第51話 魔法の無効化
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魔物討伐回3回目です。
「ルーシー、やはり君は……どんな時でも君なんだな」
レオンはそう呟くと自分の不甲斐なさも込み上げて来たが、ともかく目の前の魔物を倒す算段を立てようと思考を巡らせ続ける。
それはルーシーが、ソフィアに回復魔法を使用し声をかけている間のものの三十秒にも満たぬ間であり、レオンはジークに頷いて合図を送ると彼も小さく頷いた。
ジークとレオンは各々詠唱を始める。
『対象者に炎の守りを! フレイム・プロテクト!』
『対象者よ水流に包まれよ! アクア・モスト!』
それぞれ火属性耐性魔法と高位水属性攻撃魔法であり、それらは瞬く間に彼らを守り、またキマイラに目掛けて放たれていった。
瞬間、キマイラの周囲には強力な水が集まり、多方向から一斉にその圧力が加わる。
そして一気に水力で魔物を制す……と一同思ったが、その結果は違っていた。
「え? ……嘘……」
ルーシーは思わず呟き唖然とした。
レオンが放った強力な水属性魔法は水流となって魔物の周囲を覆ったのだが、次の瞬間、その水はまるで最初から存在などしていなかったかのように喪失した。
────打ち消されたのだ。
「……魔法の無効化か……?」
レオンは思わず目を見開き、ジークは何が起きたのか飲み込むと動揺を隠せなかった。
「どう言うことだ? 魔物は高位魔法でしか倒せないんじゃなかったのか?」
そう呟くと、ことの重大さを次第に飲み込みジークの身体が、小刻みに震えた。
離れた先で見守っていたルーシーとソフィアも、思わず打ちひしがれた。
「……もう一度やってみたらどうかしら。今のは、たまたま効かなかっただけかもしれないし……」
ソフィアの提案に、レオンは小さく首を横に振った。
「いや、その可能性は極めて低いだろう。魔法の的中率は高く、高位魔法ともなればほぼ十割に近いからな」
「じゃあ……」
レオンは小さく息を吐きながら頷いた。
「ああ。あの魔物は魔法が効かないんだろう」
これまで息を呑んで様子を見守っていたルーシーだが、あまりの事実に思わず呟いた。
「そんな……。そんなのどうしたら……」
レオンは目を閉じ思案すると、ある結論に至り口を開こうとするが、すんでのところで突然巨大な氷の粒が降り注ぐ。
「………くっ!」
不意打ちの攻撃に、レオンは防ぐことが出来ずほぼ一身に受け、そのままバランスを崩し森林の下まで落下した。
木々の枝がクッションになり衝撃を和らげるが、レオンの意識は遠くなりそのまま地面に直撃するかと思われたが、次の瞬間────
「レオンさん‼︎」
直前でルーシーの強い叫び声が彼の意識を覚醒し、レオン自身が咄嗟に飛翔魔法を使用し難を逃れることが出来た。
「……一瞬が命取りだな……」
そう呟くと控えめに魔物の後方に飛び立つ。
「大丈夫ですか⁉︎」
「ああ、問題ない。心配をかけたな」
すぐさま駆けつけて来たルーシーは右手をかざした。
『ヒーリング・モスト!』
ルーシーの詠唱した上級回復魔法は煌めく光を発生させ、レオンを優しく包み込んだ。
「ありがとう。……加えて君を巻き込んでしまい申し訳無い。だが今は一刻を争う事態だ。……非常に不甲斐ないが、協力してもらえるだろうか」
「そんなの当たり前です!」
思わず彼女の語気は強くなり、その眉はつり上がる。初めてレオンに対して怒りを露わにした瞬間だった。
「……もっと、私を頼って欲しいです! もしあなたに何かあったらって考えただけでも……辛いんですから」
思わず一筋の涙が溢れる。
「……すまない」
レオンは自身の指でその涙を拭った。そして、息を小さく吐き出し思考を透明にする。
「ルーシー、あの魔物は魔法の攻撃を受け付けない。だから通常通りの攻撃魔法では駄目だ。……だがおそらく……」
レオンは詳細を速やかに伝えて行く。次第に彼女の目は見開き、瞬時にジークの方へと視線を移した。
「……でも、いくらその方法でも物理攻撃では……」
「ああ。必ず上手くいく確証はないが、ともかく今は試してみるしかない」
ルーシーは素早く頷くとレオンに目で合図を送り、彼らはジークの方へと素早く空中を駆けて行った。
□□□□□
ルーシーたち二人がジークの元へと駆けつける少し前、キマイラはジークに目掛けて強力な風を巻き起こし、彼は為す術もなく彼はそのまま吹き飛ばされて行く。
『対象者よ、減速せよ! デザレイト!』
間一髪のところでソフィアが杖を翳し、ジークに対して減速魔法を使用した。
彼の身体は途端に時空の流れに逆らいゆっくりと下降していき、ジークは息を吐きながら自身に飛翔魔法をかけ直し冷や汗を拭った。
「……火属性の魔物じゃなかったのか⁉︎」
「さっきは氷の攻撃でレオンを襲ったし、今度は風属性。……もしかして多属性とか? ほら身体にいくつも生命体が宿ってるみたいだし」
「多属性って……。攻撃魔法も効かないしこんなのどうすればいいんだよ」
ジークが投げやりに言い捨てると、ソフィアは彼の手に握られている長剣に視線を移した。
「そうだ、ティソナで直接攻撃をするのはどうかしら。ティソナは特別な『蒼の力を纏った剣』だから、魔物に通用するんじゃない?」
「……そうだな、他に良い考えも浮かばないしやってみるか」
ジークはそのまま飛翔魔法で空を登り、ティソナを改めて両手で構えると降下しながら剣を振り翳しキマイラの胴体を狙い勢いよく突き刺した。
「……やった、か?」
────だが、剣を抜いた瞬間その傷は塞がってしまった。
「やっぱり駄目か」
次の瞬間、剣を抜いたことによる振動のためか、キマイラの身体全体が揺れジークの身体は振り落とされる。
「………………わあああああああっ!」
数秒落下したところで、丁度ルーシーとレオンが彼の元へと向かっておりレオンが彼を受け止め、ルーシーが咄嗟に二人に対して減速魔法を使用したので大事は免れた。
「大丈夫ですか⁉︎」
「……ああ、大丈夫だ。ありがとうルーシー」
「い、いえ」
ジークの無邪気な笑顔を見ていると、心がくすぐったかった。
「そうだ、ジークさんにお願いがあるんです。……そうですよね、レオンさん」
「ああ」
その二人のやり取りに、ジークは内心少々寂しさを感じた。
それはルーシーが、自分の知らないうちにすっかり「レオン」と打ち解けているからなのだが、同時に自分たちが選択した行動はやはり微力ながら彼女のためになったのだとも実感した。
「ジーク、ティソナに……」
レオンが詳細を説明しようとするが、キマイラの焔の攻撃が襲いかかり一同瞬時のその場から離れたが、キマイラはなお執拗に強力な焔を繰り出し、それを弱める気配は無い。
『対象者に強固な守りを! プロテクト・モスト!』
ソフィアは咄嗟に最高位防御魔法を唱え、それは彼女たち四人の周囲に透明な強固な防御膜を張った。
それは間一髪のところで襲いくる豪炎の焔を彼らから守り、一同大きな息を吐いてそれを見送った。
そしてレオンは、詳細を改めてジークに切り出す。
「ジーク、ティソナに魔法をかけよう」
ジークとソフィアは思わず顔を見合わせたのだった。
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