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躊躇い

 次の日、私は約束の通り、栄飛えいとと二人きりで昼食を食べた。


 栄飛えいとと一対一ということもあって、昨日と比較して、会話が弾んだ。


「そういえばさ、一昨日おとといの数学の小テスト、結構難しかったよな」


 栄飛えいとがそう言うので、私は、すぐに相槌を打った。


「うんうん。私も全然できなかった……栄飛えいとは、どうだった?やっぱり微妙?」


「ああ、微妙。赤点は取らないだろうけど、成績は厳しいよな……」


「あはは、一緒だ。この後のテスト返し、億劫おっくうだね~」 


「そういえば次の授業、数学か。うわー、マジか……オレ、あの先生苦手なんだよな」


「あの先生さー、私たちに投げる問題がいっつも難しいよねー」


「うわ、めっちゃ分かる!基礎だけバーッと早く解説して、応用問題でオレたち生徒を追い詰める……あの授業スタイル、キツイよな」


「ね。数学が得意な人ばっかりじゃないっつーの!」


「そうだそうだ」


 数学の先生の授業の愚痴で盛り上がる私と栄飛えいと


 こういうの、すごく楽しい!


 栄飛えいとくん……何気ない会話が得意で、話のペースやノリを合わせるのが上手で、清潔感があって、一緒にいて飽きない性格なのに、どうして友達がいないんだろう。


 彼は、昼食を食べるときは、いつも一人。


 休み時間に、誰かとつるんでいる様子を見たことがないし、放課後に、誰かと遊びに行っている姿も見たことがない。


 やっぱり、積極的に人に向かて行かない内向的な性格が足かせになっているのかな。


 で、私と栄飛えいとは、その後も友達らしい会話をして、昼食を終えた。


「さあ、もう教室に戻ろうぜ。あの数学の先生、遅刻にはやけに厳しいから」


「そうだね。早め早めに動くが吉だよ」


 私と栄飛えいとは、途中まで一緒に戻った。


 栄飛えいとは「トイレ行ってくる」と言って、教室前の廊下で私と別れた。



……違う!


 私と栄飛えいとは、もう既に仲良しなんだって!友達なんだって!


 私がしたかったのは、もっと距離を縮めることができる……【何か】だ!


 私は、栄飛えいととの心の距離をグッと縮める決定打を打つことができずに、二人きりの昼食という絶好の機会を終えてしまった。


「お、帰ってきた」


 教室では、委員会の仕事を終えた親友の真美が待っていた。


 真美の後ろの自分の席に座る。


「で、どうだった?栄飛えいとくんとのデートは?」


 体ごと、くるっと振り向いた真美がそういてきた。


 私は「デートじゃないって」と訂正する。


「楽しかったよ、いっぱいお話できたし」


「で、遊ぶ約束はした?今週末は、麗羽れいは、バイト入ってないよね?」


「あ……その手があったか。忘れてた……」


「距離を縮めたいんなら、ノリで週末の予定を入れちゃえばいいのに~『週末って、予定入ってる?どっか遊びに行かない?』って」


「そこまで頭が回らなかった」


栄飛えいとくんって、積極的に誰かと関わろうとする性格じゃないからさ、こっちからアプローチしないと、仲は進展しないよ、たぶん」


 さすが、恋愛の道の先輩の真美ちゃんだ。


 私に対するアドバイスと、栄飛えいとに対する分析が的確だ。


「うぐぐ……」


 悔しさから、私は奥歯をグッと噛み締めた。


「ウチの感覚だけど、恋愛って、スピードと思い切りが大事だと思う。早くしないと、自分が好きな相手を誰かに取られちゃうかもしれないから」


 真美は、含みのある言い方をする。


 好きな人を誰かに横取りされた経験があるのか、あるいは……真美も、栄飛えいとを狙っているのだろうか。


「え、真美ちゃんは、栄飛えいとくんのこと狙ってたりしないよね……?」


「いやいや、そんなことないよ。我が親友の好きな相手を横取りするぐらい、ウチはゲスじゃないよ。ちなみにウチはね、今は、隣のB組の佐藤くん……剣道部の人なんだけど、その人が気になってるんだけど――」


 よかった……


 私は、ホッとして胸を撫で下ろす。


 もしも、恋愛が上手な真美が恋のライバルになっていたら、私は競り負けてしまうだろう。


 昼休みが終わりに近づき、トイレに行っていた栄飛えいとが戻ってきた。


「……!」


 栄飛えいとと目が合った。


 私は、なんだか恥ずかしくなってしまって、咄嗟とっさに目線を落とす。


 彼は、真夏の太陽のようか輝かしい笑みを見せてくれた。


 彼は、数学のワークに取り組みはじめた。

 

 なにか一言でも、彼に話しかけたいと思った。


「がんばれ~」とか、


「こんどの期末テスト、がんばろうね」とか……?


 けれど、私自身が何を言いたいのか、何を伝えたいのか、自分でもわからなかった。


「はい、授業始めまーす。昨日の続きからなので、教科書開けて」


 数学の先生が、そう言いながら教室に入ってきた。


 私は何も言葉を発することなく、数学の授業が始まった。

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