通れる広さに作ってあって便利なんだなあと痛みに耐えながら思う。

 

「それにしてもウリン……なんか便利なパス持ってんの……? 病院ってアホほど待たされるもんかと」

「うちの実家は護衛や警備をやっていて、媽祖集団でも雇っているから怪我したときに優待される契約になってるネ。まあ、野良犬は無関係だけど関係者っぽく振る舞えばセーフヨ」

「サンキュー……聞かれたらオレがウリンちゃんのパパだって応えとく」

「そういう関係者じゃないダロ! っていうか爸爸(パパ)は無理があるネ!」


 言い合いながらストレッチャー的な簡易ベッドに置かれたが、またぞろ腹が痛くなってきた。腹の中でエイリアンの幼虫が蠢いているみたいな気持ち悪さだ。いや、経験はないんだが。


『大丈夫かアルト。なにか食べたいものとかあるか?』

「腹痛いのに訊くかなそれ!?」

『一説によれば人魚の肉を食べると不老不死になるらしいからいざとなれば』

「覚悟を決めないで欲しいんだけどよ!?」


 などと言い合っていると、奥の扉から医者が飛び出してきた。

 飛び出してきた? そんな表現使いながら出てくる医者って居るのか? いやでもなんかすっ飛びながら出てきたもんだからつい。

 その医者? はすっ飛んできた勢いなのか診察室の床にヘッドスライディングして近づいてきた。っていうかオレは一目見たとき、なんかこう赤いモップでも持ってるのか?と思ったが、どうやら異様に長く赤い髪の毛を伸ばした女医だったようだ。

 なんか髪の毛が足首まである。ロングヘアーというか生まれてから一度も髪の毛切ってませんビックリ人間って感じだ。ギリギリ、白衣を着ているのがわかるから女医なのかとも思う。

 

「いったぁー……髪の毛踏んだぁ……」


 情けない女医の声が聞こえる。

 どうやら自分の髪の毛を踏みつけて転びながら部屋に入ってきたらしい。生物として間違った体の構造をしているのではなかろうか。

 のそのそと赤毛の医者は立ち上がり、瓶底眼鏡を正しながらこちらを見た。とにかく髪が長い。貞子よりも長い。大丈夫かこいつ。


「はぁい! 担当医の林小蝶(リン・シャオディエ)でぇす! そちらのお兄さんが患者さんですね! お名前と年齢言えますか~?」


 どこかボケたような、さっき転んだのを気にしてない声音で問いかけてきた。


「ううう、界村アルト、21歳……」

「口座番号と暗証番号は言えますかー?」

「なんでそれ聞くんだよ!?」

「意識レベルははっきりしている、と」

「これも検査のうちみたいに処理すんな!」


 何やら手元のタブレットに書き込んでいるシャオディエを睨んだが、腹が痛くてたまらん。

 

「えー、お腹が痛いとのことですが、なにか直近で食べたものは?」

「サバとミズイカの刺し身」

「あー……もう駄目ですね。諦めて寿司とか取ります?」

「取らねえよ! そして食えねえよ!」

「冗談ですよ。ちょっとお腹触りますね」


 シャオディエはオレのアロハを捲って、胃袋のあたりを手で擦って確認しているようだった。


「ふーむふむふむ、これはこれは」

「おい。なんでオレの乳首あたり擦ってんだ。そこ関係あるか!?」

「いけませんね、せん妄状態で性的被害を受けたという妄想が……」

「チェンジ! チェンジしろこの医者!」


 オレが必死に叫ぶがウリンが渋そうな顔でオレの肩を叩いた。


「一刻を争うネ。それにこのシャオディエ医師は中国だと有名な女医ヨ」

「そ、そうなのか?」

「すぐ転んで医療機械壊すもので、その被害額が100億元を突破して中国の医療業界を追放されたとかでネットで騒ぎになったネ」

「嫌な有名さじゃねーか! 追放されたなら雇うなよ!」

「媽祖集団は過疎地区でも治療施設を出すもので、とにかく医者不足になるからそういう厄介な医者の流れ着く先になりがちヨ」


 ヤバいな。オケアノスの医療よりマシだと思っていたんだが駄目だったかもしれない。そもそもオレって殆どセルフで治してきたし。傷口を縫ったこともあるぐらいで。

 しかし魔ニサキスはセルフだとどうしても治療不能だ。


「とりあえず胃カメラ入れて中を見てみますね。はい、横になったままでいいですから口開けてー」

「がー」

「あいたぁ! 転んだぁ!」

「ゴヘッ!?」


 口の中に管を突っ込まれたまま転ばれてそれが暴れた。殺す気か!? また自分の髪を踏んづけたみたいだ。


「すみませぇん、わたしぃ、転んで危ないから臨床医から研究医になったんですけどぉ、研究機関でも転びまくって、また臨床医に回されたんですよねぇ」

「髪を切れ髪を! せめてくくれ!」

「わたしの地元だと髪を切ったら呪われるって話でぇ」

「知るか! オレが切るぞボケ!」

「切ろうとした医科大学の担当指導医とか学部長とか院長とか全員、原因不明の下血で死んじゃって」

「……気を付けようね」


 とりあえずここだけの付き合いだ。オレは我慢して胃カメラを飲み込んだ。

 

「こっちのモニターにぃ、カメラで胃の中が映りますぅ」


 ライトで照らされた赤い食道が映ってするするとカメラが進んでいく。

 センセイがスペランクラフトジャケットで腕組みポーズをしながらジロジロと映像を眺めてポツリと呟いた。


『なんかちょっとエッチだな』

「わかりますぅ!」


 なに言ってんだあいつら。ツッコミ入れたいが口が動かせない。


「はい、胃に到達ですねぇ。わたし得意なんですよ──うわぁ」

「グロっ……」

『アルト、なにもこんなもの食べなくても』


 三人がやや引いた様子を見せたのは、胃の中に居た生き物だ。

 普通のアニサキスは糸くずみたいな姿をしているが、オレの胃で元気いっぱい夢いっぱいになっているやつはひと味違う。

 一言で言うと小さめのウツボが胃の中を這いずり回っている。

 小さめのウツボ!? そんなのオレ飲み込んだっけか!?


「これはすごい! 魔ニサキスの研究はまだ殆ど進んでいませんが、これはレア個体かもしれませんねぇ! 見たことがない! そして今にも胃壁を食い破りそうな歯をしてます!!」

「どっどっどっ、どうするネ医生!?」

「食道から引っ張り出すのはサイズ的に厳しそうです! 本来なら船に送るところですが、これはいつ患者の内臓を食い尽くすかわからないぐらい、一刻の猶予もありませんし、わたしが取り上げたら手柄になりますのでここの簡易手術室で摘出しましょう!」


 ズボッ! グエッ! 一気に胃カメラが引き抜かれた。


「さあさあ手術です! えーとこうしてタブレットで操作して、はい手術室と助手は押さえました。いーきまーすよー」

「ウ、ウリン、センセイ……なんかヤバいかもしれんからついてきて……」

「不安なのは理解できるネ」

『非人道的な手術にならないか見張っておこう』


 そういうことになり、ウリンは消毒された手術着とマスクを付けられ、センセイは全身消毒液を吹き付けられて手術室に同行した。

 あんなグロいワーム型エイリアンが胃袋に入っているのなら、緊急手術はやむを得ないとわかる。

 わかるんだが、それをするのが功名心を気にしたズッコケ医者だってのが不安極まりない。

 メスを持って胃を切開した瞬間コケたらどうなるんだ?


 そうしてオレは手術室に入れられると、手術台の横には機械のアームが複数本伸びている悪の組織の改造人間手術マシーンみたいになっていてより不安を煽った。

 手術台近くには助手らしい医者や看護師が道具を並べている。

 ズッコケ医者は改造手術マシーンの操縦席みたいなところに座っていた。


「それではみんな! 今回は手術用AI搭載型手術支援ロボット『華佗(KADA)2』で行うよ~。術式は腹部切開による胃内異物摘出!」

『ギュッ』


 なんかマシーンが変な音を立てた。皆が見守る中、アームが注射器を持って迫るのが異様に怖い。

 

「局部麻酔成功。術後を考え腹部を最低限開き、内視鏡で寄生虫を取り除く。切開完了。胃を確認。生食で洗浄。胃壁開放。ほぅら、出てきた。生きたまま捕獲しようねぇ……うふふ」

 

 こわ。

 麻酔は腹にしか利いていないので、感覚がないままいじくり回されるのをオレは冷静に聞いちゃっていた。

 


「内視鏡のアームで……捕まえた。うわ、どんどん大きくなっていってる。緊急除去!」

  

 ズボヌルン! って感じで腹の中からウツボみたいなやつが引っ張り出された。あれが魔ニサキスか!? 絶対あんなんサバやイカに付いてなかったって!  

 恐らくだが、胃の中に入ってから急成長したんだと思う。一緒に入ったサバやイカの身を食ったのか? 頼むからオレの胃壁をボリボリと食ってデカくなったと言わないでくれ。

 助手が用意したプラケースにベチャッと入れられて、再び機械のアームはオレの腹へ差し込まれる。


「胃壁を修復。サイセイカイメンの糊で貼り付けて、薬草昆布シートで覆う。これで二時間もすれば元通り。腹孔も同処置をして……手術完了!」

「手術時間、7分23秒です主任医生」

「あと3分遅かったら腹を破られてたかもねぇ」


 ぐぐぐっと顔を上げると、腹の穴はいつの間にか塞がっていた。早くね? 手術早くね?

 やったことは腹に穴を空けて、中のウツボを引っ張り出して、穴を塞ぐ。それだけなんだが、やたら手際が良かった。ズッコケ医師なんだが、腕は良いのかもしれない。もしくはロボットのAIが優秀なのか。


「はい、じゃあ三十分ぐらい休んで帰ってね~! 明日には冒険に出ても大丈夫よたぶん。わたしは取り出した魔ニサキスの研究するから! 実験室に持っていくよ~! 組織と体液の採取、記録動画の撮影は継続~! あいたぁ! だれ、わたしの髪踏んだのぉ!」


 慌ただしく(一回転びながら)シャオディエと助手たちは出ていって、オレらは手術室に残された。掃除夫みたいなのが迷惑そうにしっしと手を振るので出ていき、近くのベンチに座った。


「ま、まあ一応……治ってよかったナ?」

『アルト、あんなの丸呑みしちゃ駄目だぞ』

「もうツッコむ気力もわかねえ……」


 


 ******




「アルトくん、サバで中っちゃったんだって? 駄目だよ、ちゃんとアニサキス対策しないと」

「対策つってもなあ……」

「そこで最新のアニサキス対策! このヴァルナ社製の電気ショッカーを使って十億ボルトで一瞬だけ通電! そうするとアニサキスが死んじゃうんだって。はい、『サバサバ系サバ(サバ型魔物。神経が無い)のバッテラ』だよ」

「ううう……サバで中ったばっかなのにサバ……でも食う……うまっ世界一うまっ」

「よかったね、治って。……ウリンちゃん、隅っこの方でどうしたの?」

「野良犬の腹から出てきた寄生虫がグロくて食欲がないネ……」

『あれどんな味がするのかなあ』


 ともあれ、そんなこんなで三岳島の病院では治療が行われている。もう行きたくねえけどな。



 *****



魔物図鑑


魔ニサキス

魔物の体内に寄生している線虫状の魔物。大きさは1ミリ~1メートルほど。デカい個体は人間の表皮を刺してきて貫通する。

通常のアニサキスよりも凶暴。胃や腸を食い破られて死んだ冒険者もいる。



魔ニサキス特殊個体

アルトに入っていた個体。通常、魔物に寄生するアニサキスが非魔物の魚やイカに寄生した際に変異すると考えられる。

見た目は普通のアニサキスだが、人の体内に入ると数千倍の大きさに急成長し、内臓を食い荒らす。致死性が増している。

すぐさま手術で摘出するか、駆虫薬を飲んで殺さねば危険。



サバサバ系サバ

サバサバしていると言われるサバ。体の神経が退化していて、周囲の刺激や海流に反応して生きている。獲物が近づくと突然活発に動いて捕食し、誰もいなくなると死んだように動かない。マイペースと見るか、厄介者と見るか。舌に毒がある。     





アルト・ザ・ダイバー1巻発売中!

しつこいぐらい宣伝だけれど! それだけ売れて欲しいです!

https://www.amazon.co.jp//dp/B0FK3Z3YBP

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― 新着の感想 ―
不安だから付いてきてって頼んだ時は特に色々言わず素直に来てくれるウリンちゃん良い… アルトはそんなこと頼まないだろうけど頼んだらちょい文句は言いつつも手を握って終わるまで励ましてくれたりしそう 先日…
>サバをさばくのは。ふふっ。 なにわろとんねん
サバサバ系とか絶対中身はネットリしてるヤツですやん
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