第9話 王様と執務室で
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──「ご苦労だった」
扉の向こうの室内にいるであろう人物……国王に応対をされたからには、本来なら速やかに入室しなければならないのだろうが、ルーシーの身体は硬直し中々動いてはくれなかった。
「シュナイダー補佐官。どこかお身体がお辛いのですか?」
少々の間、動かずにいたので、テレサからは心配をされる始末だった。
「い、いえ……、大丈夫です。……行きます」
そうして意を決して入室すると、目の前に一筋の光が飛び込んできた。
天窓から差し込むその光は、まるで森の中に木漏れ日が差し込んでいるようで美しく感じる。
「シュナイダー補佐官?」
思わず光に気を取られて、無言のままでいたルーシーに対して、執務室の奥に設置してある執務椅子に座る人物が、見かねて声をかけた。
瞬間、ルーシーは我に帰り、声をかけてきた人物──国王に向き直って深々と頭を下げた。
「申し訳ありません!」
国王は小さく息を吐いた。
「……いや、かまわない。それよりも、急に呼び出してすまないな」
ルーシーは疾風のごとく、首を横に振った。
「…………いえ、それでご用件は何でしょうか」
と言いつつ、ルーシーは大体心当たりがあった。
おそらく、昨日の「仕事」のことだろう。
「昨日の魔物討伐の件だが、魔物の様子は君から見たらどうだろうか。映像はすでに確認し私なりに分析はしてみたのだが、総隊長の君からも意見を聞かせてもらえたらと思ってな」
「魔物討伐」の言葉を耳にした途端、ルーシーの目前には自然と昨日の光景が思い浮かんだ。
被害こそ出さなかったものの、その魔物らは竣敏で全く気を緩められる隙もなく、全てを討伐するまで気を抜くことが出来なかった。
だが、そのことを詳細に彼に伝えるにはより冷静でならければならず、今の彼女には難儀なことであった。
「…………はい。昨日現れた魔物は合計八体で、……いずれも風属性の『風魔鳥』でしたが、……以前よりも手強かったように感じました」
「やはりそうか」
そう、無表情で何かを分析するような仕草をする彼の様子を眺めていると、ルーシーは生きた心地がしなかった。
(テレサさんはああ言っていたけど、やっぱり、恐いよ……。無表情だし、何だかわからないけど謎のオーラが出てる気がするし、圧もすごいし……)
思わず現実逃避をしたくなり、昨日会ったばかりの彼女の恋人であるテナーの笑顔を思い浮かべて、緊張をどうにかほぐそうとした。
「風魔鳥は、君の火属性魔法で仕留めることが多かったようだが」
「は、はい⁉︎」
どうにも自身の昨日の判断を否定されそうな語気を感じたのと、テナーの顔を思い浮かべていて気が散っていたのも相まって、思わずルーシーの声は裏返った。
「申し訳ありません‼︎」
「いや、構わない。やはり他の隊員らの魔法では力不足なのかもしれないな」
ルーシーの思考は固く閉ざされ、彼の言葉が上手く脳裏に溶け込んでくれず、返答をするのだけで寸秒を要した。
「…………はい。私の力不足です。……申し訳ありません……」
国王は軽く眉をひそめて、小さく息を吐いた。
「君を責めているわけではなく、客観的に考えてそうなのであれば何か策を練らねばならない。特に上位魔法を使用可能な魔法士は君をはじめ、討伐隊の中では数人しかいないのが現状だ。それは人員を確保するほかには中々変えられるものではないから、他に策がないか私も練ってみたいと思う。なので参考に、よかったら君の意見も聞かせてもらえないだろうか」
例によってルーシーの思考は停滞し、今度は一時の時間を要してようやく口を開いた。
「……その、私は総隊長ですし、……隊員の皆さんの命をお預かりしている立場です。……ですので私が責任を持って討伐に当たるのは……当然だと考えています」
(自己犠牲的思考。実に君らしい考えだ。……だがそれでは駄目だ)
次の瞬間、彼の目前には黒髪のロングヘアの少女が現れた。
その少女はそっと彼を見つけると、満面の笑顔で笑いかける。……だが、彼女は『禁断の魔法』を使用し、自分の前から消えてしまったのだった。
「陛下?」
今度は彼の方が一時の時間思考していたようで、ルーシーが心配そうに声をかけたので気が付き、続けた。
「一人の人間が大きな負担を強いられるのは好ましくはない。……現在検討していることはあるが、それも根本的な解決とはならないから、何か気づいたことがあれば教えてもらえないだろうか」
ルーシーは自分の不甲斐なさを指摘されているのだと思い、身を硬直させながら頷いた。
「……は、はい」
それからも、国王からいくつか質問をされる度にルーシーは義務的に答えていき、どうにか彼の疑念は払拭されたようで、この時間から解放されそうだった。
「……昨日は君は非番だったはずだが、急に討伐の任務にあたったそうだな。ご苦労だった」
「…………いえ、当然のことをしたまでですから」
そう言いながらも、ルーシーは魔物が出現したら必ず自分が出動しなければならない今の現状に不安を覚えていたが、今とてもここでは打ち明けられそうになかった。
だが、だからと言って一体この不安は誰に打ち明ければよいのか、彼女は考えあぐねていた。
というのも、恋人のテナーに打ち明けることも考えたのだが、仕事が絡む話は守秘義務も多く、その話題で会話をするとつい機密事項も漏らしてしまうかもしれないから気も使うし……と思って控えているらしい。
「……それでは、後ほど報告書を提出しますので。これで、失礼致します」
「ああ、ご苦労だった」
頭を深々と下げ、ルーシーは細心の注意を払って執務室を後にした。
彼女は王城を出た後、大きく息を吐き出しようやく安堵したのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
ともかくルーシーは人見知りの性格もあってか、国王に対して畏怖感や警戒感等を抱いており、とてもまともに会話をすることが出来ません。
次回も、お読みいただけたら嬉しいです。
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