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試験勉強、幽霊カノジョを添えて

 冬休みを麗羽れいはと満喫した俺は、大学の後期の期末試験やレポート作成と多忙なバイトという、二重苦の板挟みに遭っていた。


「ただいまぁ……」


 かすれた声で、帰宅の挨拶をする。


 リビングからは、母と父の「おかえりー」という声が聞こえてきた。


 そのすぐ後に「お疲れー!」という、麗羽れいはのキンと響く声が二階の部屋から聞こえてきた。


「ずいぶん帰りが遅かったわね」


 風呂上りの母が言う。


 時計は、午後11時を示している。


 いつもの平日なら午後10時半には帰れるが、今日に限っては、帰宅が遅くなった事情があった。


「お客さんとのトラブルがあってね。店長と対応してたら、遅くなった」


「あらあら、それは大変だったわね。お疲れ、利亜夢りあむ。ゆっくりお風呂に入ってあったまりな」


「言われなくても、そうするつもり」


 俺は、重いカバンを持って階段を上がる。


 カバンの中には、レポート作成のための参考資料の本が入っていて、けっこう重い。


(風呂に入ってから、レポート書かなきゃな……ダルすぎる)


 階段を上る足取りは重々しかった。


 部屋に入ると、イヤホンを片耳につけて、液タブで映画を見ている麗羽れいはの姿を見た。


「あ、おかえり、利亜夢りあむくん」


「ああ、ただいま……」


「疲れちゃった?しなびた大根みたいな顔になってるよ」


「俺、そんなにひどい顔してるのか……」


「遅かったね」


「バイトでトラブルがあってね」


「何があったの?」


 麗羽れいはは、わざわざ映画鑑賞をストップさせてまで、俺の苦労話に耳を貸してくれた。さすがは、雑談好きな麗羽れいはだ。


「た、大変だったね……一緒にラブコメ映画でも見て癒される?」


「今日のうちに大学の後期のレポート課題を終わらせたいかな……」


「もうそんな時期か~私が手伝えることある?」


「あ~そうだな……」


 俺はパソコンを起動して、作成中のレポートのデータを開いた。


「これ、俺が下書きしたレポート。このレポートの誤字脱字をチェックしておいてくれると助かるな」


「任せて。私も、一応文系の大学に通ってたから、それぐらいならできるよ!引用のチェックもしておこうか?」


「マジで?助かる」


「ん。安心して、ゆっくりお風呂入りな」


 麗羽れいはは、俺が入浴している間に、レポートの誤字脱字をチェック・訂正をしておいてくれた。


 さらに、カバンに入っている参考文献の引用部分に過不足がないかも確認しておいてくれるという……まさに至れり尽くせり。


 彼女のおかげで、ゆっくり湯舟に浸かることができた。


 リラックスできたので、この後のレポート作成と勉強にしっかり取り組めそう。


「ただいま。さっぱりしたわ」


 入浴を済ませて、部屋に戻った。


「ん、シャンプーの良い香りがする」


「お前は犬か」


 俺のつむじの匂いをくんくん嗅ぐ麗羽れいはを押し退けて、机の前に座り、レポート作成へ。


 パソコンをカタカタして、レポートの清書を早々に終わらせる。


「よし、終わり。次は、試験がある科目の復習をしておこうかな」


「え~まだ頑張るの?私と一緒に週末の夜更かししようよ~」


「明日ゆっくりしよーな」


 残念だが、麗羽れいはとのイチャイチャ時間タイムは、明日にお預け。


 試験も近いため、もう少しだけ勉強を頑張ることにする。


利亜夢りあむが頑張るなら、私は隣で見守ってる」


 麗羽れいはが隣に座って、ノートをじっと眺めていた。


 そんな彼女は「ふあ~」とあくびした。


「先に寝ててもいいよ」


「幽霊は眠くならないよ」


「ああ、そっか」


「今のあくびは、よくわからないけど出たやつ」


 そんな他愛のない会話を交えながら、韓国語と安全保障論の復習をする。


 一日30分だけでもいい。


 何なら、5分やるだけでもいい。


 短期集中で、なるべく遊ぶ時間を確保するというのが、俺の勉強スタイル。


「えらいね、勉強頑張ってて」


 麗羽れいはから褒められた。


 それだけで眠気が吹き飛んで、やる気に火が着くというものだ。


「私は、大学生活は散々だったな……」


「楽しめなかったの?」


「正直に言うと、そうなの。私一人きりで、静岡の田舎から東京の大都会に上京したから、中高のときの友達とも疎遠になっちゃって、上手いこと友達作れなくて、ね……」


 麗羽れいはの声のトーンは落ちていた。


 貴重な青春の一ページである大学生活を楽しめなかったのは、気の毒だ……


「中高のときは、学校楽しかった?」


 俺がくと、麗羽れいはの声のトーンは少しばかり調子が良くなった。


「うん。中高のときは、むしろ楽しくて、友達も割といて、人生の絶頂だったよ。そこから地元を離れた途端、人生急降下って感じ」


 大学生で人生につまずいて、そこから死んでしまって幽霊になったのかもしれない……


 そんな詮索をしても誰も幸せにならないので、しておく。


「私の人生は、いろいろと散々だった。だから、利亜夢りあむには、大学生活の青春を全力で楽しんでほしい。私、そのお手伝いしたい」


「俺は、現に楽しんでるよ。レポートも勉強も大変で億劫おっくうだけど、麗羽れいはが隣に居てくれるだけで、なんか、楽しい」


 俺は、麗羽れいはの人生とは反比例している。


 大学生になって、麗羽れいはが家に来て(勝手に上がり込んで)からは、人生が楽しくて仕方がない。


 麗羽れいはのためにとか、麗羽れいはに褒められたいとか、そういう感情が俺を突き動かして、勉強もバイトも恋愛も、すべてがうまくいっている。


麗羽れいはのおかげで、毎日が楽しいよ」


「私も」


「そりゃ良かった……よし、復習終わり!」


「お、終わった!?ほっぺグリグリ~」


「じゃあ、仕返しに頭ナデナデだ、このやろー!」


 二人でじゃれあうのもほどほどに。


 そろそろ眠くなってきた……


 歯を磨き、トイレを済ませて、就寝の準備を整える。


 麗羽れいははいいなぁ、歯も磨かなくていいし、トイレに行く必要もなくて……


 そこは、幽霊の良いところだ。


「お疲れ、利亜夢りあむ


 麗羽れいはは、ベットに横になった俺の頬を撫でた。


 彼女の手は、ひんやりと冷たいが、彼女の優しい心の温かさが伝わる手つきだった。


「ああ、労いありがとう。お休み、麗羽れいは


「ん、お休み」


 俺は目を閉ざし、麗羽れいはは床に寝転んで漫画を読み始めた。


 幽霊だから、寝る必要はない。


 だから、時間をめいっぱい使って楽しんでいるのだろう。


 俺は、眠気がピークに達して、いよいよ夢の世界へ旅立とうとしている。


 しかし、しばらくして……


「お邪魔しまーす……」


 麗羽れいはが俺の布団に潜りこんできたのだ。


「……なんだよ」


 入眠を阻害された。


 けれど、相手が麗羽れいはなので、嫌な気はしない。


利亜夢りあむの体温で温まりたいなーって思って」


麗羽れいはは、布団と俺の体温で温かいかもしれないけど、俺は麗羽れいはの体が冷たくて寒いんですけど……」


 寒がる俺には、お構いなし。


 麗羽れいはは、腕を伸ばして、俺の体を正面から抱いた。


「あ、あ、あ、あ、あの、麗羽れいはさん……?」


「ぎゅーって抱きしめ合うと、疲れも悩みもぜーーんぶ吹き飛ぶよ」


 言われた通り、俺も腕を寄せて麗羽れいはを抱きしめた。


 すると、頭の疲れも、手足の疲労も、すべてが和らいだ。


 まるで、ゲームに出てくる治癒の魔法のようだった。


「あががが……心臓が爆発しそう……」


 しかし、女の子と抱き合うというのは、慣れていないから緊張してしまう。


 正面から抱き合うハグは、初めてだ……


 身震いさえも起こった。


「そんなに緊張しないでよ。これは、私からの仲良しの証だよ」


 目をぱちぱちとさせる。


 さらに、頬をつねるが、夢から覚める気配なし。


 やっぱり、現実だったか。


 麗羽れいはと俺は、抱擁を解いて向き合う。


「もう一回、しよ」


「お、おう……」


 しばらく間を置いて、俺は再び、麗羽れいはと抱き合った。


 麗羽れいはの体が冷たいので、体は冷える。


 けれど、心は満たされて温かくなった。


「改めて、おやすみ」


「おやすみ、麗羽れいは


 俺と麗羽れいはは、肩を寄せ合って眠りに落ちた。


 寝ている間、ずっと彼女に手を握られていた気がする。



――俺は、麗羽れいはのおかげか、すべての科目の単位を取得して、成績優秀で2年生後期を終えた。


 これで、安心して春休みが過ごせる。


 麗羽れいはと遊び放題、イチャイチャし放題、お出かけし放題ではないか!!

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