第7話 ルーシーの仕事
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今回は、ルーシーの仕事の紹介のお話となっています。
翌日の朝八時前。
ルーシーはマギア王国の王城の敷地内に建てられた、十階建てのビルの自動扉をくぐった。
その建物には、彼女の職場である魔法庁・魔法士部内の『国家魔法士 対魔物魔法士隊』のオフィスが二階に入っている。
国家魔法士とは、国家公務員の魔法士であり、魔法大国として知られるマギア王国は他のブリング大陸の国々よりも、以前は国家魔法士の合格倍率が高かった。
だが、ルーシーが入庁した年の採用試験は例年に比べると、その倍率が然程高くは無かったことに加え、毎夜寝る間も惜しんで試験対策を行ったことも奏したのか、彼女は何とか合格することが出来たのだった。
ただ、近年の国家魔法士の倍率は、前述の『魔物』の存在により急激に低下し、最近では離職者も増え、人手不足に悩まされることとなった。
魔法士なら必ずしも全員魔物討伐をしなければならないわけではないが、『対魔物魔法士隊』は魔物が出現した三年前から急遽結成され、それは離職者や異動希望者が後をたたなかったのだ。
そのため、不足分の人員は魔法士課の他の課からの異動で人員を確保しているので、国家魔法士であると魔物討伐に参加させられる可能性が高くなるので希望者自体が減少したと言うわけである。
◇◇
この世界の長い歴史の中で、五百年ほど前にそれまで存在していた魔物が突如姿を消し、人々から脅威が一つ去っていたのだが、何故か三年ほど前に再び魔物が、
──それも、世界中でマギア王国の東南部だけに出現するようになった。
その魔物と対抗できる存在は少なく、少なくとも国家魔法士級のレベルの魔法士でなければ、太刀打ちができないのだ。
そのため、魔法士たちは魔物討伐に駆り出されていくのだが、元々魔物を討伐するつもりで職に就いた者はほとんどいなかったし、魔物の攻撃力は破壊的なほど強力で、これまでは奇跡的に命を落とす者はいなかったが、重傷者は複数でている。
よって、自然と国家魔法士自体が、世間からなり手の少ない職として位置付けられたのだった。
◇◇
「シュナイダー補佐官、おはようございます」
ルーシーがオフィスに入ると、次々と周囲の職員から彼女に対して声がかけられた。
「おはようございます」
それらの挨拶に対して、ルーシーは柔かに応えた。
ちなみに、魔法士は全員魔法士専用の制服を身につけており、それは法衣に近いデザインで、白地に水色のラインが所々入っている。
ルーシーは自席に座ると、早速電子端末を手にして仕事を始めた。
──端末を確認していくと、国王からの呼び出しの連絡が届いており、ルーシーは思わず小さく息を吐いた。
ルーシーは、先ほどの魔物討伐にまつわる事情や同僚や上司が次々と辞職してしまったこと、彼女の魔物討伐能力が評価されたこと等を経て、入庁三年目にして異例の出世を重ねて、魔法士課の中では三番目に高い役職の補佐官を任されていた。
だが、本人や同僚的にそれは出来る限り任されたくはないポジションであり、むしろ同僚たちは自分が重い責任を負わなくて良いので内心安堵しているくらいだった。
どうやら、上の立場の人々は高い魔法能力を持つルーシーに責任を与えることによって、彼女の離職を防ごうとしているらしい。
以上のことから、ルーシーは今の現状に非常に不安を抱いているのであった。
ちなみに、入庁三年目なので役職手当が付いていてはいるが同年代の一般企業の平均月収よりも低い水準の給料であり、正直ルーシーが強くものが言える性格であったら、とうの昔に彼女も辞職をしていたかもしれない。
ただ、そもそもルーシーが国家魔法士を志した理由が『魔物討伐』であったので、挫けそうになるといつもそれを思い出し、自身を奮い立たせていた。
ともかく彼女は、国王からの呼び出しの連絡が届いており個人的な感情からあまり気は乗らなかったが、予定時刻が近づくと国王の執務室がある王城へと向かったのだった。
ちなみに、その王城は約十年ほど前に改築されており、建物内は現代の建築物と変わりはなかったが、外見だけ中世の城の物を残してあった。
王城へは徒歩五分もかからずに着くことが出来るほど近いのだが、ルーシーは重い足取りで一階の受付へと移動したのだった。
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