幽霊カノジョが家に住み憑いていて困っています
日本列島は、猛暑、猛暑、猛暑!!の、連日残暑の季節を迎える。
大学生【加賀 利亜夢】は、汗だくになりながら自転車を漕いで、帰宅。
明日は、待ちに待った土曜日だ!
週末に遊べる友達もカノジョもいない……
だから、エアコンの効いた涼しい自室に引きこもって、ゲームしまくるぞ!
「シャワー浴びて、洗濯して、弁当箱洗って、韓国語の復習して……」
利亜夢は、まず、やるべきことを早めに終わらせる作戦を立てた。
さっそく、かばんを下ろして、脱衣所へと向かおうとしたときのことである。
「うわ、びっくりした!!」
「うわ、びっくりしたぁ!!」
二人の声が重なった。
顔に見覚えのない黒髪短髪の女が、リビングのお菓子棚を漁っていたのだ。
年齢は、大学2年生の自分と同じぐらいか……と、利亜夢は推察した(身長も、166cmで同じぐらい)
「ど、どちら様でしょうか?」
「わ、私のことが見えるの!?」
フローリング床に膝を突く女は、驚いた様子だった。
父も母も、この時間帯は仕事なので家にいない。
利亜夢には、きょうだいもいないし、家に呼べる友達もいない。
では、この女は何者か?
とりあえず、住居侵入なので警察呼ぼう。
たぶん、不審者や泥棒の類い。
利亜夢は、怪しい女に背を向けて、カバンから素早くスマホを取り出す。
110番通報を試みた。
しかし、女は「待って待って!怪しい者じゃないよ!」と言って抵抗した。
「人の家に勝手に上がりこんで、堂々とお菓子を漁るのは、怪しいに決まっているじゃないですか」
利亜夢は、女に正論を突きつけた。
「ご、ごめんって!ちょっと何が食べたいなーって思って……ポテチとか」
「謝って赦されると思っているとしたら、あなたの頭は、かなーりおめでたいですね」
すると女は、宙に浮いて壁をすり抜け、利亜夢のスマホを取り上げた。
あと少しで110番に通報できたのに。
「は……?」
何が起こったのか理解できず、利亜夢は呆然とした。
壁をすり抜けた……?この女、宙に浮いている……?
変な夢でも見てるのかな……
「にひひ、私は幽霊だから、警察を呼んだところで、法律は通用しませんよー」
「幽霊……人間の法は適用されないんですね?じゃあ、あなたの胸を揉ませてください」
「え、キモ……」
「すみません、冗談です」
「冗談にも限度があるでしょ」
女、ドン引き。
二人の間には、微妙な空気が流れた。
「へぇ、幽霊っていう非科学的な存在がいるんですね。あんまり信じてなかったですけど」
利亜夢は素っ気なく言った。
「え、なんか反応薄くない?ほら、私、本物の幽霊なんだよ?」
幽霊を自称する女は、壁の向こう側にすり抜けたり、体を半透明にしたりした。
しかし、利亜夢の表情は薄い。
「あなたが幽霊だろうと、人だろうと関係ありません。出ていってください。ここは、俺の場所です。ここは、【加賀家】です。あなたの家ではありません」
「えー、もうちょっとだけでも、ここに居させてよ。私、一ヶ月前に幽霊になってから、話しかけても、誰も反応してくれなくて、寂しかったんだよ。私の姿が見えて、私の声に反応してくれたのは、あなたが初めてなんだよ!」
「あなたが寂しかろうが、知ったことではないです。俺は、人の家に勝手に入るようなあなたと面と向かって話す気はありません」
「ひーん……そんな酷いこと言わないでよ」
「俺はシャワーを浴びてきます。俺が戻るまでに出ていかなかったら、本当で警察に通報します」
利亜夢は、着替えを携えて、浴室へと消えた。
「……」
幽霊女は、声を抑え、全身を透明にして、ゆっくりと、利亜夢のいる脱衣所への扉をすり抜けた。
「わっ!」
女が声をあげて、利亜夢を驚かせた。
「うわ!?びっくりした……」
女の上半身が、壁から飛び出してきた。
利亜夢は、汗が染みこんだTシャツで、女の顔を叩いた。
「わっ!汗臭いって、やめて!痛い痛い!ひどいよ!」
「幽霊であることをいいことに、急に脱衣所を覗くあなたが言えたことですか!?」
「あ、あなただって、急に私の胸揉んでいいかとか訊いてきたじゃん!私たち、初対面だよ!?」
「だから、どの口が言ってるんですか!!」
――人間の利亜夢と、幽霊の女の子の、奇妙な物語が始まった。