彼女が死んだ理由
利亜夢は、麗羽とベットに腰かけて、モニターを見ながらゲームをした。
今回遊ぶのは、山を登るゲーム。
シンプルなゲーム性ながらも、一度足を滑らせてしまうと、転がり落ちて、最初のほうからやり直しという難易度の高さを誇るゲームだ。
二人の操作キャラは、軽快な足取りで、順調に山を登っている。
目指すは、もちろん山の頂上だ。
「えい」
このゲームに詳しい利亜夢は、後方を進む麗羽にちょっかいをかけた。
彼女の操作キャラを崖に突き落としたのだ。
麗羽は、山の斜面をゴロゴロと転がり落ちていった。
「ぎゃあああああああああ!!落ちたあああああ!!」
「うるさ……」
「くそ……いつかやり返してやる!」
麗羽は、絶叫をあげた。
でも、満面の笑みを浮かべていて、心底楽しそう。
彼女が全力でゲームを楽しんでいる様子を隣で見ていると、こっちまで気分が盛り上がる。
山を登り続けること一時間……
「やったーー!!頂上だ!」
「なかなかゲームセンスありますね」
ついに、ゲームの目標であった登頂を果たした。
初心者の麗羽を連れていた割に、なかなか早いタイムだった。
「はー、楽しかった!人とゲームやるの久しぶりだったし」
「それはよかったです」
「ほかのソフトもやりたいなー」
「まだゲームやります?」
「うん」
「じゃあ、このアクションゲーム、一緒にやりませんか?」
「あ、それ知ってる!うちのお父さんが持ってたやつ。バーチャルコンソール版が出てたんだ」
「麗羽さん、けっこうゲームに詳しい感じですか?」
「うん。小中の放課後に、友達と集まって一緒にやってたし、高校生のときは、バイト代せこせこ稼いで、ゲーミングPC買って、FPSのオンライン対戦やってたし」
「おお……俺以上のゲーマーじゃないですか」
ずらずらと麗羽の口から出てくるゲーム用語の数々。
彼女は「ふふん」と、鼻を高くした。
次は、麗羽が興味を示したゲームをプレイすることにした。
アクションゲームに興じながら、利亜夢と麗羽の二人は、まるで友達のように雑談を交わした。
「麗羽さんの地元って?」
「静岡」
「静岡だから、お茶の葉畑とかばかりですか?」
「うちの周りは、そんなことなかったよ。実家は、南伊豆町っていうところで、家から海が見えるって感じ。ザ・ド田舎ね」
「あー、コンビニに行くだけでも、距離があって大変そう……」
「そそ。そんな感じ。近所のおじちゃんに野菜もらったりしてたなー」
麗羽はゲームをしながら、田舎の思い出話をしてくれた。
スーパーでたくさん買いだめする週末の話とか、
鍵をしめなくても泥棒に入られたことがない話とか、
下校中にイノシシに追いかけられた話とか……
生粋の都会人の利亜夢にとって新鮮な話が多かった。
「なんか私たち、すごく気が合う気がする。今日、会ったばかりの初対面なのにねー」
「麗羽さんが話し上手だからだと思います」
「もしかして、利亜夢くんの聞き上手のお陰かもしれない」
「はい、早く次のステージ行きましょう」
「待ってって!私、このゲームの操作にまだ慣れてないから、キャリーよろ!」
話したがりの麗羽のおかげで、雑談は調子がいい。
麦茶を飲む休憩タイムで、利亜夢は、麗羽に、気になっていたことを訊いてみた。
「そういえば、麗羽さんは、どうして幽霊になったんですか?」
「……」
すると、麗羽の表情が曇った。
彼女の黒い瞳の奥に涙が見えたような……
あ、これ、訊いちゃいけないことを訊いてしまったときの表情だ。
「す、すみません……そんなことを初対面の麗羽さんに訊くのは、野暮でした……ほんと、ごめんなさい」
もしかしたら、事故や自殺という、悲劇的な最期だったかもしれない。
そういうことに配慮すると、どうして幽霊になったかなんて尋ねるべきじゃなかった。
「気にしないで。確かに私は死んで幽霊になったけど、今は、利亜夢くんっていう話し相手ができて、ポテチ食べて、ゲームもできて、めっちゃ幸せだから」
「そうですか……それならよかったです。改めて、ごめんなさい」
「ん、いいよ」
彼女のことを傷つけてしまったかと思った利亜夢は、ほっと胸を撫でおろした。
「次は、このテニスゲームやりたい。私、中学のときテニス部だったから、自信あるよ!」
「現実でやるテニスと、ゲームでやるテニスは全然違うと思いますよ」
「絶対勝つ。こんどこそは、利亜夢くんをぎゃふんと言わせてやる」
こうやって仲が良い人と一緒にやるゲームって、やっぱり楽しいな。
利亜夢の心は、独りぼっちの寂しさから解放されて、温かくなっていた。
そのとき、
家の敷地内から、原付バイクの音が聞こえてきた。
「あ、父さんが帰ってきた……」
父が仕事から帰ってきたのだと、利亜夢は察した。
「麗羽さん、ど、どうにか家を出るか、隠れないと……」
「大丈夫だよ。利亜夢くん以外の人に、私の姿は見えないんだよ」
しばらくして、部屋の扉が開いた。
父の顔が、扉の間から覗いた。
「おう、利亜夢、ただいま」
「お、おかえり、父さん。お疲れ」
「今日は、父さんが夕飯作るから、ちょっと待っててな」
「うん、ありがとう」
父は、いつも通り帰宅の挨拶をして、仕事着を片付けるために、自室へと向かった。
俺の隣に座っている麗羽の存在に、まるで気づいていない様子だった。
「ね?私の言った通りでしょ」
「父さんには、麗羽さんの姿が見えないのか……」
麗羽は立ち上がり、ゲームのコントローラーを元の場所に片付けた。
「わざわざ、ただいま、おかえりを言い合うの仲良すぎるでしょ。しかも、夕飯まで作ってくれるなんて、いいお父さんだな~顔が優しそうだったし」
「まあ、優しいほうだと思います」
「お仕事は、何している人なの?」
「運送です。毎日トラック乗ってますね」
「へぇ、私の全然知らない世界だな~運送業とか」
麗羽は、柔らかい笑顔を浮かべていた。
「じゃ、これ以上居ると、家族団らんのお邪魔になるかもしれないから、ここらへんで失礼するよ」
「え……?」
「明日も来るよ。なに、私がいないと寂しくなっちゃう?」
「いや、そういうわけではないですけど……どこに帰るんですか?」
「……」
麗羽は押し黙った。
「やっぱ、ここ居ていい?外行っても、誰も相手にしてくれないし」
「やっぱりそうなるんですね……」
「ごめんって。私、幽霊だから、帰る場所ないんだわ」
麗羽は、上下の白い歯を揃えてニッと笑った。
「一晩中、一緒だね」
「そういう言い方、良くないですよ」
麗羽は、俺の耳元で囁いた。
俺は、「夕飯できたぞー、利亜夢」と父に呼ばれて、一階のリビングへの階段を駆け下りた。
じきに母も帰ってくるだろう。
さて、今日の夕飯のメニューは?
「俺、夕飯食べてきますね」
「ん、いってらっしゃーい」
「あんまり部屋を散らかさないでください。お願いします」
「分かってるって」
「本とか漫画とか読んで待っててください」
「はーい」
麗羽は、俺のベットの上でゴロゴロしながら、漫画を読み始めた。
赤城 麗羽は、陽気で、どこか寂しがり屋な幽霊だ。
こんな幽霊と、明日から一つ屋根の下、ずっと一緒か……
幽霊だから、きっと歳もとらないのだろう。
初めての話し相手、ゲーム相手ができて、楽しみであると同時に、ちょっとドキドキするし、どこか不安だ。




