表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/38

三人で話すのが苦手な性格

「あー、疲れた」


 栄飛えいとが食券を持って学校の食堂に現れた。


 あくびをして、疲れた様子。


 この直前にあった4限の授業が、彼が特に苦手とする歴史の授業だったからだろう。


 彼は、購入したハヤシライスをトレーに乗せて、食堂の丸テーブルにドサッと腰を下ろした。


「よし、栄飛えいとくんが来たよ。いつも通り一人だから、話しかけやすい。さ、行こう、麗羽れいは


「はぁぁぁぁぁ……栄飛えいととは、中学生のときから話してるはずなのに、改めて、一緒にお昼食べるってなると、めっちゃ緊張する……」


 心臓が爆発しそうだった。


 やっぱり、栄飛えいとと同級生としてではなく、【気になる異性】という認識でもって接するからだろうか。


「大丈夫、落ち着いてよ麗羽れいは。いつもの麗羽れいはでいれば、何にも問題ないって」


 隣に控えていた真美に肩をポンポン叩かれる。


 こんな緊張状態で、いつもの【赤城 麗羽れいは】を演じられるだろうか。


 私は、真美を盾にして、栄飛えいとが座る席に歩み寄った。


 真美が、栄飛えいとの目の前の席に座った。


「お疲れー、栄飛えいと~。一緒に食べていい?」


「ああ、いいよ」


麗羽れいはも一緒なんだけど、いい?」


「もちろん」


 栄飛えいとは、いつもの屈託のない笑顔を見せた。


 太陽のような笑みだ。


 その笑みに魅せられて、私の心臓は、よりいっそう高鳴る。


 ひとまず、私と真美は荷物を席に置いて、食券を買って、昼食を受け取った。


 私は、栄飛えいとと同じハヤシライス。


 真美は、唐揚げ弁当を買った。


 私は、真美と栄飛えいとの中間に、ちょこんと座った。


「歴史、眠かったでしょ」


 そう言いながら、真美が栄飛えいとにニヤッと笑いかける。


「いやぁ……オレ、やっぱり暗記科目苦手だわ」


 食べながら、またあくびする栄飛えいと


「マジで。教科書開いた瞬間、睡魔アタック。古墳時代のあたりとか、内容が退屈過ぎて、マジで記憶ないわ」


 栄飛えいとは苦笑いしながら、大口を開けてハヤシライスをかきこむ。


 食べるの早い……


 黙って食べてるだけの私より早い。


「ふふ、ウチも危なかったんだよね~。先生の声が子守唄みたいに聞こえてきて、もうちょっとで寝落ちするところだったわ。今度の期末テスト、赤点取りそうでヤバイかも」


 真美は唐揚げを一口食べ、満足そうに目を細めた。


「真美は、ちゃんとノート取ってるんだろ?」


「まあね。一応。栄飛えいとは?」


「めんどくさくて取ってない……仕方ないだろ、眠いもんは眠いんだから」


 栄飛えいとは、少しむくれた顔をする。


「仕方ない、じゃないでしょ。ちゃんと勉強しないと、また赤点取るよ」


 真美は少しだけ語気を強めた。


 まるで母親みたいな口調。


「うっ……耳が痛いな」


 栄飛はハヤシライスを早々に食べ終えて、両手を合わせた。


「すみません、真美先生。明日から頑張ります」


 真美はクスッと笑い「はいはい。期待してるよ」と言う。


 二人の間には、しばらく沈黙が流れた。


 食堂は昼休みで賑わっており、あちこちで生徒たちの話し声が聞こえる。


「あ、真美」と、先に口を開いたのは栄飛えいとだった。


「昨日の英語のプリント貸してくれない?家に置いてきちゃった」


 真美は味噌汁を一口すすり、「今は持ってないから、教室戻ったらね」と答えた。


「……」


 私は、止めどなく話す真美と栄飛えいとの話に混ざれず、ただハヤシライスを食べるだけの置物と化していた。


 二人とも、仲良しだなぁ……と思いながら、その会話の様子を見ていた。


 私って、意外とコミュ障?


 一対一の会話ができるってだけ?


 それとも、同い年の男子に対して免疫がないだけ?


「おーい、麗羽れいは、大丈夫かー?生きてるー?」


 ボーッとする私の目の前で、真美の両手が揺れた。


「……うん、大丈夫だよ。私も、歴史の授業の睡魔の名残に浸ってただけ」


栄飛えいとくんと話したくて、ここに来たんじゃないのー?」


 真美がそう言及する。


 私の顔がカーっと熱くなった。


「え、そうなの、麗羽れいは?」


 栄飛えいとがちょっと目を見開いた。


 私は、ぎこちなく答える。


「あ、うん。栄飛えいとと、話したいなって思ってね」


「何話す?話題とかある?聞きたいこととかは?」


「うーん……分かんない」


「ハハッ」


 栄飛えいとは珍しく声を上げて笑った。


 栄飛えいとが、私で笑ってくれた、ただそれだけで、私は胸の内側が温かくなるのを感じた。


麗羽れいはちゃん、普段はおしゃべりマシンガンなのに、こういう時は、借りてきた猫みたいになっちゃうんだよー」


 真美が、縮こまる私を【借りてきた猫】と評した。


「れいは」


「え、なに?」


 栄飛えいとに呼ばれて、私は彼と目線を交えた。


「話したいときは、いつでも話しかけてよ。オレ、【話しかけるなオーラ】出てるかもしれないけど、そんなことないって。誰かに話しかけられると、実際、うれしいから」


「うん」


「てか、何で緊張してるの?オレと麗羽れいはって、中二からの付き合いなのに?どうして?」


「え、えーとね……栄飛えいとくんと、こうやって顔を合わせてお昼食べるのって初めてだから、なんか、緊張しちゃって」


 いつになく、私の返答はぎこちないものだった。


 そんな私に対しても、栄飛えいとは白い歯を見せて笑ってくれた。


 そうこうしているうちに、昼休みは佳境へ。


 私も真美も栄飛えいとも、学食を食べ終えた。


「突然聞くんだけどさ、栄飛えいと


「え、なに?」


 真美が、栄飛えいとの肩を指でツンツンした。


栄飛えいとくんって、今、カノジョいるの?」


「いないよ」


「わお、即答」


 真美の問いに、栄飛えいとは即答した。


 すると、真美は、ニヤッと頬を吊り上げた怪しげな笑みを浮かべて、私を見た。


(ほらほら、栄飛えいとくんの恋人の席が空いてるぞ!)という、真美の声が聞こえてくるようだった。


「えー、ほんとに?気になる女子とか、今の時代、同性でもいいんだよ?一人もいないの?」


 真美が食い気味に、重ねてく。


「オレが素敵だと思う人は、たくさんいる。けれど、恋愛的な観点から気になる人はいるかってかれると、うーん……やっぱりいない」


 これって、チャンス?


 私が、空いている栄飛えいとの恋人の席に着いてもいいってこと……?


 私が聞きづらい【栄飛えいとに気になる人はいるか否か】を、真美が代わりにいてくれたのは、すごく助かる。さすが、コミュニケーション能力が高い真美だ……


「ウチとか、麗羽れいはちゃんは、どうよ?」


「え、ああ……」


 ずいずいと顔を近づける真美に、栄飛えいとはたじたじ。


 けれど、私と真美を傷つけないように、言葉を選んで答えてくれた。


「二人とも、最高の友達だと思う。中学の頃からの知り合いで、二人とも、こんなオレにも優しくしてくれるし、こうやって一緒にお昼ご飯を食べてくれるのは、麗羽れいはと真美だけだよ。ただ……」


「ただ?」


「もしも……もしもの話だよ!?オレと麗羽れいはか、あるいは、オレと真美が付き合うってなった場合、オレが相手のことを楽しませてあげられないと思う……」


 真美は「そっかー……」と言って腕組み、ちょっと残念そう。


 そして、私の顔をみて、またニヤリとほくそ笑んだ。


「さてさて、そろそろ教室に戻らないと。明日も、この三人でお昼食べない?どうせ栄飛えいとは、明日も一人でお昼食べるつもりだったんでしょ」


「おい、オレをボッチ扱いすんな」


「いや、ボッチじゃん。事実じゃん」


「まあ、ああ、そうか。でも、真美のその言い方が気に入らねっ」


 とは言いつつも、栄飛えいとは「いいね」と、同意してくれた。


 私も「ぜひぜひ。また話したいよ」と相槌を打つ。


 しかし、ここで真美は、わざとらしく「あっ!」と、何やら思い出したように言った。


「そういえば、明日はウチ、昼休みに委員会の仕事があるんだった!忘れてた……たはは……」


 恐らく真美は、委員会の仕事があることは、最初から分かっていた、覚えていた。


 私と栄飛えいとが二人きりで昼食をしやすいように、話の流れを仕立ててくれたのだろう。


 真美は「ほら、これで二人きりになれるだろ?」と言うような目線を私に送ってくる。


――ありがとう、真美、私のズッ友。


 私にしてくれる気遣いの数々が、神がかっている。


 真美に作ってもらったチャンスをものにするために、私は硬くなった口を開いた。


「じゃあ……栄飛えいと、私と二人で食べない?明日のお昼」


「うん?いいよ。まあ、真美が委員会の仕事があって、一緒に食べられないのは残念だけど」


「いいって、ウチのことは気にしないで。明日がダメなら、明後日あさって、みんな揃って食べればいいんだから」


 真美は笑った。


 そして、「おトイレ行ってきまーす」と言って、食堂を出た。


 私は、栄飛えいとと二人きりで話す機会を得た。


「五限の授業は……生物基礎だね」


「うわ……二連続で、オレの苦手科目かよ……」


 栄飛えいとの表情が暗くなった。


 そんな彼の気分が少しでも晴れればと、私は励ましの言葉を送った。


「一緒にがんばろ、栄飛えいと


「あー、頑張るか、麗羽れいは


「うん!」


「へへ、二人で……いや、みんなで、赤点は取らないように乗り切ろうな」


 栄飛はにっこり笑った。


 午後の授業開始まで、あと少し。


 私たちは席を立ち、食器を返却口へと運んだ。


 教室へと戻る私たちの背中には、午後の日差しが優しく降り注いでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ