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最後の夜

 俺と麗羽れいはは、無事に、予約していたホテルに到着。


 宿泊施設のチェックインの手続きを自分でするのは初めてだったが、ホテルの受付スタッフの方の丁寧な案内のお陰で、すぐに済んだ。


「浴衣の貸し出ししてるみたいだな。せっかくだから、着てみようかな」


「え、浴衣?私も着たい」


 俺と麗羽れいはは、それぞれ浴衣を借りて、渡されたカードに書かれている番号の部屋へ。


 オートロック式だった。


「おおー、最新だなぁ~部屋を出るときは、このカードを忘れないようにしないとな」


 カードをかざして、いざ入室。


 ホテルのホームページに掲載されていた通りの綺麗に整った部屋が、そこにあった。


「値段の割に、広いな」


「見て見て、ウォーターサーバーもあるよ。ベッドもフカフカだし、快適~」


 麗羽れいはは早速、部屋を満喫している。


 ウォーターサーバーの水を飲んでみたり、ベッドに飛び込みをしてみたり。ホテルの部屋を満喫していた。


「さ、お風呂に行く準備しよ」


「大浴場って、何時に開くんだっけ?」


「15時からだから、もう開いてるよ。混まないうちに、早めに入ったら?」


「いいよな、幽霊は、混雑とか関係なくって」


「えへへ、お風呂終わったら浴衣着るから、楽しみにしてて」


 麗羽れいはは着替えを持って、大浴場へと向かう準備を整えた。


 俺も、下着の換えと、貸してもらった浴衣を持って、麗羽れいはとともにホテルの1階の大浴場を目指した。




♦♢♦




「ふー、さっぱりしたー」


 大浴場に、俺は大満足だった。


 男性側の大浴場は、まあまあ空いていた。同じ時間帯に5、6人程度。 


 家の風呂と比較して広いのは前提として、他のお客さんのマナーも良くて、さらに、泡風呂という、普段味わえない体験もできた。大満足である。


 で、今は浴衣を着ているのだが、素材の肌触りもよくて、涼しい。意外と動きやすくて、快適だ。


麗羽れいは……遅いな」


 俺は、部屋の前で待った。両手に、冷えたコーヒー牛乳を持って。麗羽れいはの分と、俺の分。


「おーい、お待たせー」


 壁からぬるっと出てきた麗羽れいは(これが日常的に起こるので、もう驚かなかくなった)。


 彼女は、待望の浴衣を着ていた。


「どうでしょう?私の浴衣は?」


「似合ってる。かわいいよ」


「でしょ。たまには、明るい色もいいね。利亜夢りあむも、浴衣、似合ってるよ」


「ありがとう」


 青色の浴衣の袖に腕を通して、藍色あいいろの細い帯を巻いた浴衣姿の麗羽れいは


 この可愛らしい姿をスマホに収められないことが唯一の心残りである。

 

「クソっ、写真で撮れないのが悔しい……しっかり目に焼き付けておこう」


「じろじろ見んな……いや、やっぱり見て」


「どっちだよ」


「えへへ、ふふふ」


 コントみたいなやり取りを経て、ホテルの部屋を満喫する。


「景色も最高だね~」


 窓の外に広がるのは、青い海。


 景色も申し分ない。


 その後、陽が暮れる。


 夕食は、ホテル内の大宴会場にて行われるバイキング。


 好きなものが、好きなだけ食べ放題。


 日中に歩き回ったので、俺も麗羽れいはも、たくさん食べた。


「うま、うま……」


「卵ばっかり食べすぎだろ」


……麗羽れいはは、温泉たまごが気に入ったのか、5個も食べていた。




♦♢♦




 おいしい料理を食べて満腹になった後は、浴衣姿の麗羽れいはと、ふかふかのベットの上でゴロゴロする。


 この世のあらゆる喜びを集めたような空間が、そこにはあった。


 時間とお金さえあれば、毎日泊りに来たいぐらいだ。


「なにしてるの?」


 麗羽れいはは、自分のカバンの中をゴソゴソしている。


 彼女が取り出したのは、トランプだった。


「やろ」


「何やる?」


「スピード、やろう」


「よし、受けて立つ」


「一回負けるごろに、相手の好きなところを言う。これ、罰ゲームね」


 俺が負けたら、麗羽れいはの好きなところを言う、か。


 それって、罰ゲームじゃなくて、むしろご褒美なんだが……


 麗羽れいはの好きなところなんて、挙げればキリがない。


 テーブルの上にトランプのカードを並べて、いざ、勝負開始!


 部屋でトランプをして遊ぶこのノリ、修学旅行を思い出す。


 俺の同じ部屋の人たちも、トランプをして遊んだり、夜遅くまで話したりしてたなーと、中学生の頃の記憶を思い出した。


 そんな独りぼっちエピソードを思い出させる一幕だ。


 ちなみに、スピードは、判断力に分がある麗羽れいはの圧勝だった。


「ああ……眠くて頭が回らなかった……」


 一日中歩き回ったせいか、俺は眠かった。


 一方、麗羽れいはは、眠気を感じさせないぐらい元気いっぱい。


「はい、私の好きなところ、おひとつカモンッ!!」


麗羽れいはの好きなところは、数えきれないぐらいあるけど……話し上手であり聞き上手でもあるから、一緒に居て退屈しないところかな」


「めっちゃ具体的に言ってくれるじゃん。嬉しい~私も、利亜夢りあむの好きなところ言いたい~」


「罰ゲームの意味ないじゃん」


「私のわがままに付き合ってくれるだけじゃなくて、たまに甘えてくれて、我がまま言ってくれるところが、好き好き大好き~♪」


「……」


「あと、外国の人に道を教えてあげる英語力の高さと、優しさも、好き好き大好き~♪」


「……」


「どした?黙り込んじゃって」


「いや、真面目に褒められて、なんか、恥ずかしくなった」


「そういう利亜夢りあむの奥手で恥ずかしがり屋なところも、好き好き大好き~♪」


 罰ゲームのルールが崩壊。


 単なる、好きなところ発表会になってしまった。


 夜更かしは、まだまだ続く。


 俺のスマホにインストールされているソシャゲのガチャを回した。


 十連引くごとに、俺と麗羽れいはで交代する。


「おおお!!確定演出キター!」


 麗羽れいはが俺のスマホを持ってはしゃぐ。


 俺は「隣の人に迷惑だから……」と、麗羽れいはの興奮を鎮めた……が、そういえば麗羽れいはの声は、俺以外の人に聞こえないんだった。


 彼女がいくら騒いでも、誰も迷惑しないのである。


 さあ、麗羽れいはのガチャ結果は……


「なああああ違うぅぅぅぅぅぅ!!かわいい子だけどさー、私の推しじゃない!」


 残念ながら、麗羽れいはの推しのキャラは出なかった。


「はい、もう終りね。ゲームへの課金は、一年に5000円までって決めてるから」


「うぅ……もう百連回せば、【天井】イケるのに……」


「俺を破産させる気かよ!?お金が無くなったら、こうやって麗羽れいはと気軽に旅行に行けなくなるよ?」


「う……それはヤダ……」


 オタク用語を交えながら、ゲームの話ができる。


 こんなオタク趣味でも気が合うのは、運命としか思えない。




♦♢♦




「さて、もう1時だよ。そろそろ寝よう」


 遊んでいたら、すっかり夜が更けてしまった。


 俺が提案すると、麗羽れいはは「うん……」と、細い声の返事をした。


 幽霊は眠くならないけど、疲れたのかな?


 俺は、歯磨きとトイレを済ませて、就寝の準備を整える。


 ちなみに麗羽れいはは、幽霊だから、歯磨きもトイレも必要ない。


「おやすみ、麗羽れいは


「ん、おやすみ、利亜夢りあむ


 消灯。


 部屋は、カーテンの隙間から覗く月の明かりのみとなった。


 俺と麗羽れいはは、隣り合った別々のベットで横になった。


「……」


「……」


 静かだ。


 部屋に聞こえてくるのは、冷房の「ゴー」という、かすかな稼働音だけ。


 ベットはふかふかで、枕もふかふかで、最高の眠り心地だ。


……浴衣の繊維と繊維が擦れる音がする。


 麗羽れいはが起き上がった……?しかも、部屋を歩いている?


「……なんだよ」


「一緒に寝たい」


 まさか、とは思ったが、やはり、麗羽れいはが、俺の眠るベットの上に来たのである。


「おおお……麗羽れいはの体、ひんやりする……」


 俺の背中にぴったりとくっ付いた麗羽れいは


 部屋にクーラーが効いてることも相まって、もはや寒い。


麗羽れいは、こっち向いて」


 俺は、麗羽れいはと正面で向き合った。


「その……キス、したい」


「ん、いいよ。今日の利亜夢りあむは積極的だね」


「たまには、俺のほうから甘えさせてくれ」


 俺が麗羽れいはを抱きしめ、彼女と唇を重ねた。


 そうやって抱き合うと、幸せ過ぎて、脳が溶けそうになる。


 すると、麗羽れいはが舌を俺の口の中へグリグリとねじ込んできた。


 舌と舌が遊ぶ、ちょっと淫猥な音が響いた。


利亜夢りあむの口、歯磨き粉のいい匂いがする」


 麗羽れいはは、そう感想を述べた。


「ふっ……そりゃ、さっき歯磨きしたばっかりだからな」


 予想外の感想を受けて、俺はちょっと吹き出して笑った。


利亜夢りあむと、永遠に一緒にいたい」


「そりゃ、俺も同じだよ」


「私、幽霊だから歳取らなくて、利亜夢りあむがおじいちゃんになっても、私は、この大学生の姿のままなのかな……」


「それはそれでいいじゃん。いつまでも若いままで居られるんだろ?俺が足腰弱くなったら、麗羽れいはが介護してよ」


「えへへ、いいよ」


 よし、老後の心配はないな!


「さ、寝るぞ」


「待って。もう一回、しよ」


「はいはい、甘えん坊の麗羽れいはさん」


 俺と麗羽れいはは、就寝前にもう一度、キスを交わした。


「ん、おやすみ、利亜夢りあむ


「おやすみ、麗羽れいは


 俺と麗羽れいはは、手を握り合って眠りに落ちた。

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