海で遊ぶぞー!①
「海、行こう!!夏と言えば、海でしょ!」
レジャー雑誌を読んでいた麗羽が、俺に飛びついてきた。
「俺、夏は山派なんだけど」
俺の家族、つまり、加賀家は、夏に山に登りに行くことが毎年の夏休みの恒例行事だった。
暑い夏に山登り……と思われるかもしれないが、山は標高が高いので、涼しいのだ。
それに、自然が豊富で、景色が美しい。
夏のレジャーにもってこいなのだ。
「まあ、麗羽と行くなら、海だな」
俺は、麗羽と海に行く計画を立てるために、スマホのカレンダーを見る。
「8月の最初のほうに、大学のテストあって、それが終わったら、インターンの期間があるんだよね。3日間、お試しで働くやつ」
大学のテストに、就活のためのインターンシップ※、それに加えて、麗羽と海に行く予定が挟まって……
※学生が、企業や組織で実際に働く体験をする制度のこと
今年の夏は、割と忙しくなりそう。
「じゃあ、その間の期間はどう?8月の中旬だけど」
「いいね。その期間に行こうか」
「やったー♪利亜夢と海行くの、楽しみ~」
「となると、俺は、水着を買わないとな……」
「水着……というか、海パン、持ってないの?」
「最後に海に行ったのって、俺が幼稚園生の時だったからな。持ってないよ」
父の背中が真っ赤に日焼けして、痛がっていた記憶が、かすかにある。
記憶が曖昧なぐらい、家族揃って海にお出かけした思い出は、過去の遠いことだった。
「これで、可愛い水着買えば?」
俺は、麗羽に現金を提示する。
一万円札だ。
もちろん、俺がバイトで汗水垂らして稼いだもの。
大抵の水着は、これ一枚出せば買えるだろう。
まあ、俺は安物の海パン一枚でいい。
麗羽には、気に入った水着を買ってもらいたい。
「こんなにもらっていいの?」
「いいよー。麗羽が一番気に入った水着を買いなよ」
「もしかして……利亜夢が、私の可愛い水着姿を見たいだけなんじゃない?」
「うぐ、バレたか。麗羽、なかなか目が鋭いな」
俺の下心は、麗羽に見透かされてしまった。
俺は、麗羽の可愛い水着姿が見たいっ!!
「いいよ、遠慮せず、気に入ったの買いなよ」
「じゃあ、遠慮なく、買わせてもらおうかな。おつりは、ちゃんと返すから」
「おう。こんどの日曜日にでも買いに行くか」
「ん、わかった」
麗羽は、俺の手の万札を受け取り、大切そうに引き出しにしまった。
♦♢♦
日曜日。
俺は、母に頼まれていた買い物と、麗羽と水着の購入を済ませるために、自分の部屋を出て、リビングへ。
母は、リビングでスマホをいじっていた。
「利亜夢」
「ん、何、母さん?」
母が俺を呼んだ。
「あんた最近、出かけること多いわよね。もしかして、誰かと遊んでたりする?」
「……まあ、実は、そう」
どうやら、母は俺が頻繁に外出することを気にかけていたらしい。
これまで外出なんてめったにしなかった男が一人で、デパートに買い物に行ったり、イルミネーションを見に行ったり、スカイツリーと水族館観光に行く……というのは、ちょっとおかしいか。
母に、誰かと出かけていることがバレるのも、時間の問題だったのかもしれない。
「あら、良かった。利亜夢が人と仲良くしてることが知れて、お母さんは安心しました。そのお友達とは、どんな関係?女の子だったりする?」
「あー……大学の友達。男だよ」
嘘だ。
本当は、麗羽という、可愛い同い年の幽霊の女の子の友達……いや、恋人がいるのだけれど……
それを赤裸々に明かして説明しても、信じてもらえないだろう。
母は、幽霊やオカルト話を信じない性格だ。
それに、女の子の友達がいる、なんて言った日には、「いつから友達なの?」「どこに遊びに行く予定なの?」「どんな子なの?」と、質問攻めにされるのが目に見えている。
「楽しい?」
「ああ。楽しいよ。いいヤツだしね」
麗羽が、【いいヤツ】なのは、事実だ。
疲れて帰ってくる俺のために、お風呂を沸かしておいてくれたり、お弁当箱を洗っておいてくれたり、洗濯ものを畳んでおいてくれたりしてくれる。
「よかったね。そのお友達、大切にしな」
「うん。そうするよ」
麗羽のことは、一生大切にする。
なんなら、あの世に逝った後も、麗羽とイチャイチャする気だ。
人生で初めてできたカノジョの姿や声、あとは……孫の顔を母に見せてやれないことは、申し訳ないと思う。
俺は、幽霊である麗羽しか、愛する気はない。
「じゃ、俺買い物行ってくる」
「はい、よろしくねー」
俺と麗羽は、水着や日焼け止め、サンダル、大きめのカバン……それから、母に頼まれていた食料品を買いに出かけた。
さらに、海に出かける前日には、二人でサンドイッチを作っておいた。
海に出かける準備は完了。
前日は、楽しみで、なかなか寝付けなかった。
修学旅行前日の夜のような、ソワソワとする感覚に似ていた。




