第57話 感謝祭
ご覧いただき、ありがとうございます。
あれから約一ヶ月後の十二月十日。
今日はブリング大陸全土で共通の祭事「感謝祭」が行われる日である。
それはかれこれ千年以上続いているイベントであり、古くから大陸に存在するルート教を起源としている。
ちなみに【マルティン聖堂】は、ルート教の一派が拠点としている聖堂であり、世間的には大陸に存在する数ある聖堂の一つでしかなかった。
また、一般的に感謝祭は、家族や身近な人や感謝を伝えたい人に贈り物を贈って感謝の言葉を伝える日なのだが、ここマギア王国ではもう一つ別の意味があった。
────それは、約六年前に起きた反乱が終結した記念日である。
そのため、現在マギア王国の王城の大広間では盛大な感謝祭兼、内乱終結記念式典が行われているのであった。
□□□□□
「ルーシーさん、そろそろ交代の時間です」
そう爽やかな笑顔でルーシーに声をかけたのは、職場の同僚のオズであった。側にはライムとタオもいる。
ルーシーは、キマイラとの戦闘の果てに生死を彷徨ったが、奇跡的に意識を取り戻し、そのままセイント病院で入院をしていた。
そして日々リハビリ等を行った結果、二週間程で通常生活を送れるほど回復をしたので、退院をして復職したというわけである。
ちなみに職場には、一人暮らしの彼女を気遣ってソフィアが代理で「季節性の風邪にかかってしばらく療養したい」旨を伝えやり過ごしたのだった。
「もうそんな時間なんですね。ありがとうございます」
ライムとタオは会場に入るなり、上手で来賓客と談笑しているレオンの姿を捉えると目を輝かせた。
「やっぱり肉眼で見る陛下は違うわね! オールバックの髪型最高!」
声を弾ませるライムにタオも意気揚々と同意する。
「本当ですよ! ちょうどその時私たちは休憩中だったから今初めて見られましたけど、……感謝します、神様……」
急に両手を合わせて神に祈り始めた二人に、ルーシーはどうしたものかと思うが、その意見には激しく同意した。
「そうですよね‼︎ 私なんて刺激が強すぎて、まともに見られないです!」
意外な返答に一同思わず驚いた。と言うのも、少し前の彼女であればレオンを敬遠していて好意的な意見に同意をすることもなかっただろうからだ。
「……ルーシーさんも、ついに陛下の魅力に気がついたんですね!」
「良かったら後で、とっておきの写真を送りますよ」
タオの申し出に目を輝かせて頷くが、ミトスが咳払いをしたので、今おかれている状況を思い出す。
加えて、ルーシーが誰と付き合っているのかを察しているオズは笑みを浮かべているが、どこか真剣な面持ちで彼女に耳打ちした。
「……そろそろ、皆に打ち明けても良いんじゃないですか? ここにいる仲間はお二人が互いに息を合わせて、人々のために尽力していたのを知っています。ああは言っていますけど、悪い気を起こす人はいませんから」
ルーシーは内心ヒヤリとしながらも、彼の言葉を飲み込むと小さく頷いた。
「……はい。その時はきちんと私の口から皆さんにお話したいと思います」
そう言って真っ直ぐを自分を見つめる彼女にオズは、やはり敵わないなと思った。
「……そろそろ行きましょうか」
「そうですね。僕も会話に混ざりたいところですが、休憩に入りましょうか」
「行ってらっしゃい。ごゆっくり」
オズたちに見送られ、二人は休憩室へと向かった。
「もう二十時ですか。時が経つのは早いですね」
「そうですね。私たちは休憩を終えたら、後は会場の片付けのお手伝いをすれば良いのであともう一息ですね」
国家魔法士たちは、毎年式典が開かれる際は、大方が裏方にまわり、会場の警備や招待客の身辺チェックを魔法で行う役目を担う。
その際はいつもの仕事着ではなく、皆正装用の魔法士専用の制服を着用していた。
加えて、毎年ルーシーは会場の上方で演説や談笑を行うレオンの姿を隅で遠目で彼の存在を遠くに感じるばかりだったが、今年は先程彼女が言っていたように、姿を見かける度に鼓動が高鳴り頬を赤らめているのだった。
(燕尾服姿が素敵過ぎて……、やっぱり私には刺激が強すぎるよ……)
思い出すと再び顔を赤らめるが、深呼吸をしてどうにか平常心を保とうとする。
「それにしても、魔物が殆ど出現しなくなって数ヶ月経ちますが、何故でしょうね。いえ、もちろん安堵はしているのですが、純粋に疑問には思います」
ミトスの問いかけに、ルーシーも同感なのか深く頷いた。
「そうですね。……様々な専門家の方が検証を行ってはいるようですが、確たる結論には至っていないようですし……」
と言うのも、キマイラが討伐されたあの日の夜。
レオンたち三人が、この星を包む蒼の力が特にこの地方だけ著しく「負の力」の方に傾いていた状態を蒼の力で訂正し均等を保ったことで魔物が出現しなくなったのだが、そのことに関しては世界に関する秘密に当たることなので、彼らからもルーシーには説明していなかいのだ。
もちろん「蒼の狭間」に関しては彼女も当然疑問には感じたが、三人がおもや知っているとも思わず特に今まで触れないで来たらしい。
「でも正直、あれから僕たち討伐隊は殆ど出動もないですし、……ようやく平穏が戻って嬉しいですね」
「本当に、そうですね」
魔物討伐隊は、今では半月に一度程出現する低レベルの魔物の討伐を行うのみで、後は通常の魔法士の業務を行って過ごしていた。
そもそもその魔物自体も、時を経れば出現しなくなる可能性もあると称える専門家もいるくらいなので、討伐隊の解体もありえるかもしれないと囁かれている。
ルーシーがミトスの言葉にしみじみと同感している時だった。
「ルーシー!」
背後から良く知っている声がかけられると、反射的に振り返った。
「ソフィアさん! ジークさんも!」
二人は満面の笑みで駆けつけて来るが、何処かその表情には疲労の色が伺える。
また二人は今回の式典の招待客なので、それぞれイブニングドレスと燕尾服の正装に身を包んでいた。
ソフィアはロングの銀髪を頭の上で束ねて髪飾りで纏めており、その耳で揺れるピアスがより引き立つように感じる。
ジークも、普段とは違うオールバックで固められた黒髪が、より凛々しく見えた。
「二人ともよく似合ってます! ……それにしても、少しお疲れ様気味ですか? もし良かったら休憩室にご案内しますけど……」
二人は慌てて首を横に振った。
「ううん、それは大丈夫。何しろあいつにこき使われて、今まで……」
ジークは旨を言おうとしたソフィアの肩に思わず手を当てると、首を横に振った。
「あのルーシーさん。僕は先に行っていますね」
「は、はい!」
急に取り込み始めた彼らを見て、何かを察してミトスは右手を振りながら先に休憩室へと向かったのだった。
彼を見送ると、ソフィアの肩にかけられたジークの右手の薬指に指輪が嵌められているのに気が付き、咄嗟にソフィアのその手の同じ指にも嵌められていることに気がつく。
ルーシーはすぐに気づいて、思い切って聞いてみることにした。
「……あの、二人ってお付き合いされてるんですか?」
思わぬ問いかけに顔を見合わせるが、ソフィアはそっと儚げに微笑んで頷いた。
「うん、実はそうなの。……よりを戻すのも、もう今回で三回目なんだけどね……」
「そ、そうなんですね……」
思わず聞いてはいけないことを聞いてしまったと思った。
「今回は、別れてた期間が半年ぐらいだったかな。……俺がソフィアのチョコを勝手に食べたのが原因で……」
「チョコ?」
間の抜けた声で返してしまうと、ソフィアが慌てて制止させようとする。
「そんな恥ずかしいことを暴露しなくていいから! ……それよりもルーシー、ちょっと今から私たちと来てくれないかしら」
「今からですか? 一時間程休憩なのでその間でよければ」
「ああ、時間のことなら気にしなくて大丈夫だ。予め根回しはしてあるから」
「根回し?」
「そう。あなたの上司のナオ士務長官には許可を取ってるから、これから抜けても大丈夫よ」
突然の申し出に慌てるが、ナオが片付けは今年から部署ごとに順番で回そうと言っていたことを思い出す。それによってルーシーの部署は来年が当番となったのだ。
だが、そうであっても気が引けたので参加はしようと思っていたのだが、二人の嘆願とも言える表情を読み解くと、頷いていた。
「……分かりました」
「良かった。それでは行きましょう」
ドレスの裾を軽く翻して、ソフィアはルーシーの手を取ると、王城のあるエリアへと向かったのだった。
□□□□□
ソフィアが案内した先は、いつかルーシーとレオンが作戦会議を行った応接間だった。
(……ここは……)
初めてレオンとして彼に抱きしめてもらった場所であることを意識すると、鼓動が再び高鳴り顔も赤くなってくる。
そんな様子には特に気がつかず、ソフィアが扉を開くと、中にはテレサとマサとダニエルが既に待機をしていた。
「お待ちしておりました」
「さあ、今から腕がなるわね!」
満面の笑みで出迎える二人の国王の秘書と侍従の存在にルーシーは唖然とするが、ソフィアは構わず彼女を室内に誘導すると、ジークとダニエルに目で合図を送る。
「じゃあ、俺は会場に戻るな」
「私もここで失礼します」
扉を開いて退室しようとするダニエルに、テレサは思わず声をかけた。
「あの、ダニエルさん」
「はい、何でしょうか」
小さく手のひらを握りしめて、テレサは次の言葉を紡ぐ。
「……前日のお願いにも関わらず、無理を通していただいてありがとうございました」
「……いえ、構いません」
少しだけ苦笑しながら、ダニエルは名残惜しそうに彼女を眺めるが、すぐに向き直して歩みを再び始める。
「このお礼は、後日必ずさせてください」
彼は思わず振り返り、柔らかいテレサの表情を一目見ると、彼もつられて微笑んだ。
「……楽しみにしています」
そして扉が閉まると、それが合図かの如く三人の女性が素早く動き始める。
「さあ、時間まであまり時間が無いわよ」
「私達は休憩時間の関係で、二十一時前までしかここにいられませんからね。後はソフィアさんにお願いしますが……」
テレサがソフィアに視線を移すと、彼女は笑顔で頷いた。
「任せてください。こう見えて結構こう言うの得意なんです、私」
三人がテンポよく会話をしている様に、ルーシーは益々唖然とするが、今度はテレサに促されて応接間の隅に置かれたハンガーラックの前に移動した。
そのラック部には色とりどりのドレスがかけられている。
「ルーシーさん、この中でお気に召す衣服はありますか?」
「え? ……と言いますと……」
状況が全く把握出来ておらず、しどろもどろになるルーシーに、マサは優しい口調で答えた。
「……これから、あなたをとても大切に思っている方が、あなたに会いたがっています」
(大切な方って、……もしかして……)
途端にルーシーの鼓動が高まり、涙が自然と溢れてくる。
「特に秘書二人は直接は伺っていないのですが、最近のへ……彼の普段とは違う様子に私共で気が付き、追求……いえ、お訊ねしたところ、どうやら今夜何かあるらしいことを突き止めたのです」
思わずソフィアが、小声でマサに耳打ちした。
「テレサさんって、もしかして意外とボロが出やすいんですか?」
「ええ、そうなの」
二人は、再び何だか微笑ましく思いながら、テレサを眺める。
補足をすると、三人がこの国が内乱時に知り合っており、連絡先は知っていたので、本件で協力者を探していたソフィアがダメ元でテレサに連絡したら、すんなり通ったと言うわけである。
「……そうだった……んですね。私にはとても、もったいないです」
ルーシーは身に余ると断ろうと思ったが、先日の深層世界での言葉を思い出した。
『……自信が無くて、誰かと対等になるのが恐かった……。その人たちのことを考えられていなかったんだ』
(……そうだ。ここで断ったら皆さんの気持ちを踏み躙ることに、考えてないことになる)
ルーシーはそっと微笑み、その目からは涙が溢れた。
「皆さん、私のために本当にありがとうございます。……嬉しいです」
その笑顔は、三人の胸の中にスッと溶けていき、優しい気持ちになったのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次話はエピローグとなります。
最後までお付き合いいただけると、嬉しいです。
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