表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/38

狂っているのは私?それとも世界?

 部屋のインターホンが鳴る。


「はーい!」


「宅急便でーす」


 どうやら、ネット通販で購入した服が届いたようだ。


「ありがとうございまーす」


 配達員さんから荷物を受け取る時でさえ、私は上機嫌に、ニコニコ笑っていた。


「来た来た……楽しみにしてたやつが届いたよ~」


 ウキウキで荷物を抱え、リビングに戻る。


 段ボールの中身は、これまで周囲の目を気にして、なかなか着ることができなかった、地雷系の洋服だ。


 全身そろえて、1万円を超えた。


 こんなに大胆な出費ができるのも、人の目を気にせずに、こんな奇抜な服が着られるのも、一か月後に死ぬと決めたから。


 早速、私はそれに着替えた。


「やばい……めっちゃ可愛いじゃん……今の私、最高にかわいい!今の人生、最高に楽しい!」


 自宅の姿見の前で、私はぴょんぴょん飛び跳ねている。


 さらに、メイクを重ねて、完成。


 私は、そんな奇抜な恰好のまま、街を練り歩き、カフェでくつろぎ、コンビニで買い物をした。


 今の自分が、好きだった。


 今の環境が、最高に楽しかった。


 死ぬと決めたその日から、毎日が楽しかった。


「もう知らない!来月に死ぬんだから、全力で楽しむぞ!」


 大学の学費もすべて、ファッション、ゲームの課金、旅行費用と外食費につぎ込む。


 これで、残りの人生が最高に楽しくなるし、後戻りができないので、死ぬ決意もできるというものだ。


「次はどこ行こうかな……新宿でもぶらぶらしてみようかな」


 周囲の人々は、制服姿だったり、スーツ姿だったり。


 みんな、学校や会社から帰る途中なのだろう。みんな、疲れているのか、目が虚ろだった。


 けれど、そんな中に、ドレスみたいな衣装を着た私がいる。


 私だけがニコニコして、楽しそうだった。


 周囲の目なんか気にせず、自分の好きなことをして、自分が好きなものを着て、思いっきり楽しんでいる……それが、最高に楽しかった!!




♦♢♦




 私は一か月間、何にも縛られず、自由に生きた。


 毎日が休日。


 小学生の頃の夏休みを思い出した。


 毎日がたのしくて、私は浮かれに浮かれた。


 群馬県の草津温泉にも行ったし、新幹線に乗って大阪観光もしたし、大好きなゲームも夜遅くまでやったし、ステーキやパスタ、ケーキなどなど、好きなものを食べまくった。


……体重が増えたのは、内緒。


 そして、一か月が過ぎ去った。


「私、死ぬのか……」


 自分で決めたことだが、今さら、死ぬのが嫌になってきた。


「あーもうっ、考えてても何も解決しないっつーの!私は人生詰んでるし、私が死ぬって決めたの!」


 今から人生を立て直すのは不可能。私の力量では、どうしようもない。


 料金を支払っていなかったので、ガスが止まっており、大学はしばらく休んだので、単位はもらえない。留年確定。


 バイトは、もうクビになっているだろう。今から新しいバイトを探したり、大学に通う気にもなれない。


 もう何かで悩みたくない。


 だから私は腹をくくった。


「よし、死ぬか」


 私は軽く準備を整えて、軽快な足取りで駅へと向かった。


 そこから電車に揺られて、目的の海岸線へと赴く。




♦♢♦




 ここは、白鷺しらさぎ岬東街道。


 地元の人のみぞ知る、隠れた絶景スポットらしい。


 右手側には、深い森が広がっている。鳥の唄が耳に心地よい。


 左手の側には、切り立った崖があり、青い海が水平線の先のどこまでも続く海が見える。死にゆく私を出迎えてくれているかのように思えた。


 そんな、自然豊かな岬の道路を道なりに歩く。


「どこか、良さげな場所は……お、ここ、いいかもしれない」


 6~7階建てのビルの高さに相当。かなり高い。


 見下ろすと、下は、ゴツゴツとした硬い石でできている。


 ここから飛び降りれば、十分に死ぬことができるだろう。


「え、私、死ぬのか……」


 なんだか、実感が湧かない。


 赤城 麗羽れいはという人は、どこか他人事のように、そう言った。


……もしかしたら、私を探して見つけてくれる人がいるかもしれない。


 そう願って、私は、持ってきた日記帳の最後のページに『白鷺しらさぎ岬東街道』と書き残した。


 私は、ここで死んだ。


 ここで、生涯を終えたという記憶を残す。


 さて、さっさと崖から飛び降りようと思った。


 苦しく、不幸で、ツラいことが多すぎるこんな世界で、笑って生きている人のほうがおかしい。


 私はこれから、苦しみのないところへと旅立つ。


 そう考えると、ワクワクしてくる。


 けれど同時に、死が怖いという気持ちがこみあげてくる。


 これは、人間のさがなのかもしれない。


 下は、切り立った崖。


 この高さから落ちれば、確実に落命するだろう。


 けれど、もしも足から落ちたら、生き残って、地獄のような激痛にもがき、苦しみ、あえぎながら死ぬかもしれない……


 もしも、一回の落下で意識を失わなかったら、想像を絶する痛みを味わうかもしれない……


「ああ、もう!また悩んでる!嫌だ、悩みなんか消えろ!」


 今さら、元の生活に戻ることはできない。


 一か月前の私は、死ぬと決めて、これまでの期間を楽しく生きたのだから。


 あとは、一歩を踏み出すだけ。


「もうちょっと、人生楽しみたかったな……」


 空を見上げ、そう呟いた。


 私は、目をつむり、一歩を踏み出した。


 風を切る「ゴーッ」という音が聞こえる。


 頭に何かがぶつかった「ゴツン」という音を聞いて、私の意識は闇に溶けた。





 気が付くと、私は幽霊になっていた……


 私は、魂が生きることも、魂が死ぬことも拒否したのだった。


 誰にも認識されず、東京の町を彷徨さまよった私。


「ああ、久しぶりにポテチが食べたいなぁ……」


 幽霊だから、お腹は空かないけれど、ポテチが食べたくなった。


 私は、幽霊であることをいいことに、とある家に忍び込んだ。


 表札には「加賀」と書かれていた。


「お邪魔しまーす……留守かな」


 玄関のドアをすり抜けて、勝手に侵入。


 そして、お菓子棚をゴソゴソと漁る。


 しばらくして、家の住人が帰ってきて、鉢合わせした。


 その住人は、私のことが見えていたようで……


「うわ、びっくりした!!」


「うわ、びっくりしたぁ!!」


「ど、どちら様でしょうか?」


「わ、私のことが見えるの!?」


「待って待って!怪しい者じゃないよ!」


「人の家に勝手に上がりこんで、堂々とお菓子を漁るのは、怪しいに決まっているじゃないですか」


「ご、ごめんって!ちょっと何が食べたいなーって思って……」


「謝ってゆるされると思っているとしたら、あなたの頭は、かなーりおめでたいですね」


 彼の名前は、加賀 利亜夢りあむ


 幽霊となった私の姿と声を認識できる、唯一の人だった。


 そして後に、私にとって初めての恋人となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ