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後輩に告白された

作者: 紅204
掲載日:2024/02/23

「先輩、付き合ってほしいっす」


 頬をかすかに赤らめ、愛衣が俺に向かって告げた。


「な、なんでいまさらそんなこと言うんだよ」

「だ、駄目っすか……?」


 潤んだ瞳でこちらを見てくる。ため息を吐く。


「ここはどこだ?」

「先輩の部屋ですね」

「なんでおまえはここにいる?」

「先輩がなかなか起きてこないから起こしにきたんすよ」


 愛衣は「感謝してください」 とか戯れ言をほざいている。


「今日は何の日だ?」

「結婚式ですよ。寝ぼけてるんですか?」


 呆れたような顔でこちらを見てくる。

 クッソ。後で一発引っ叩いてやる……!


「で、それは誰と誰の結婚式だ?」

「私と先輩の結婚式じゃないっすか。何当たり前のことを聞いてきているんですか?」


 大きく息を吐く。


「今日結婚すんのに、なんでいまさら付き合ってほしいとか言ってくるんだよ!」


 俺は愛衣の頭に手刀を入れる。




「DVっすよ、DV。なにも叩かなくてもいいじゃないっすか」

「うっせえ。いいから早く食べろ」


 ご飯を食べながら愛衣に注意する。

 ほんとなんで今更あんなこと言ってきたんだか。


「先輩のバカ」


 無視する。


「アホ。トーヘンボク。変態。分からず屋」


 うるせえな。

 無視を続ける。


「えーと……。バーカバーカ、バーカバーカ」


 ご飯を口に運ぶ手を止める。


「バーカ。アホー。マヌケー。夜ばっかり優しくするDV男ー」

「うるっせえな! なんだよ、そんな悪口言いやがって!」

「きゃー、先輩が怒ったー」


 俺が怒ると、愛衣は半笑いで怯えるような仕草をした。

 ほんとコイツは……!


「はあ」


 ため息をつく。

 こんなんでも可愛いって思ってしまうってほんと重症だな。


「せ、先輩? どうしました?」

「いやなんでもねえよ。で、なにが言いたいんだよ。朝っぱらからあんなこと言って」

「えっとですね……」


 愛衣は少し目を上に向ける。


「私これまで誰かと付き合ったことないんですよ」

「へえ、意外だな」


 愛衣は客観的に見ても可愛い方だろう。

 肌や髪の手入れに気を遣っているのはよく見てきた。その上、誰と話すときでも楽しそうで、クラスで一番とは言わないまでも、人気があっただろうと思う。


「なんでだと思いますか?」

「さあ?」


 告白してきたやつがタイプじゃなかったとかじゃないのか、どうせ。


「昔から先輩とよく一緒に居たじゃないっすか。そのせいで付き合っていると思われていたらしいんですよ」


 あー、そうか。中学生の頃から何かと絡んできてたもんな。周りから勘違いされてたのか。


「つまり、付き合ったことがないのは先輩のせいなんすから、付き合ってくださいよ」

「なるほど、お前の言い分はわかった」

「じゃあ……!」

「でもさ、大学生の頃から同棲してただろ? 二人で遊びに行ったことだってあるし、ほぼほぼ付き合ってたみたいなもんじゃねえか」


 高校生くらいからか、確か。こいつに誘われてゲーセンに行ったり、買い物に付き合わされたこともあるし、実質付き合ってたみたいなもんだろ。


「いやでも……」


 愛衣はまだ不満そうだ。


「何かまだあんのか?」

「それは……」


 愛衣の頬が紅潮してきた。


「今さらなに恥ずかしがってんだよ」

「じゃあ言いますけど!」


 愛衣は机に手を置いて立ち上がった。


「私先輩から好きとか言われたことないんですけど!」

「あー、そうだっけ?」

「そうですよ! 一緒に住み始めた時も、初めての時も、結婚することを決めた時も、一言もそんなこと言ってくれなかったじゃないっすか!」


 後ろめたい気持ちが芽生えてきた。


「……言わなくても通じ合う仲っていいよな」

「私は言葉にしてほしいっす!」

「そうだよな」


 でも今さら言うのもちょっと恥ずかしいし……。

 愛衣が椅子に座りなおすと、うつむきながらまた話しだした。


「……いっつも私ばっかり言ってて、ほんとに先輩が私のこと好きなのか不安になるんです。先輩にとって都合がいいから、今の関係でいれてるんじゃないかって」

「そんなこと――」

「わかってます。先輩にそんなつもりがないことは。でも、態度だけだと不安になっちゃうんです」


 愛衣は脚を椅子に乗せて、膝を抱えた。その様子は、怯えている小動物のように見えた。


「ごめんなさい、めんどくさいですよね。今さらこんなこと言い出して」


 愛衣の手に力が入る。

 なんと言えばいいんだろうか。今さら言っただけで元気付けられるのか?無理して言っているとか思われないか?


「ごめんなさい。大丈夫です。結婚前でちょっと不安になっただけなので」


 愛衣は顔を上げると、笑顔をこちらに向けた。しかし、それはどこか痛々しいように感じさせる。


「さあ、早くご飯を食べて家を出ましょうか」


 愛衣は箸と茶碗を手にとる。


「愛衣」


 愛衣がこちらを向く。

 ここでちゃんと伝えないと、あとで駄目になりそうだ。


「ごめん。今さら言わなくてもいいだろって愛衣に甘えてた」

「そんな、別に大丈夫ですって」

「いや、不安にさせたのは俺だろ。だから謝らせてくれ」


 一度深呼吸をする。


「俺は、愛衣のことが好きだ。最初は後輩としか見ていなかったけど、一緒に遊んでいるうちにお前のことが好きになってたんだ」


 愛衣の頬が赤くなりだした。


「大学で再会できて、また一緒にいれて嬉しかった。もっと長く一緒にいたいと思って、思わず家に誘ってしまった。ちゃんと言葉にする前にそんなことをしてしまったせいで、不安にさせて悪かった」


 愛衣の目が潤む。


「これからはちゃんと言葉にする。不安にさせることが無いようにする。だから、お前も何かあったら遠慮なく言ってくれ」

「いいんすか? スマホを見せろとか言ったとしても?」


 したいのか?


「別にそのぐらいいいけど。お前に隠したいことなんかないしな」


 愛衣の目から涙がこぼれ落ちる。


「だ、大丈夫か?」

「だいじょぶっす。こんなに言ってくれるなんて思ってなかったから、嬉しくて……」


 愛衣は泣きながら笑っていた。さっきまでとは違った、本当に嬉しそうな顔で。


「お前が喜ぶなら、何度でも言ってやるよ」

「先輩……」


 愛衣が何かをねだるような目でこちらを見る。


「愛衣、好きだ」


 俺が愛衣の頬に触れると、愛衣は目を閉じる。顔を近づける。


 ピリリピリリ、ピリリピリリ。


 あと数センチのところでアラームの音が聞こえた。スマホを手に取る。時間は八時半になっていた。九時には家を出る予定だ。


「やっべ、早く食べて準備するぞ」

「はーい」


 慌ててご飯を口にかき込む。愛衣が作ってくれたのに味わえないのはもったいないけど、仕方ないか。




「先輩、忘れ物は無いですよね?」

「一緒に何回も確認しただろ」


 靴を履きながらそんな会話をする。


「じゃあ行きましょうか」


 愛衣は俺の左腕に自分の腕をからませる。


「先輩?」


 俺が動かないから、愛衣が不思議そうにこちらを見てくる。


「なあ、結婚するんだし敬語とかやめないか?」

「あー、そうですねえ」


 愛衣は考えこむ。

 敬語もいいけど、タメ口の方が愛衣にとって楽なんじゃないかな?


「先輩、タメ口を使われたいんですか?」

「そ、そんなんじゃねえよ! ただ、お前がそっちの方が楽なんじゃないかと思っただけだよ!」

「本当ですかあ?」


 愛衣はニヤニヤと笑っていた。


「そ、それに! 結婚するんだから敬語使ってるのもおかしいだろ?」

「別に敬語を結婚しても使ってる人いると思いますけど?」


 元気になったかと思ったら、調子に乗りやがって……!


「まあ、先輩がどうしてもっていうなら変えてもいいですけど?」


 うっぜえ……!


「直人、どっちがいい?」


 耳元で囁かれた。思わず耳を抑えて、後ろに下がった。


「あはは。なんでそんな反応するんですか?」

「……ウザかわいいってこういうことを言うのか」

「か、かわ……! な、なにそれ!」


 愛衣の顔が赤くなっていった。眉を吊り上げた愛衣が、俺の腕をパシパシと叩く。


「もう! 先輩のバーカ、バーカ!」

「痛い痛い、やめてくれ」

「棒読みで言われても馬鹿にされている気しかしないんですけど!」


 愛衣の手を受け止めて、握りしめる。


「ほら、早く出るぞ」

「分かりましたよ」


 まだ少し不満げな愛衣が、外に足を向ける。


「あ、忘れてた」


 愛衣がこちらを振り向いた。


「なんだ?」


 愛衣が俺の襟をつかむと、背を伸ばして俺に口づけをしてきた。


 愛衣はこちらに満面の笑みを向けた。


「私も好きだよ、直人」

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