第6話 ルーシーの本音
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軽自動車を走らせて、王城の敷地近辺に建てられた国家魔法士の宿舎専用の駐車場へ着くと、ルーシーは車をバックで駐車していく。
機械全般は苦手なのに、何故か車の運転は得意な方であった。
降車し一連の動作をした後、ルーシーは宿舎の自分の部屋のある三階へと向かうべく、玄関ホールへ入るとエレベーターのボタンを押してその到着を待った。
エレベーターが到着すると、ちょうどそこには同僚のライムが乗っていた。
彼女の髪型は緑色のボブだが、今日は緑色の半袖Tシャツに黒のデニムの短パンをはいていて、彼女の髪型によく似合っているように思えた。
「こんばんは、ライムさん」
「……ああ、こんばんはルーシーさん」
ぼんやりしながらライムはエレベーターを降りて、軽く一礼して去っていった。
その手には財布のみ持っていたので、近くのコンビニに買い物にでも行くのだろうか。
それから、ルーシーはエレベーターで三階に上がって、自室の三〇三号室へと解錠して室内へ入った。
この部屋は単身者用なので、間取りは一LKであり、ルーシーにとっては今までの人生の中で一番広い自宅だった。
「ただいまー」
ルーシーは一人暮らしなので、室内には誰もいないのだがつい挨拶をしてしまうのだった。
靴を脱いで、手洗いなどを済ませると六畳の自室へ移って、ラフな半袖のTシャツと短パンに着替える。
そして、リビングのテーブルにとりあえず冷蔵庫からアイスティーをコップに注いで持っていき、椅子に座ってそれを飲んだ。
「……はあ、美味しい」
ルーシーは落ち着いたのか、先ほどテナーにもらったスノードームをテーブルの上に置き、ラメを散らすとそれに夢中になる。
「テナー君、大好き。でも……」
ルーシーは、ふと表情を暗くした。
「……もっと一緒にいたいな……」
そう呟くと、もう一度スノードームを動かしラメを散らしたのだった。
これまで、テナーのバイトの都合もあり、どんなに遅くともデートの時間が十九時を過ぎることはなかった。
ルーシーは、それに関して不満があるわけではないが、ただもう少し一緒にいたいという気持ちが純粋に沸き起こるのだ。
そして、もう少し触れ合いたい。
「バイトなら、仕方ないよね……」
そう思いながら夕食を食べようと思い立ち、冷凍庫からタッパーを取り出し白身魚のマリネやキッシュをレンジで解凍してから、皿に盛り付けて更にパンを添えてトレイでテーブルに運んで夕食を食べ始めた。
食事の途中でテレビの電源を付けると、ニュース番組を放送していた。
「……やっぱり、早速午前中の魔物討伐のニュースやってる……」
番組では『今朝マギア王国の東南部の森林に、複数の風属性の魔物が現れた』とニュースキャスターが淡々と伝えている。
ルーシーは、ふと自身の防水仕様の腕時計を見た。
それは、時計機能を兼ね備えた魔物が出現した際の受信機で、そのブザーが鳴り響くことは魔物が出現したことを指している。
「……流石に、今日はもう出ないよね……」
呟いた後に、ルーシーは妙な感覚を覚えた。
「私が責任者になってから、まだ負傷者は出ていないけど、……何故だろう、すごく嫌な予感がする……」
ルーシーのそういう類の予感は大方当たり、やはりそれはじきに当たることになるのだった
「……はあ、テナー君に抱きしめて欲しいな……」
夕飯も終わり、皿洗いをしているとつい本音が漏れた。
今日は、魔物討伐があったから、精神的に疲弊しているのだ。
先ほどまで一緒にいられただけでも満足感を抱いているのだが、幸せに慣れるとついそれ以上を望んでしまうのは、人の常だ。
「……私から抱きしめる?」
と言っても、具体的にどこで、どんな場面でそれを行えば良いのだろうか。
「……そうだ、以前やってたドラマでは、夜の公園で抱き合ってた!」
皿洗いを終えてリビングのソファーに腰掛け、思考を巡らせる。
「でも、夜に会うことってないし、うーん、公共の場所ではちょっと……。やっぱり、自宅?」
そうは言っても、どうやらテナーは実家暮らしらしいし、ルーシーは宿舎暮らしで、男性を連れ込んだりしたらすぐに噂が立つことだろう。
「どこで抱きつけばよいんだろう……」
そう思案をすると、ふと思いつく。
「……そうだ、あそこなら……大丈夫、かな? ちょっと狭いけど……」
呟くと、微笑み浴室へと向かったのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
ルーシーの家は、こういう感じだということが、少しでも伝わったら幸いです。
また、何処でことをなそうとしているかは、3章中に判明する予定です。
また、次回から新章となります。主に「ルーシーの仕事」がメインの話ですが、この章から「国王」も登場予定です。
次回も、お読みいただけたら嬉しいです。
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