夏休み最後は、熱海旅行!
9月の上旬……
麗羽と海に行ったり、俺のインターンシップがあったり、花火大会に行ったり、いろいろあった大学3年の夏休みも、いよいよ終わりが近い。
「利亜夢の夏休みも終わりが近いし、何かしたくない?」
麗羽がそう言う。
「二人きりで旅行とかどうよ?」
「いいな、それ」
「どこ行く?沖縄とか行っちゃう?」
「沖縄か……インドア派で引きこもりの俺にはハードルが高いな」
飛行機や船で海を越えるのは、大変だ。
それに、単純に東京から遠い。
せめて、電車で行き来できる関東圏周辺がいい。
「ん~どこか、良さげなところないかな~」
俺は、旅行先のオススメをネットで調べたり、AIに訊いてみたりする。
「AIさーん、恋人と行くオススメの観光地を提案してくれ~関東圏に近いところでお願いしまーす」
俺が文章で尋ねると、賢いAIは、オススメ観光地を列挙してくれた。
「草津、軽井沢、箱根、熱海、鎌倉……温泉地が多いな」
「あ、熱海!私の地元の静岡だよ」
「熱海行くか?」
「行きたい!おいしい食べ物たべて、海見て、温泉入りたい!」
「おっけー」
話し合いの結果、静岡県の熱海に泊まりに行くことに決まった。
で、次に俺たちは、旅行する日や宿泊する場所などを話し合った。
「このホテルはどう?夕食はバイキング形式で、値段はこんな感じ。十分、払える金額だよ」
俺は、スマホの画面を麗羽に示して提案する。
「え、いいじゃん。ここに泊まろうよ。部屋もきれいで、しかも、部屋の窓から、海見えるじゃん!」
「駅からも近いし、立地いいな、このホテル」
「最高じゃん」
「じゃあ、このホテルで決まりだな」
一泊二日。
目的地は、麗羽の地元、静岡県にある熱海だ!
♦♢♦
夏休み最後の土曜日。
東京駅から、電車に揺られて約1時間……
俺と麗羽は、静岡県の熱海市に到着した。
天気は、ちょっと雲がかかった晴れ。日差しがほどよく遮られて、暑さは落ち着いている。
俺と麗羽は、広く青い海を見渡す。
「おおー、海だ!広ーい!やっほー!!」
「それは、山に向かってやるやつだろ」
俺がツッコミを入れる。
麗羽は、「へへへ」と笑う。
「きれいだね。私の地元の海と同じぐらい綺麗!」
「麗羽って、海、好きだよね」
夏のお出かけ先は、海派な麗羽。
彼女の地元の南伊豆町も、海が見えるところにある。
「まあ、地元が海の近くだったし、何より……海を見ていると、心が洗われて、落ち着くんだよねー」
熱海市内では、多くの人を乗せたバスが走り回っている。
大型のホテルや商業施設が立ち並んでいて、活気に満ち溢れた街並みだ。
欧米から来たであろう人の姿もちらほら。
そんな町中を、麗羽を隣に伴って歩く。
「どんなお店があるのかなーとか、どんなお宿があるんだろうとか……ただ歩き回ってるだけでも、探検してるみたいで、楽しいよね」
「あ、アイスクリーム売ってるぞ。行ってみるか」
「お、いいね。暑いときはアイスに限るよ」
ちょっと寄り道。
アイスクリームを食べ歩きをしながら、散策を再開する。
「はい、一口あげる」
「それじゃあ、遠慮なく」
俺は、麗羽が食べる抹茶アイスを一口もらった。
「ちょっと、一口がデカいって!」
俺は、麗羽の抹茶アイスにかぶりついた。
「一口あげるって、確かに言ったよな」
「もー、欲張り利亜夢めっ!」
負けじと麗羽は、大口を開けて、俺のチョコアイスに食らいついた。
欲張って食べたので、麗羽の鼻にはチョコが付いていた。
「欲張りはお前な、麗羽」
そう言って、麗羽の鼻についたチョコをティッシュで拭いてやった。
アイスクリームをすっかり食べ終えた頃、美味しそうな海鮮丼が売られている店を発見。
麗羽は、俺の手を引いて、その店へ。
時刻は午後12時半。
ちょうどお昼時だ。
「並んでるな……」
店内は、かなり混雑していた。
待機する人の列が店の外にまで伸びている。
「でも、海鮮丼食べたいな~」
「うん、俺も」
「待つか~」
「麗羽と話してれば、待つことも苦じゃない!」
「それな」
俺は、列の最後尾に並んで、麗羽とおしゃべりしながら待った。
♦♢♦
「海鮮丼、美味しかったね」
「ああ。並んだ甲斐があったな」
俺と麗羽は、昼食に海鮮丼を食べて、街をぶらっと歩く。
気になる店に入ったり、散策しながら、目的のホテルを目指す。
“Excuse me?”
「?」
突然、金髪長身の男性が、俺に話しかけてきた。
“Do you know where Atami Station is?”
「あー……」
聞き取れる。
なぜなら、小中高大学と、英語を学び続けたから。
男性は、熱海駅はどこか?と尋ねている。
俺は、落ち着いて"Just a second..."と伝えて、待ってもらって、地図アプリを開いた。
そして、現在地から熱海駅までの道を確認して、男性に伝える。
"It's located straight down this road."
俺は、正面の大通りを指さす。
ぎこちない発音だが、意味は伝わるだろう。
"Oh, thank you!”
“Have a good day~"
俺は、男性が熱海観光を楽しめるよう願った。
男性は、連れの友達らしき人たちと、俺が教えた道をまっすぐ歩いていった。
「利亜夢、英語ペラペラじゃん……どした?手、震えてるけど」
「あ、いや……緊張したから……」
俺のスマホを持つ手は、震えていた。
なんせ、外国人の人に道案内をしたのは、初めてだったから。
英語で話しているときは冷静だった。
でも、それが終わった後は、緊張から解放されて、手が震えてしまった。背中は、汗でびっしょりだ。
「まさか、役に立たないと思ってた英語が、こんなところで役立つとは思わなかった」
「すごいじゃん。素直に、尊敬してるよ」
「難しい英文じゃないし、あの人も、簡単な英語で話しかけてくれたから、別にすごくはないよ」
「英語で話しかけられたから、英語で教えてあげようとするその優しさと頭の回転の速さが、すごいと思うよ」
麗羽に褒められて、さらに汗が湧いて出た。
ホテルに着いたら、ゆっくり温泉に入って、緊張と恥ずかしさで流れた汗を洗い流しておこう。




