海で遊ぶぞー!②
どこまでも広く続く青い海と空。
ここに来るまでの道中、二人で寝過ごして、電車を降りそびれるという小さなアクシデントはあったものの、無事に、目的地の海岸に到着することができた。
砂浜は白く、そして……
「暑い……」
「もう汗でベトベトなんだけど……」
「俺、汗拭きシート持ってるよ。あとであげる」
「その気遣い、めっちゃ助かる~」
茹だるような暑さだ。日本の夏というのは、日差しが強く、気温と湿度が高いから、不快感が強い暑さだ。
砂浜は、太陽の熱をたんまり浴びて熱くなり、サンダル無しの素足では、とても歩けるような温度ではなかった。
火傷してしまう、それぐらい、砂浜の砂は、焼けた鉄板のような熱さだった。
さんさんと照り付ける太陽が、俺や麗羽の首の後ろ側をジリジリと焼いている。
風が吹くと、ちょっと涼しい。
「パラソルでもあれば、日の光をしのげるんだけど……」
「あそこに行こう。屋根もあって、割と涼しそうだな」
「あ、いいね。海の家か。行こう、行こう♪」
俺は、海の家の空いている席を指さした。
俺と麗羽は、ひとまず、暑さをしのぐために海の家の屋内へ、荷物を持って避難した。
海の家では、シュノーケルの貸し出しや、かき氷やソフトクリームの販売も行っているようだ。
パラソルの貸し出しもしているみたい。
「パラソルの貸し出しがあるって」
「えー……砂浜のほうは暑いから、この席をとりあえず確保しておけばよくない?」
「まあ、それもそうか。せっかくレジャーシート持ってきたのに……」
この暑さでは、太陽の下に出ることも億劫になってしまう。
俺と麗羽は、確保した海の家の席に居座ることで同意した。
「かき氷売ってるよ。食べる?」
俺が訊くと、麗羽は「うん」と言って、首を縦に振った。
「俺は……ブルーハワイ味にしようかな」
「じゃあ私は、イチゴ味で」
さっそく、かき氷を購入。
時間が経つにつれて、だんだんと、海の家に人が集まって、混雑してくる……さすが、夏休みシーズン。
早めに来て、席を確保しておいてよかった。
「おいしい!でも、頭がキーンってなるし、歯に染みる……」
「幽霊も知覚過敏になるんだ」
「私のことをおばあちゃんだと思ってない?私、りあむと同い年の21だよ」
「そっかそっか」
「私のかき氷、一口あげる」
「じゃあ、俺のかき氷と交換しよう」
互いにかき氷を交換。
ブルーハワイとイチゴ味、両方の味を楽しんだ。
「さーて、ここに引きこもってるのもいいけど……せっかく来たんだから、波打ち際まで行って遊びたいなー」
「俺は、着替えるのも怠い……」
海の家は屋根があって、風通しが良いから、割と快適だった。
だから、わざわざ太陽が照り付ける砂浜を歩くのが億劫になってしまう。
「せっかく来たんだから、一緒に遊ぼうよー!」
「はいはい……うわ、暑い……」
俺は、麗羽に手を引かれて、再び太陽の下へ。
「暑い、暑い」と、ひたすら呻き、汗を流しながら、更衣室へと向かう。
「……私の着替え、覗かないでね」
「さすがに、そういうことはしないって。……っていうか、どちらかというと、麗羽のほうが、そういうことする性格だろ。幽霊だから、壁をすり抜けられるし、誰にも見られないし」
「えへへ、そうかも」
「そうかも、じゃない。覗きは犯罪だからやめろ」
「私は幽霊だから、犯罪にはならないよー」
「うわ、そっか……幽霊だから、犯罪を犯しても、そもそも誰にも見つからないのか……って、そんなことはいいから、早く着替えてきなよ」
「はーい、行ってきまーす」
麗羽は、女子更衣室のほうへと走った。
こんなに暑いのに、元気だなぁ……
そう思いながら、俺はちゃちゃっと海パンを履いて、着替えを済ませた。
「……いい感じだな。筋トレ、頑張ってよかった」
更衣室内に置かれている姿見を見た俺。
その腹の筋肉は、うっすらと割れている。
麗羽に自慢できる今日の日のために、勉強やバイト、就活の合間を縫って、コツコツ筋トレをしていたのだ。
……まあ、筋肉をつけたのは、腹部だけだけど。
脚は、バイトで動き回ったり、大学の行き来で自転車を漕いでいたりするので、元から筋肉が付いている。
しかし、腕は細々としているので、バランスが悪い。
貴重品を鍵付きロッカーに預けて、更衣室を出て、麗羽を待った。
「まだかな……遅いな」
海の家の日陰で待っていると、白い砂浜に黒い水着と黒髪がくっきり浮かび上がって映える美少女がやって来た。
「おっ、来たな。めっちゃ可愛いじゃん」
麗羽である。
「じゃーん、かわいいっしょ?」
「……エロい」
「え、嫌だ、そんな感想……気持ち悪いよ……」
「じ、冗談だって。かわいいよ。絵にして家に飾ったり、スマホのホーム画面に設定したいぐらい可愛いよ」
「なんか、その褒め方も気持ち悪い……」
彼女が着ているのは、黒の水着だ。
豊かな胸元を隠すように、黒いフリルがあしらわれている。
「幽霊は日焼けしないから、安心♪」
「俺は、濡れてもいいTシャツを着ておこうかな。日差しが強すぎるって……」
この日差しでは、肌へのダメージがかなり大きそう。
火傷のような日焼けはしたくないので、俺は白いTシャツを着ることにした。
「日焼け止め、塗ってあげようか?」
「ああ、よろしく」
Tシャツを着る前に、麗羽に日焼け止めを塗ってもらうことに。
……日焼け止めぐらい、もちろん自分で塗れるのだが、せっかくだから、麗羽に塗ってもらおう。
俺が膝を曲げて屈むと、麗羽は日焼け止めを丁寧に塗ってくれた。
Tシャツから露出する首まわりと、腕と脚。
「動かないでよ。うまく濡れないじゃん」
「うひひひひひ……くすぐったい」
麗羽は、日焼け止めを塗りながら、俺の脇腹を指で突いたり、くすぐったりしてくる。
そして、冷たく、小さく、すべすべとした感触の手のひらで、俺の腹部を撫でた。
「筋トレの成果、出てるね。腹筋、うっすら割れてるじゃん。かっこいいよ」
「お、おう……ありがとう」
「いいな~腹筋割れてて。私、女の子だから、なかなか割れないんだよねー」
「腹筋、割りたいの?」
「うん。だって、かっこいいじゃん。高校のときの部活のトレーニングとか、自主練とか頑張ってたんだけど、ダメだった」
麗羽は、しょんぼりする。
けれど、腹筋が割れてなくとも……四肢や腰回りが細い麗羽も美しい。かわいいと、俺は思う。
「はい、塗り終わったよ。さてさて、散策がてら、海岸沿いにお散歩してみよっか」
俺は、麗羽に手を引かれて、人がわらわらと群れて行き交う砂浜を歩いた。




