スカイツリーデート
「ねー、暇」
「いいよな、幽霊はずーっと暇で。こちとら、就活が始まってて大変だっつーの」
現在、俺は大学三年生になろうとしている(春休み中)
就活は人を病ませるというのは、本当だった。
希望する業界を考えて、業界のリサーチして、面接対策、エントリーシートの書き方……そんなことを考えるだけでも頭痛が起こる。
でも、麗羽のおかげで、多少は、前向きでいられる。
麗羽と時間を共有するときだけは、そんな嫌なことを忘れられる。
幽霊カノジョの麗羽がいるので、幽霊ハンターや怪談師にでもなろうかな(稼げるのかは不明)
「春休みだし、どっか行こう」
ゴロゴロして、漫画を読む麗羽がそう言う。
たまには、遠出もよさそう。
気分転換にはもってこいだ。
「どこ行きたい?」
俺が訊く。
「東京」
「ざっくりし過ぎだろ。てか、俺たちが住んでるところが、まさに東京だよ」
俺たちが住んでいるのは、東京の中央市。
大都会のど真ん中である。
「スカイツリーはどう?」
「お、いいじゃん」
「この前、動画見てたら出てきたんだけど、スカイツリーの真下に、すみだ水族館っていう水族館があるらしいんだよね。水槽が大きくて、ペンギンもいるし、クラゲもいるんだって」
「行くか。こんどの土曜日はどう?」
「私は幽霊だから、毎日暇。いつでもいいよ」
「じゃあ、今週末の土曜日、行こう」
「おっけー」
ということで、ゆるーい感じに週末の予定が埋まりました。
♦♢♦
土曜日。
麗羽と約束していた通り、スカイツリーへ。
電車に揺られて、スカイツリーの最寄り駅からは徒歩で。
とうきょうスカイツリー駅から出ると、灰色の雲が空を覆う、あいにくの小雨の空模様を見る。
それに加えて、めっちゃ寒い。
とても三月上旬とは思えない。
雪がちらついていても、おかしくない寒さだった。
「さむーい!」
麗羽は、折り畳み傘をさした俺に抱き着いてきた。
そんな寒がり幽霊の麗羽に、ちょっとしたプレゼント。
「ふふふ、こんなこともあろうかと、カイロを持ってきておいたぜ!一つあげるよ」
ブルブル震える麗羽に、カイロを手渡した。
俺のポケットの中で十分に揉まれたカイロは、温かくなっていた。
「……ありがとう、助かる」
麗羽は、頬をかすかに紅潮させて、温かいカイロを握りしめる。
「利亜夢のそういうところ、気が利くよね」
「そりゃ、俺にとって、人生最初で最後のカノジョなんだから、大切にするに決まってるじゃん」
「人生最初で最後って……そんなことないでしょ。利亜夢、気が利いて優しくて穏やかな人だし、勉強もできるから、わりと楽にカノジョできそう」
「いや、俺、そもそも、人と関わるの嫌いな人間だったからなー」
一人で居ることこそ至高……というのが、加賀 利亜夢という人間の考え方だった。
でも、今は、その限りではなくなった。
なぜなら、大好きな麗羽が隣を歩いてくれるから。
麗羽が、人と関わることの楽しさを教えてくれたのだ。
「でも今は、麗羽のお陰で、人と居るのが楽しいと思える。好きな人と時間を共有することの楽しさを教えてくれたのは、麗羽だよ」
「……」
麗羽の顔は、真っ赤だった。
目も回っている。
「ど、どうした、麗羽?顔真っ赤だけど……熱でもある?」
「だ、大丈夫。何でもない……」
「そ、そう?」
「うん。気にしないで」
俺と麗羽は、手を握り合って歩いた。
麗羽の顔は、さらに赤くなった。
「高いね……」
麗羽は、恥ずかしさを隠したいのか、話題をスカイツリーにすり替えた。
「そりゃ、634mもあるからな」
さすがは日本一高い電波塔。
小雨を降らせる雲を突き抜けて、大都会の中心にそびえ建っている。
「どっち先に行く?水族館か、スカイツリーにのぼるか」
俺が提案すると、麗羽は小首を傾げて「うーん……」と熟考。
「今、夕方だから、夜景が綺麗になるのは、もうちょっと後の時間帯だよね。天気予報だと、あと2時間ぐらいで晴れるみたい。だから、先に水族館に行こう!」
スカイツリーから見下ろす東京の夜景は、さぞ絶景だろう。
「よし、そうするか。チケット買ってくる」
「ありがとう、利亜夢」
俺は、水族館に入館するためのチケットを買った。
二人分で、約5000円……
うぐ、懐が痛い……
でも、麗羽との思い出作りのためと考えれば、安いか。
「よし、行こう」
「手、繋ごう」
「ああ、いいよ」
俺は、麗羽と手を繋いだ。
たったそれだけで、とても幸せな気持ちになれた。
彼女の手は、氷のように冷たかった。
けれど、ずっと繋いでいたいと思った。
――それでは、すみだ水族館とやらに、いざ、入館!




