徒然なる日常
ごきげんよう、ひだまりのねこですにゃあ。
三連休キター!! シルバーウィークキター!!
……私は出勤ですよ。繁忙期なので。
さて、外へ出ると毎日色んなことが起こりますよね。
今日も朝から色んなことがありました。
そんな徒然なる日常のお話。
◇◇◇
駅へ行くとさすがに人出が多い。連休初日ということもあるが、台風が接近していることを考えると、今日ぐらいしか出かけられそうもないから当然か。
車内は混雑しているけれど、普段と違って明るい思念が優勢で、私の気持ちもつられて上がる。
「お客様が線路内に立ち入ったため、当駅でしばらく停車いたします」
だが、そんな浮かれた気分も車内アナウンスによって一気に雲散霧消する。
おいおい今週何回目だよ。
一説には痴漢の隠語と言われているが、実際は色んなパターンがあるらしい。
コロナ禍になってから増えた気がする。
絶え間なく続くストレスは、人間から心の余裕を確実に奪っている。
発散できない人間には生き辛い世の中になってしまった。
電車は30分遅れて運行を再開する。
まあ一時間余裕をみているから問題はない。
電車を乗り換えるが、いつもなら下りのため空いている座席も今朝は大方埋まっている。
発車を待っていると、派手な格好をした騒がしいおばさまがギリギリで駆け込んでくる。正直一番苦手なタイプだ。
来て欲しくないと思っていると、見事に私の隣に座る。嫌あああ!!
苦手な物ほど寄ってくる……これは何かの法則なのだろうか?
強烈なおばさまは、座るなり演劇のようなセリフを暗誦し始めた。役者さんなのかもしれない。
と思っていたら、今度は隣の人と職場のことを大声で話し始める。
う、うるさい……頭が割れそうだ。
何かがおかしいと思ってチラリと見れば、おばさまが話していた隣の人は知り合いでもなんでもないただの大学生風の男の子で、可哀想に困惑していた。これはヤバいおばさまだ。矛先がいつこちらに向いてもおかしくはない。
ふふふ、だが私は最初から気配を消しているのでおばさまは私の存在に気付いていない。他の人が私の上に座ってくるリスクはあるが、こんなヤバいおばさまの隣に好んで座ってくる勇者は多くないはず。
問題は気配遮断と遮音スキルは同時発動が難しいこと。
この暴力的とも言える大声にあと何分耐えなければならないのか……。
私が絶望に打ちひしがれていると、不意におばさまが立ちあがる。
「あっちの方が日が当たって気持ち良さそうね」
そう言っておばさまは日の当たる席へ移動していった。
なるほど、彼女は爬虫類系ヒューマンだったのか。
気持ちよさそうに日光浴するおばさまを遠目に眺めて安堵する私。
電車からバスへ乗り継ぎ、職場まで住宅街を歩いていると、幼い女の子と若いお母さんが何やら話をしている。
「ママ~、見て~かわいいの見つけた」
女の子が手にしていたのは、アゲハチョウの幼虫。緑色のイモムシだ。思わず私も笑顔になる。うんうん、可愛いよね。
「何してんの!! ああ、もう馬鹿!! 気持ち悪い!! なんでそんなことするのあんたは!!」
だがお母さんの反応はヒステリックで、女の子を一方的に責め立てる。
褒めてもらえると思ったであろう女の子はびっくりして固まった後、泣きだした。
「早く捨てなさい、早くっ!!」
泣いている女の子の様子などお構いなしにお母さんは女の子の手を掴み、幼虫を振り落とした。
苦手なのはわかる。
でも……でもさ、もう少し言い方があるだろう。
あなたが気持ち悪いと言ったその幼虫はやがて美しい蝶になる。
そのことを知らないことが悲しい。
母に怒鳴られて叱咤された女の子はどんな気持ちになっただろう。
私の母は虫はおろか生き物全般が駄目な人だったが、いつも遠くからすごいねと褒めてくれた。
家庭の事情もあるだろう。たまたま機嫌が悪かったのかもしれない。
でもやっぱり悲しいよ。
道端に打ち捨てられた幼虫は幸い無事だった。
「立派な蝶になってね」
おそらく幼虫がいたであろうミカンの木に戻しながら声をかける。
願わくば、今度は蝶となってあの母娘に笑顔を届けてほしい。
そう祈りながら。